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阿修羅の麗しき姫君 終

3月23日 午後15時38分更新

3月23日 午後20時30分更新

3月24日 午前9時46分更新





〜三日後〜


アイヴィーの大活躍により、孤児院は復建しシスターと孤児は不自由なく暮らしている。


…あ、そうそう!ゴンゾーはカナリアってシスターの娘と交際を始めた。あの日、教会での出来事が切っ掛けでガラシャさん曰く彼女の一目惚れらしい。


『あのタコには勿体ない娘でありんす』


口は悪くとも横顔はとても嬉しそうだった。


……それと、教会の瓦礫の撤去を手伝ってる最中に偶然にも()()()()()へ続く階段を発見する。


ホークさんのお爺さんの話は嘘じゃなかったのだ。


ナタリアさんも大変驚いていたが、部屋の中は畳二畳分のスペースと非常に狭く、小箱が一つ無造作に置かれていた。


問題は鑑定の結果、この箱が混沌神……つまり、()()()に由来する神々の遺産だったことである。


そのお陰で予期せず、あの女神と異空間で邂逅する羽目になった。


極短時間且つまたもや一方的な会話で、疑問しか残らない内容だったが……ユーリニスが孤児院に執着した狙いはこれに違いない。


今は貪欲な魔女の腰袋に収納し保管している。


謎は残るもこれで狙うのは()()()になるだろう。



〜向日葵の月10日 午前9時30分 マイハウス リビング〜



今朝、発刊された新聞をテーブルに広げ、アイヴィーは御満悦な様子で文字を読み上げる。


「……『著者が今日、皆さんに紹介する冒険者の名前はアイヴィー・デュクセンヘイグ。辺境の英雄の義理の娘で彼が設立予定の冒険者ギルドの副GMである。何を隠そうこの少女は若干、10歳でAAランクの冒険者であると同時に、超一流の魔法使いなのだ』…」


右隣からルウラが覗き込み、目を細めた。


「『ルルイエ皇国の鶸の魔女にも劣らぬ創造魔法をアイヴィー・デュクセンヘイグは操り、孤児院を瞬く間に再現した。その美しく勇ましい様を何と例えよう……麗しき阿修羅の姫君……いや、()()とでも呼ぶべきか?その場に映写魔導具を持参しなかった自分を恨めしく思うばかり』……アイヴィーは『宵姫』だって!」


新たな二つ名に喜び、柔らかい頰を弛ませる。


「まぁまぁ可愛い二つ名だねぇ〜」


オルティナが手を合わせ、微笑む。


「…はっ!がーるはぷりんせすって柄じゃない」


「えーとぉ〜〜…『メンバーにはSランクの冒険者で白蘭竜の息吹の前GMオルティナ・ホワイトランも在籍している。正に少数精鋭の言葉がこれ程、相応しいギルドは他にないだろう』…あらあら〜…私のことも書いてくれてますね〜」


「ギルドの良い宣伝になったから」


「孤児院の皆さんも喜んでくれてますし万々歳だわ〜」


「……ルウラが移籍すればもっとはっぴー」


自分が除け者みたいで寂しいのか頰を膨らませる。


「悪評が広まるからノーサンキュー」


「最近のがーるはくーるぅ〜〜!冷たいれすぽんすぅ〜!」


「お、重いから…」


「うふふ〜」


戯れ合う二人は、まるで姉妹のようだ。


「あ、そーいえばユウさんは〜?」


先程までリビングに居た筈が見当たらない。


「ゆーはますたーと一緒に稽古場にごー」


「多分、孤児院で見つけた箱の件だから」


「箱ってあの変な模様の?」


「うん」


「そっか〜……ん〜!?」


オルティナは記事を最後まで読むと目を見開いた。


「……ふふふ!ユウさんってば凄いこと言ったのね」


「その場に居た皆も驚いてたから」


「ある意味、()()()()だもの」


「宣戦布告ってどんな内容?」


ルウラがオルティナに問うと、彼女は静かに答える。


「これはねーーーー」



〜同時刻 マイハウス 地下ニ階 稽古場〜



「ーーーー()()()


俺は大獄丸を片手に、隣にいるアルマへ向け呟く。


「…大獄丸で斬れないとなると物理的に壊すのは無理だな」


「ムカつく事に魔法も通じないわね」


アルマは憤慨しつつ、答える。


「全部、アザーの言ってた通りか……ったく……忌々しい神々の遺産だぜ」


「『混沌の匣』…混沌と狭間の女神が古代人へ贈った災厄と咎…そして、希望」


アルマは訝し気に顔を顰め呟いた。


「一癖も二癖もあるヤバい女神ね」


「……ああ」


箱の中身は空っぽだが、恐ろしい力を秘めている。


地下室で混沌の匣を発見し触れた時、俺は混沌と狭間の領域で彼女と会話した。……いや、実際は会話とも呼べぬ一方的な独り言だったが。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『また逢いましたね黒永悠』


