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君の名は?③

4月1日 午後12時42分更新

4月2日 午前9時50分更新

4月5日 午後12時50分更新

4月6日 午後19時47分更新





〜百合紅の月12日 午前9時30分 中央区画 広場〜


予定時刻より30分早く、待ち合わせ場所で待機する。


「…広場の噴水前だったよな?」


中央区画はベルカの入り口で、広場の規模も大きく各区画へ繋がる中継地点を担っているので往来も凄い。放射噴水で複数のアーチの軌跡は、爽やかな清涼を感じさせる。


「おじいちゃん!はやくぅ!!」


「ほっほっほっ……待っておくれ坊や」


「最近、オープンしたあの店にいこーよ」


「わかったって」


平和な光景だなぁ……む?


「……見ろよ!噂の『阿修羅』だぜ」


「え、マジ?犯罪組織を一人で壊滅させたスッゲー冒険者だろ」


「それがよぉ……ゴニョゴニョ…」


「……うっわ…そりゃないわ」


「だろ?」


「ねぇあの人って」


「うん…契約者の……だよね?」


注目を自然と集めてしまっていた。顔が世間に知れ渡っている証拠……しかも好意的とは言い難い。


檻に繋がれた猛獣を外から見るような眼差しだ。


「……」


連中の最期……死ぬ間際の表情は決して忘れられない。


殺人を()()()()()世界でも、人殺しは人殺し……どう思われようと仕方ないのだ。


それが俺の選んだ道なのだから。


「……ん?」


思慮に耽っていると、通行人の変化に気付いた。


ある()()に目を奪われ皆が振り返る。


「……綺麗」


「え…あれ誰?」


羞花閉月という言葉が真っ先に浮かぶ。俺とは違った意味で注目を浴びていた。


薄い化粧が際立たせる美貌は、男女問わず虜にする魅力を振り撒き、ノースリーブの純白のフリルドレスが見事にマッチしている。


……それに、何故か()()()()()を覚えた。


疑念で首を傾げる俺の前に彼女は立ち止まった。


「黒永さん」


可愛らしく微笑み、名前を呼ぶ。


「……えっと、君の名前は?」


間違いないだろうが一応、名前を聞かなきゃ。


「初めまして。ラウラの友達のセノラと申します」


ビンゴぉ!


「あ、ご丁寧にどうも…」


「今日はよろしくお願いしますね」


優雅に会釈するセノラさんに習い、頭を軽く下げる。


「……」


「……」


沈黙が気不味い!


「……外は暑いし一度、店に入りましょうか?」


「はい」


野朗共の熱視線に晒すのも、忍びないしここじゃ落ち着いて自己紹介も出来ない。緊張なのか暑さのせいか……恐らく前者だろうが、やけに喉が乾くぜ。



〜午前10時10分 中央区画 カフェ ダ・カーポ〜



窓際の席に座り、飲み物を注文する。


「いらっしゃいませ!ご注文は?」


「アイスコーヒーで」


「ミルクティーを一つ」


「アイスコーヒーとミルクティーですね……直ぐお持ちします」


……俺と釣り合わない美人だと思ったのだろう。店員の女の子の笑顔が一瞬、固まったのを見逃さない。


ま、その通りだけどね!


「あの」


「はい」


「……下の名前で呼んでも良いですか?」


わざわざ断る事でもないだろうに。


「もちろんだ」


「ありがとう」


「セノラさんは」


「セノラで構いません」


「……さすがに初対面の女性を呼び捨てにするのは」


「セノラと呼んで下さい」


な、何だろう?覚えのある押しの強さだ。


「悠の方が年上だし、敬語も要らないわ」


「そっか……そうさせてもらうよ」


ラウラの面影が重なるのは、灰色の髪だからか?

冷静に観察すると顔も似てる気が……いや、そっくりだ!


「……そんなに凝視されると恥ずかしいです」


頰を赤らめ上目遣いで、セノラがはにかむ。目尻が弛み情けない顔になってないか心配になった。


「あ、セノラはラウラと似てるなと思ってさ」


「…ラウラと()()()?」


彼女の声がちょっと上擦った気がした。


「顔と髪色とかな」


「……よく言われます」


「それと全体的に雰囲気が……ってどうした?」


「いえ」


顔が若干、青褪めている。


「顔色が悪くないか?大丈夫?」


「あ、はは!今日は暑いから……ちょっと席を外しますね」


トイレかな……って野暮なデリカシーのない詮索はダメだな。


「こちらアイスコーヒーとミルクティーです」


「どうも」


「ごゆっくりどうぞ〜」


グラスを傾け一口啜り、窓の外を眺める。



〜同時刻〜



「暴露てないよね?」


セノラは化粧台の鏡に映る自分の顔を、まじまじと見詰めた。


「声は()()()()()のお陰で変わってるし……うん」


ぺたぺたと自分の顔を触り呟く。


「本当、変なタイミングで鋭いんだから……でも広場で僕を見た悠は見蕩れてた…」


それは自画自賛でも自惚れでもなく事実だ。


「き、綺麗だって思ってるってこと?」


已む無い事情があるとはいえ、彼女は客観的に自分の容姿を見れないタイプだった。


……何故ならば性別を欺き過ごした時間が長いからだ。


「いやいや!これで満足してちゃダメ!!……目標はまだ未達成だし」


一体、どんな目標を掲げているのだろう?


「ふー……よし!」


軽く頰を叩き、気合いを入れ直した()()()()()()()()()()はトイレを後にする。



〜午前10時30分 カフェ ダ・カーポ〜



彼女が戻って来た後、雑談に花を咲かせた。


柔らかな物腰のセノラは話し易く、また聴き上手だ。他愛もない話題にも、興味のない素振りは見せず自分の見解や考えも伝えてくれる。


……しかし、喉に魚の小骨が刺さったような感じが……うーん、謎の違和感だ。


「どうしました?」


「あ、いや……セノラの地元って獅子の谷って呼ばれてるんだよな」


誤魔化すように話題を変える。


「はい」


「獅子族が統治する街なんだろ?初代『金獅子』の出身地だとか」


「そうですね……獅子族は有名なので」


「やっぱり、初代も相当凄かったんだろうなぁ」


「……くす」


セノラは人差し指を唇に添え、嫣然と笑う。


「『泣き喚く獅子(クライベイビー)』」


「え?」


「『金翼の若獅子』の創設者ガウラ・レオンハートが最初に名付けられた二つ名です」


「……あまり強そうに聞こえない二つ名だな」


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