依頼と約束!〜ビガルダの毒沼〜②
5月6日 午前9時32分更新
5月6日 午後14時20分更新
〜午前10時 ビガルダの毒沼 霧の裂け目〜
三人と別れ、毒沼へ続く巌穴の前に立つ。
「かなり大きな亀裂だ」
霧はこの穴から吹き出し辺りに充満しているようだ。
竜の巣と違い、毒沼の地性を利用する人が多いからだろうか?粗末な木の看板に……『ここから先、危険!』と書き殴った赤い文字で警告文が書かれている。
「毒沼は初めてかい?」
見知らぬ初老の亜人に声を掛けられた。
「あ、はい」
「忠告しとくが奥へ足を踏み入れるのは止めとけ」
「……」
「……他の連中と同じで兄ちゃんも自信はあるんだろーが、此処は恐ろしい危険区域だ……腕っ節だけでどうにかなる場所じゃねーのさ」
寧ろ俺には天国みたいな場所だと思うけど?まぁ適当に合わせとこう。
「ご忠告感謝します……えーっと名前は?」
「俺はこのキャンプ場を管理してるマルタってんだ」
管理人さんか!
「珍しい格好してるが冒険者か?」
頷き簡単に自己紹介する。
「俺の名前は黒永悠です」
「!」
マルタさんは傷痕で、引き攣った顔を強張らせ驚く。
「……兄ちゃんがあの有名な『辺境の英雄』だと?」
懐からギルドカードを取り出して見せる。
「本人ですよ」
「そりゃSSランクの……驚いた!まさか本物とは……猿に木登りを教えるみてーに偉そうに言っちまったぜ」
「いやいや」
彼はポケットから年季の入ったパイプを口元に運び、火を点ける。昔を懐かしむような眼差しを向け、煙を吐き出した。
「……契約者、か。『鬼夜叉』の旦那さんを思い出しちまうな」
「リョウマ・ナナキを?」
「俺ぁ若ぇ時分に一緒に奥まで行ったことがある」
「へぇ」
「リョウマの旦那は従魔のお陰か状態異常を無効化する力をもっててな……へへへっ!こっちが毒で参ってんのに平然と隣で飯を食うんだぜ?」
状態異常を無効化って俺と被ってんなぁ。この場合、あっちが先だしこっちがパクリ?
「辛かったがありゃあ生涯で最高の冒険だった。ま、払った代償もそれなりにデカかったがな」
「!」
捲り上げたズボンの裾を見て目を見張る。彼の左足は義足だった。
「……もしかして貴方も冒険者だったのか?」
「ずっと昔の話だ」
パイプを吹かし、マルタさんは自嘲気味に薄く笑う。
「紆余曲折あって数十年前に管理人を名乗り、手前勝手に救助隊を作った偏屈ジジイだよ……ハハハ!」
きっと語り尽くせないストーリーがあったに違いない。
「興味本位で聞くがどんな用事で来たんだい?」
俺は自分が来た理由を簡単に説明した。
「エキドナと沈檎の蕾ねぇ……」
そう言うとマルタさんは目を細め口を開く。
「毒沼を越え、糞泥の塔林を進んだ先に『ビガルダ宮』って遺跡がある。そのビガルダ宮の最頂部こそ『破滅の祭壇』……伝説のエキドナの根城だ。俺の記憶が間違ってなけりゃ沈檎の蕾は塔林の『蛆溜り』って場所に咲く花の蕾のことじゃねぇかな…?」
「おお」
予期せぬ朗報ゲットだぜ!前は急げって言うし出発しよう。
「でも彼処は」
「ありがとうございました!そろそろ行きますね」
「お、おい」
礼を言いつつ、俺は意気揚々と巌穴に入った。
さぁドキドキワクワクの冒険の始まりだ!
〜同時刻〜
話の途中で振り返らず行ってしまった悠の背中が、暗がりと霧に消える。
「……話の途中だったんだがな」
パイプを吹かし物憂げな表情で呟いた。
「しかし、旦那に似てやがる」
容姿ではなく雰囲気や佇まいを指してるのだろう。
「マルタさーーん」
ホビットの青年が走って来る。
「どうしたデント」
「今朝、管理小屋に運ばれた冒険者ですけど重症化しちゃって容体が厳しいっす」
「……」
「原因は」
「沼主の吐息か体液が傷口に入ったんだろ?」
「あはっ!正解」
「この時期は繁殖期だからな……ガキと一緒に浅瀬にも出没しやがる」
「一応、注意喚起はしてるんですけどね〜」
「そんなもん連中にゃ焼石に水さ」
パイプの火種を飛ばし、マルタは巌穴に背を向ける。
「……どれ、そのくたばり損ないを診てやるか?運が良けりゃ解毒が間に合うかもしんねぇ」
「お願いしまっす」
彼とホビットの青年は管理小屋へ歩を進める。
「そーいえばマルタさんは聞きました?あの『辺境の英雄』が毒沼に来てるらしいっすよ」
「……」
「どんな用事で来たんすかね?」
「さあな」
彼は素知らぬ風を装い、適当にはぐらかすのだった。
〜午前10時30分 ビガルダの毒沼 呻きの浅瀬〜
ランプ代わりの鉱石が濃霧と足元を照らし、転ばないよう注意しつつ、暫く歩き進むと毒沼へ到着する。
「ほはーう」
粘着性のある沼水は不気味に泡立ち、グリーンの水霧を噴き出した。目に映る植物もこの悪環境に適応するためか、奇怪な形状へ成長している。太陽の届かない崖底で毒が作り出す生態系……悍ましさすら覚える風景だ。
でも、これはこれで美しい。美醜とは表裏一体なのだ。
「あは、あはは!チョウチョ!チョウチョだ!」
「し、しっかりしろ……」
「……うあああ゛〜……腹痛ぇ……腸が捩れそう」
「むぐぅ〜!んんーー!!」
誰も彼も脂汗を浮かべ呻きながら浅瀬の手前で蹲っていた。恐らく沼地の霧は毒・混乱・麻痺の状態異常を複合し誘発させている。
……俺はミコトのお陰で苦労してないけど、耐性取得とLv向上ってこんなに大変なのか。今更、言うまでもないけどマジで深淵の刻印は凄い耐性だ。
マップを……お!早速、青いマークが付近でいっぱい点滅しているぞ。
もしやあの一帯の青マークは沼地の水?
「……とりあえずその草陰と木だな」
採取してレッツ鑑定タイムだ。
〜数分後〜
「ふっふっふ!幸先良いスタートじゃん」
鑑定したキノコと果実を腰袋に収納しほくそ笑む。
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・採取アイテム
ビガルダマッシュ×15
ビガルダベリー×15
毒露の滴×3
濃縮毒蜜袋×3
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確信に近い予想だけど、この地の採取可能な素材は毒沼の有害な成分を大量に含んでるっぽい。鑑定文を読む限り、扱いは難しいが錬金術で使えば一味違ったポーションやアイテムを錬成できそうだ。
竜の巣とはまた違った特性である。結構、前にモミジが……地域特性継承素材がどうとか言ってたっけ?思い返せば他の魔窟で採取・採掘したアイテム類も特徴があった。
……今まで意識してなかったけど環境って重要!




