阿修羅の麗しき姫君 ①
3月10日 午後16時22分更新
3月11日 午前10時24分更新
〜向日葵の月7日 午前10時15分〜
翌日、俺はアイヴィーとキューと一緒に孤児院へ向かっていた。……連日、腑抜けてたけど元気百倍ア◯パンマンって感じで復活!
孤児院の皆はレイミーさんが用意したホテルで不自由なく暮らせているそうだ。
しかし、今回の事件でショックも大きいだろう。瓦礫を運搬する業者とも道すがら何度もすれ違った。
〜第30区画 ベルカ孤児院付近〜
「風が気持ちいい」
ーーきゅきゅう〜〜!
「そうだな」
低空飛行するキューに跨ったアイヴィーが意気込む。
「…アイヴィーは頑張るから」
「ははは!頼りにしてるよ」
朝のやり取りを思い出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『ーーーー今日、孤児院へ行くって?』
『ああ』
『それならアイヴィーも連れて行きなさい』
『え』
『どーせ支援しようとか考えてんでしょ?』
『……ほんっと鋭いよなぁ』
『アイヴィーの修行の成果を発揮する良い機会だわ』
『成果って?』
『まぁ楽しみにしときなさいな……弟子1号!しっかりやんのよ』
『了解だから』
『がーるばっかズルい!ルウラもごーとぅ孤児院』
『私も行きます〜』
『甘い!アンタたちとキューは残って楽しい稽古よ」
『じーざす……』
『…残念ですぅ』
『むむ?キューはどこ行ったのかしら」
『私の隣に……あ』
『……もう外で待ってるぞ』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
帰ったら稽古場に強制集合でキューにみっちりお灸を据えてやるってアルマは怒ってた。
「覚えた魔法が役に立つなら嬉しい」
何を隠そうアイヴィーは習得した創造魔法を使って、孤児院を建てるつもりなのだ。
「確かLv2だったよな?」
「今はLv4まで上がった」
「ほぉ」
「アルマ師匠もセンスがあるって褒めてくれたから」
創造魔法は使い手が少ないとマリーさんは言っていた。
魔法を使えない俺にも最上位の魔法を短期間で習得し、Lvを上げる事は並大抵の才能ではない事が分かる。
「アイヴィーもアルマみたく家を建てれるのか?」
「師匠は別格……でも練習してるし問題ないと思う」
「大したもんだ」
「えっへん」
相手を打倒する戦闘系のスキルやアビリティ全般より、ずっと素晴らしい。
〜10分後 焼け落ちたベルカ孤児院〜
到着すると見知った関係者以外の野次馬が大勢居た。第一騎士団の団員が中に入らないよう規制している。
「いっぱい人がいる」
「だな」
「…あ!クロナガさん」
ホークさんが駆け寄って来た。
「どうも」
「アイヴィーちゃんとキューちゃんも一緒ですね」
「ん」
ーーきゅきゅ!
「凄い人ですね」
「今回の事件は大きな騒ぎになりましたし野次馬が連日、殺到してますよ」
ホークさんはベレー帽を触り群衆を一瞥する。
「他人の不幸ほど興味を惹くことはありませんから」
交通事故の現場に群がり、スマフォで撮影する不謹慎な連中を思い出した。
「ホークさんも記者ですしそれが飯のタネでは?」
「まぁ、そうですが…」
少し間を置き彼女は気恥ずかしそうに答えた。
「上司から取材して来いって言われて来たけどシスターや孤児の気持ちを考えると躊躇ちゃって……離れて見てました」
「え?」
「あ、ははは!記者失格ですよね〜」
「俺の時の押しの強さが嘘みたいだなぁ」
「それはそれこれはこれです」
きっぱりと答える。
……ホークさんをちょっと誤解してたかも知れない。
「どうせ強面の騎士団員が立ち入りを禁止してますし取材も無理だから」
よし、決めた!
「一緒に中に入りましょう」
「え、いいの?」
「俺は関係者だし団員もダメって言わないでしょ」
「シスターと孤児を警護中の『勇猛会』のメンバーや『オーランド総合商社』の関係者しか入れてくれないし助かりますが……」
「じゃあ行こう」
「うん」
アイヴィーがキューの背中から飛び降りる。
「そーいえばクロナガさん達は何しにここへ?」
「…それは見てのお楽しみさ!なぁアイヴィー」
目配せすると力強く頷き答えた。
「『反逆の黒』は悠だけじゃないって見せてあげるから」
ーーきゅ!
