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阿修羅の麗しき姫君 ④

3月18日 午前9時33分更新

3月19日 午前10時39分更新

3月22日 午前7時59分更新





「はぁ…はぁ…」


力を使い果たし覚醒が自然に解け、普段の姿へ戻る。


ーーきゅあ〜……。


同じくキューも地面にへたり込んだ。


「…ん…成功だから」


額から伝う汗を裾で拭い、創造した建物を眺めアイヴィーは満足気に頷く。


「…アイヴィー」


真背後で行末を案じていた悠が呼ぶ。


「どう?全体的に悪くないデザインだと思うから」


「……」


マスクの下であんぐり、と口を開く彼の返答はない。


驚駭……いや、望外と言った方が正しい。


「…女神よ……私は今、奇跡を目の当たりにしました……」


「奇跡じゃなくて魔法だから」


「あ、そういう意味ではなく…」


「?」


アビリティの奇跡と勘違いしていると思ったのか、アイヴィーがナタリアの一言を訂正する。


「……私が知る魔法という概念が覆された気分だわ」


「わっちも同じやし…」


レイミーとガラシャが皆の気持ちを代弁した。


「…夢……じゃないな」


ヒースフェアは他の騎士団員と顔を見合わせる。


三階建ての洋鐘付きゴシック建築の孤児院…周囲には噴水や花壇…子供達が遊ぶ遊具まで設置していた。


花と()()()()()()()()()()の壁画と像が印象深い。


焼け落ちる前と比べれば月とスッポンだ。


「ス、スゲーー!」


「わ〜い!お家ができたーー!!」


「できたぁ〜」


呆然と立ち尽くす大人を尻目に子供達は大喜びだ。


「……ははは!」


「わふ」


悠はアイヴィーの頭を撫でつつ、笑う。


「本当にアイヴィーは自慢の娘だよ」


「そう?」


「ああ、俺なんかよりずっと凄いぞ」


それは謙遜ではなく本心で、誇らしい気持ちで胸が一杯だった。


「……えへへ」


自分が力になれた事が嬉しくて、アイヴィーは蕩けるように微笑み応えた。


当然、アイヴィーは皆に質問攻めに遭う。


ただ、覚醒は未だ心身に負担が大きいようで、暫し休息が必要になるとベンチに腰掛け寝てしまった。


キューも足元で丸まり、静かに寝息を立てる。


……超共感のスキルでリンクしてる分、疲労も共有してるのだろう。



〜30分後〜



熟睡中のアイヴィーとキューの傍で幾度目になる謝辞を述べられる。


「もう十分ですから」


苦笑いしつつ、答えた。


「……いえ!何度、申し上げても足りないですわ」


ナタリアさんとシスター達が深々と頭を下げる。


「全部、アイヴィーのお陰だし」


「違いますよ」


きっぱりとした口調でナタリアさんは語る。


「今日まで貴方が困窮に喘ぐ我々に救いの手を差し伸べてくれたからこそ、彼女は感化されたのだと思います」


「……」


「子は親の背中を見て育つと言うでしょう?偉大なる父を追い、アイヴィーちゃんも英雄へ至る足跡を辿っている」


偉大ってのは大袈裟じゃないか?俺の背中は薄っぺらいぞ。


「…どんな謝礼を尽くせばいいか…私は御二人に差し上げる価値ある富を何一つ持ってない」


悔しそうに唇を噛み締め、目を伏せた。


「故に誠心誠意、感謝を述べるしかないのです…」


少し間を置き答える。


「それだけで十分です」


「え…」


「今まで俺が孤児院を援助してたのは只の自己満足だ」


「……」


「…それに、この娘も自分の境遇と孤児達を重ね合わせたんだと思う」


「すぅ…すぅ…」


ふんわりと柔らかい銀髪を撫で抄くう。


「境遇ですか」


「ええ……アイヴィーは今まで残酷な仕打ちを受け独りぼっちで育った。世間の理不尽な憎悪と敵意に晒され、酷い言葉や態度の暴力に耐えてきた……幼いまだ10歳の子供がですよ?」


寝顔を眺め、愛しく呟いた。


「…全部、引っくるめてこの娘は俺の宝なんだ」


「……」


「アイヴィーちゃんは愛されてますね」


一瞬、動いた気がしたが気のせいかな?


「まぁ何が言いたいかってゆーと当然のことをしたまでだって事です」


少し照れ臭くなり、顔を背け喋る。


「あの子達もナタリアさんにとって大切な存在でしょ?」


「はい……何よりも」


慈愛に溢れた笑顔ってのはこーゆー顔を言うのだろう。


「その笑顔が何よりのお礼さ」


似合わないウィンクと親指を立てて応える。


「……まぁ」


頬を染めナタリアさんは微笑むのだった。気障った台詞も偶には良いだろ?


「内装を見てきましたが、文句の付けようがないわね」


部下を引き連れたレイミーさんが孤児院から出て来る。


「家財を搬入すれば今日から住めますよ」


「おー」


反対に外周を見回っていたガラシャさんと若衆も戻って来る。


「外壁もおかしな箇所は一片もありやせん」


「……あの娘が騎士団に在籍してくれれば、駐屯施設の建設に困りませんね」


「ヒースフェア隊長が熱心にスカウトする訳だ」


「いや……俺もこうまで凄いとは思ってなかったよ」


先程からヒースフェアと団員は眺め感心している。


「子供といえ冠する二つ名に偽りなし、だな」


他の団員も興奮してるのか饒舌に喋る。


「『常闇の令嬢』……令嬢ってよりはお姫様に見えましたよ」


「ああ…惹き込まれる美しさだ」


「…踏まれたい」


「お、お前?」


「女王様って呼んで駄目かな…」


「バカ!目を伏せて喋るな……『阿修羅』が睨んでるぞ?」


……何か不埒な妄言が聴こえた気がする。


「クロナガさん!クロナガさん!!」


「ん?」


離れていたホークさんが駆け寄る。


「凄いものを見させて貰いましたよ!…是非、アイヴィーちゃんを取材させて下さい」


「あー」


「若干、10歳で創造魔法を使う天才でビジュアルも非の打ち所がない……新聞の一面を飾れます」


メモ帳にペンを走らせ、興奮冷めやらぬ表情で捲し立てる。


「偏見を払拭させ、優れた才能を世間に知らしめる絶好の機会ですよ?必ず素晴らしい記事にすると約束します」


「……」


見込んだ通り、彼女は善い人だ。吸血鬼という種族ではなく、アイヴィー個人を見てくれている。


だからこそ、()()()()()()()()()()


「ええ…アイヴィーが起きたら聞いて下さい。多分、喜んで応じる筈だ」


「やった!」


「代わりに一つお願いがあります」


「……お願い?」


……余所余所しく振る舞うのは止めよう。腹を括り、自分の地位を最大限利用しようじゃないか。


毒を持って毒を制す……シオン団長が言っていたっけ?


俺の()()()()をバカな連中に教えてやるよ。


静かに語る決意の表明にその場に居る皆が驚いた。

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