君の名は?⑨
4月23日 午前8時30分更新
4月26日 午後12時4分更新
4月26日 午後20時22分更新
「ふふ……自分の才能が嫌いだって愚痴ってたわ」
俺も踏み込んで詮索しない性格だし知らない一面だ。
「過ぎた力は身を滅ぼす諸刃の剣と一緒です」
他人事とは思えない台詞だった。
……ラウラが俺に口にした数々の言葉は自身の経験からくるものだったのか。契約者の俺も一緒……いや俺の方が質が悪いな。
「……ここだけの話だけどラウラの頼みじゃなきゃ俺は暫定でも十三翼加入の要請は断ってたと思う」
「……え?」
セノラは足を止め、俺を見上げた。
「ラウラの才能はスキル程度じゃ計れない」
「……」
「俺はそれを知ってるから手を貸すんだ」
あの若さでどれだけの重圧に耐えてるのか……他人には見せない悩みを抱え幾つの壁を乗り越えただろう?
才能って言葉は一種の呪いに等しい。
努力を放棄させ、諦念を受け入れさせる。
天稟はあるし、努力でどうにもならない領域は確かに存在するがそれを正当化してしまえば停滞しかないのだ。
「この先もずっと、な」
心の底から笑い、彼女に答えた。
〜同時刻〜
目の前が霞み、漏れそうな嗚咽を必死で堪える。
「この先もずっと、な」
……嗚呼、どうして君はいつだって僕が望む言葉を突然くれるの?
胸中に渦巻く想いの吐露に踏み切りたい衝動に駆られる。
ラウラは葛藤の中、成長してきた。父、母、兄、妹……レオンハート家は特殊な家庭環境で一般の家庭とは異なる。
代々、傑物を輩出し続ける獅子族屈指の名家……自国の王の名を知らぬ幼児も、レオンハートの字は知っているくらいだ。金獅子の二つ名はミトゥルー連邦の栄光の象徴と評しても過言ではない。
……しかし、人々を引きつけ感銘を与える強力な個人の性質は、交わらない個性でもある。
ゴウラの照らす強大な光は燦然と輝き、他の光を消してしまい血統がそうさせるのか……兄妹で選択の差が生まれる。
父を拒絶した兄は己の野望と理想を追求するべく、家族と群れを捨てた。
父を意に介さない妹は、己の思うがまま自由に輝くことを選んだ。
……そして、ラウラは先祖の庇護に身を委ねた。彼女は多くの尊敬を集め、皆に信頼される立派な先導者だ。
ただ、比較する対象の器が余りにも大き過ぎて拒んでしまう。他人には理解できない家族への複雑な劣等感への葛藤だったが、彼女は闇と出会う。
その闇は光を飲み込まず、美しく輝かせてくれる闇だった。
「……え!?き、急にどうした?」
涙目に気付いた悠が慌てふためく。
「ちょっと目にゴミが入って……ふふ」
人差し指で擦り、彼女は誤魔化した。
「そっか……俺が泣かせたのかと思って焦ったぜ」
「驚かせてごめんなさい」
「!?」
「……歩き疲れたし甘えてもいいですか?」
気持ちが弾んだラウラは、体を寄せ腕を絡める。
「………おー」
魅惑的な上目遣いと距離が縮まり緊張したのか、悠は上擦った声で応えた。
照れを隠すように顔を背け、素っ気なく振る舞う。
「ふふふ」
……でも、赤くなった両耳は隠せない。
仲睦まじく連れ添う姿は正に恋人同士のようだった。
〜5時間後〜
時間が経つのは早いもので、夕方に近付くにつれ涼しくなり始めた。その後もセノラは満足そうだったし、お互い今日が初対面とは思えない程、楽しく過ごせた。
……案内役を務めれた気が微塵もしないけどな。ぶっちゃけ側から見れば普通にデート?
まぁこーゆーのも役得さ!
頑張ってる俺へのご褒美だと思っとこう。
〜午後17時10分 第14区画 アーベントストリート〜
夕日に染まる街並みは、人々の営みを映し自然の情景とは違う美しさに心を震わせる。アーベントストリートは築山の区画で、雑誌にも載るベルカの景観スポットだ。
「夕陽に染まる都市……綺麗ですね」
隣で髪を掻き上げるセノラに見惚れる。
君の方が綺麗だよ……なんて気障な台詞を思わず、言いたくなるレベルで映えていた。
「そうだな」
親友の面影が重なり、変な感じだ。
「こんなに楽しい一日は本当に久しぶり」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
「私が仲良くなってラウラはヤキモチを焼くかも」
擽るような可愛い声色で自嘲するようにセノラは笑う。
「あはは!ラウラは男だぞ」
「……悠が好きだって言ってたよ」
「友達としてだろ?」
「……」
俺も友達としてラウラは好き……いや、まさかね?そーゆー意味じゃないさ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『……悠…ダメだよぅ……?』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あぁーーーーーー!!?つい変な妄想をしちまった……。
「どうしたの?凄い勢いで首を横に振ってるけど」
「む、虫がちょっとな!」
ラウラで妄想するとか俺は変態か?いや違う……ノーマル!ノーマルじゃい!!
「あはは、変なの」
静寂の後、聴こえる大都市の喧騒がBGMのようだ。
「……悠は好きな女の子っている?」
突然の質問に意図を計りかね驚く。
「また唐突な質問だな。正直、この手の話題は苦手で」
「私はいます」
「お、おう?」
言葉を遮りグッと顔を近付け、両手を握り締めるセノラの顔は夕陽のせいで真っ赤に染まっていた。
「セノラみたいな娘に想われるなんて幸せ者だな」
「……本当にそう思う?」
「ああ」
「彼は物凄く鈍感で私の気持ちに気付いてくれない」
「……」
「挙句、他の娘にも愛想を振り撒いてばかり……お金にも無頓着だし」
「うーん…」
……話を聞く限り面倒な野朗だな。
「ずっと背中が見えなくなるくらい先を走って……偶には立ち止まって欲しいのに……それでも、お人好しで頑張り屋で一生懸命な彼が私は大好きです…」
声に熱が帯び長い睫毛の下、潤んだ瞳に魅入られる。
自分が告白を受けた気分だぜ。
「きっとその気持ちは伝わるよ」
「伝わってますか?」
「え?」
「……悠に私の気持ちは届きましたか?」
思考がフリーズした。
い、い、今の告白ってま、ま、まさか…え!?
「ちょ、え、ま、待って」
異常状態を無効化する俺だがパニックに陥った。
お、落ち着けぇーーーーい!黒永悠は狼狽えない!
……いや、どう考えても狼狽えるわ!だって初対面で告白されるって普通になくない!?しかもこんな美女にだぞ……ド、ドッキリじゃないよな?
「突然、ごめんなさい」
「そんなえっと……恐縮です…」
「……ふふ、恐縮?」
うあーー!頭が上手く回らん!
「あ、あのむぐ?」
何か答えようと口を開くと、彼女の手がそれを阻止した。