『ア、アザー!?』


『……いえ、今回は私が呼んだと言った方が正しいか』


『お前には言いたい事が沢山あーーーー!』


『時間がないので手短に済ませましょう』


『むぐぅ〜〜〜!!』


『貴方が見つけたその箱は遥か昔、古代人へ贈った秩序を乱し、災厄を招く希望の一片……謂わば神々の遺産です』


『!?』


『その箱の最後を担う者は貴方か…それとも……ふふふ』


『ふぁにばぁいいふぇ!』


『一つ願い災厄を招き、二つ願い咎を齎し、三つ願い希望を残す……既に二回願いを叶え、()()を満たした。希望とは誰かの絶望……運命の賽の目は既に我が手を離れ、委ねられている』


『……』


『貴方か彼の者の欲望か……使い方次第では、幾億の命を無に帰すでしょう』


『!』


『ふふふ…精々、愉しませて下さい』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


……あの口振りだと俄かに信じ難いが、わざわざ嘘を言う理由もない筈だ。大量殺戮兵器をユーリニスが狙っているなら、絶対に阻止しないといけない。


「壊せないなら保管しとこう」


折を見て破壊する手段を探す他なさそうだ。


「ま、なるよーになるわよ」


「だと良いけどな…」


「合縁奇縁……神と縁が深いってのは運が良いのか悪いのか…アンタが居ると退屈しにゃいわ」


アルマには包み隠さず、全て話している。


「取り敢えず、今はやるべき事に集中なさい」


「…だな」


「ギルドってのも忙しくなるんでしょ?」


「おう」


「中途半端でみっともない真似は許さないからね」


一つに囚われ過ぎて他を疎かにするな、か。


アルマなりの忠告だった。


「分かってるってーの」


俺は武装を解除し混沌の匣を掴む。


「さぁて……三人とキューを呼んできましょーか」


「稽古か?」


「とーぜん」


「今日は俺も混ざろうかな」


モヤモヤしてる時は体を動かし発散するに限る。


「…お?呼ぶ手間が省けたわね」


丁度良いタイミングで三人が階段を降りて来た。


「ふぅ〜〜!ゆーってば豪快爽快」


ルウラは今朝の新聞を持ちながら、はしゃぐ。


「豪快?」


「これですよぅ」


オルティナが記事を指差し、笑う。


「あぁ…それか」


ホークさんに頼んで載せて貰ったやつじゃん。


「へぇ〜なんて書いてるのよ」


「別に大した内容じゃないさ」


「いやいや!大した内容ですよ〜」


「師匠も見て」


「どれどれ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


……最後に『辺境の英雄』はこう語った。これは脚色のない原文を、そのまま載せている。


『今回の一件を踏まえ、あらためて言わせて貰う。十三翼の第8位は常に弱者の前に立つ…他人を虐げ、権力に酔い搾取し、残酷な暴力を謳歌する連中は覚悟しろ。俺の刃は有象無象の区別なく……例え超弩級の賞金首でも、大国の王でも、神でも斬り伏せる。……俺がお前達の死神だ』


これが誰に向けての言葉か?真意は不明だが、脅しでもなく本気で言ってるのは否が応でも分かった。


……今後も著者は『辺境の英雄』もとい『阿修羅』の動向を追い続け、活躍に期待したい。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


()()()()、か…」


「こんな風に堂々と宣言する冒険者は滅多にいませんよ〜」


「抑止力になればいいと思ってな」


「ゆーは注目されるの嫌いなのに珍しい」


「……ちょっとした心境の変化さ」


利用できるもんは、遠慮せず利用しようと決めたのだ。


「それより稽古しよーぜ」


屈伸し誤魔化すように笑う。


「ん!今日こそルウラをぶっ飛ばす」


「ぶっぶ〜〜返り討ちでふぁなるあんさー」


「にゃふふふ……弟子の期待に応えてあげるわ」


「あ、キューちゃんも来ましたね〜」


ーーきゅきゅあ〜?


張り切ったアルマの猛稽古は苛烈を極めたがクタクタになるまで、運動したお陰で気分も晴れた。


……明日からまた頑張ろう!


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