「?」
ホークさんは怪訝そうに首を傾げ後をついて来る。
〜焼け落ちたベルカ孤児院 正門〜
「退がれ!近付けば業務妨害で逮捕するぞ」
団員が厳しく警告し野次馬の民衆は一歩後ずさるも、負けじと食い下がる男がいた。
「ちょっと中に入れてくださいよ〜」
「関係者以外立ち入り禁止だ」
「シスターと子供を撮影して質問するだけですって!」
被写体を魔力で紙に投影する映写魔導具を片手に別の男も叫ぶ。
「ならん」
「報道の自由を邪魔する権利はないはずだ」
「そうだそうだ!」
「ベルカ孤児院は長年、資金難だったのに最近じゃ高額の援助を受けてたそうじゃないか」
「……だから?」
眼光に怯まず、同調した数人が下卑た顔で野次る。
「本当は悪どいことしてたんじゃないんですか〜?」
「第一騎士団が四六時中、警備してるってのも怪しいしな」
聞くに耐えない不躾な発言と態度だった。
「……ひどい」
「あれは同業者ですね…最低だわ」
ーーぎゅるるる……!
適当な憶測で集まった他の市民の不安を煽っている。
「『ネフカンパニー』を潰した『辺境の英雄』と孤児院の関係は?彼が大金を孤児院へ流してるって噂ですよ」
「…それって実は違法な金じゃないんですかぁ?ベルカでも有数の商人ギルド『オーランド総合商社』の闇資金とか」
「……」
「……あーー!武器を握ってどうするつもりですか?治安を守る騎士団が一般人を脅し?」
数人の団員の内、一人は我慢の限界がきたのか武器を構え無言で威嚇するも逆効果だ。
「潔癖を証明したいなら納得いく説明をーー」
「俺が説明しようか?」
いい加減、見兼ねて声を張り上げる。
「ほ、本物の『辺境の英雄』だ……」
「り、竜!?」
「吸血鬼の娘もいるぞ…」
他の市民が道を開け、遠巻きに囁き合う。
このタイミングで現れると思っていなかった男性記者数人の顔が青褪めていた。
「あ、あの」
「孤児院に金を寄付してるのは俺の独断だ。『オーランド総合商社』も孤児院の皆も関係ない」
「…そ、うなんですね!あはは!知らなかったなぁ」
「勝手な憶測は止めてくれ」
「えーと…」
「あんた達も仕事だろうが被害者の気持ちを考えて欲しい」
「うっ…」
「慎ましく暮らしていた善良なシスターと子供たちが我が家を理不尽に焼かれ苦しんでる」
周囲が静かになった。
「……お願いだからこれ以上、鞭打つような真似をしないでくれないか?」
真剣に自分の気持ちを伝えた。
「そろそろ帰ろうか…?」
「……ええ」
「まぁ不謹慎だもんな…」
一人、また一人とその場を去っていく。
〜数分後〜
諦めが悪かった新聞記者も帰り、残ったのは俺達だけになった。
「やれやれ」
漸く中に入れそうだ。
「流石ですね」
「何が?」
「…人の上に立つ人の貫禄と言いますか…有無を言わせない迫力を感じました」
ホークさんは感心していた。
「本心を正直に言っただけだよ」
「…『辺境の英雄』と『常闇の令嬢』は如何様か?」
団員は俺に対しとても緊張した様子で恐縮していた。
……なんか怖がってる?
「ちょっと野暮用があって中に通して欲しいんだ」
「了解した」
すんなり道を空けてくれた。
「ありがとう」
「…冒険者といえ貴方は別格だからな」
別格?
「運搬業者は帰り、中には孤児院の関係者と『勇猛会』のギルドメンバーの他、『オーランド総合商社』の者が複数名…ヒースフェア隊長もいる」
「分かったよ」
「ありがとうだから」
ーーきゅ!
「……待て。お前はベルカ新聞の記者だな?」
「わ、私はですね」
団員が立ち塞がり、ホークさんが慌てる。
「彼女も俺の連れだ」
そう言うと渋々といった程だが通してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「……」
鎧を着た屈強な騎士に囲まれれば、普通の女の子は怖いだろうなぁ。
〜同時刻〜
「…連中を皆殺しにした男と同一人物とは思えん」
悠の後ろ姿を眺めぽつり、と一人が呟く。
「血も涙もない冷血漢と思いきやさっきのように温情家の顔を覗かせる……不思議なヒュームですね」
「しかし、シオン団長が認めた剛の者だ。敬意を持って接せねばな」
「ええ……仮に挑んだとしても微塵も敵う気がしません」
「俺もです」
「ああ、絶対に敵に回したくない戦闘従事者の一人だよ…」
ネフカンパニーのロビーで見た悍ましき光景を思い出し団員達は口々に同調し合うのだった。




