仏の一面、修羅の二面 ⑨
3月2日 午後13時18分更新
3月3日 午前9時54分更新
外に出ると野次馬が殺到し騒々しい有り様でその中には、ホークさんも居た。
しかし、血塗れの俺を見て一気に静まる。
…今回の件でどんな噂が流れるか想像もしたくないな。
俺は釈然としないまま、馬車に乗せられ騎士団本部へ連れて行かれる。
〜午後19時 第6区画 騎士団本部 二階 作戦会議室〜
警察の取調べ室のような部屋を予想してたが鮫、豹、竜の豪華なタペストリーが掲げられた一室に案内される。
他の団員は同席させず俺とシオン団長の二人だけだ。
向かい合わせで座り、経緯を説明した。
〜10分後〜
「ーーーー以上だ」
「…成る程」
「……」
「ほぼ部下の報告通り、か……正直者なのだな?」
「ここまで暴れて嘘は言いませんよ」
そう言うと鼻を鳴らした。
「…実を言うと『ネフカンパニー』は第一騎士団も設立時からマークしていた」
「え」
「摘発に必要な証拠は揃いつつあったが、有力な政治家に幾度も邪魔されてな……今日、現場で違法薬も見つけたよ」
「…違法薬だと?」
「貴様もよく知るR・Sだ」
「!」
「今となっては確かめる術もないが、GMと副GMは賞金首であった可能性が高い……お前の判断は性急だったが、善良な市民に集る蛆虫を一掃してくれた事に感謝している」
「……感謝、か」
思ってもみない台詞だった。
「結論を言えば殺人罪に問わんし無罪……フッフッフ!望むなら賞状を贈呈しても良いくらいだな」
「け、結構です…」
「そうか?残念だ」
そこで一旦、言葉を切り彼女は俺を注視した。
「……私が知る冒険者と貴様は違うな」
「違う?」
「実力もない癖に威圧的で嘘を吐き、権力に靡く輩ばかりと思ってたが……貴賎に問わず、弱き民のため動く者を初めて見た」
「…まぁ色んな人が居るし」
「上から流す水が腐ってれば下の清らかな水も腐る……今の十三翼は糞の塊だから当然の結果と言えばそれまでだが」
暫定とはいえ、俺もその一員なんだけど…?
「特にあの裏切り者には反吐が出る」
裏切り者……ベアトリクスを言っているのだろうか。
「『灰獅子』と『串刺し卿』の二人には淡い期待を抱いていたが結局、同じ穴の貉だ」
ラウラとエリザベート?
「…言ってる意味が分からないが」
事情聴取で俺は連れて来られたんじゃないのか?
「……六年前、ある冒険者が十三翼に抜擢された」
混乱する俺を気にせず、シオン団長は喋り続けた。
「それに伴い年々、ベルカと連邦内の主要都市に於ける犯罪件数が倍近く膨れ上っている」
一呼吸置き、忌々しそうに名を告げた。
「その冒険者の名はユーリニス・ド・イスカリオテ……『貪慾王』だ」
「!……そう、ですか」
自然に拳を握る手に力が入る。
「……彼奴の黒い噂は有名だが、犯罪に繋がる証拠は何一つ見つからない」
眉間に皺が寄るのが分かった。
「不自然に思えるほど清廉潔白だが、黒永はどう思う?」
「…どう思うも何もあいつは俺の敵です」
「…敵?」
「目的は分からないがユーリニスは以前から孤児院の土地を狙ってる」
「……ほぉ」
「あいつは不幸を撒き散らす疫病神だ……次、会った時に決着をつけて終わりにします」
孤児院を襲った真犯人も許せないが元凶はあの野朗だ。
「どう終わらせるつもりだ?」
「……わざわざ言わなくても分かるでしょう?」
それを聞いて嬉々として彼女は笑った。
「フフ、ハハハ!やはり、お前こそ協力者に相応しい」
「ん?」
「『辺境の英雄』……いや、『阿修羅』よ」
シオン団長は腕を組み、真剣な眼差しを向ける。
「私と手を組まないか?」
思いがけ無い提案に驚く
「……手を組む?」
「簡潔に言えば、『豹王』と『魅惑の唇』のようにギルドと騎士団で協定を締結するのさ」
「なんでまた俺と?」
椅子から立ち上がり、厳しい顔で彼女は語る。
「……フン…癪に触るがベルカ……いや、ミトゥルー連邦国内で冒険者は法の番人たる我々より影響力があり、民に敬愛されてる。それは『金翼の若獅子』を設立した初代『金獅子』が礎を築き、彼に憧れた先人達が歴史を作ったからだ……『戦鬼』、『ヨークシャの魔犬』、『白虎』、『蝸牛の指先』、『不死鳥』……名を挙げれば切りがない」
「……」
「私が尊敬する第一騎士団の前団長アーサー・グリンドリンは『冒険者が噴火する火山ならば騎士団は噴流を受け止める雄大なる湖』…と、評していたよ」
中々、上手い例えだ……ん、前団長?
「……しかし、噴火し流れる溶岩を湖が受け止めるにも限界がある。ユーリニスが諸悪の源……『金翼の若獅子』に巣食う病魔だろう」
シオン団長は大剣を抜き、丸い切っ尖を俺に向ける。
「代々、受け継ぐ『処刑人』の二つ名と騎士の誇りに賭け私は蔓延る悪を一掃せねばならん」
「……悪を一掃か」
「最早、ユーリニス一人を殺せば済む話ではないぞ『阿修羅』よ」
「…なに?」
「奴を殺しても、意思を継ぐ者は必ず現れる……『金翼の若獅子』で内争も勃発するであろう。そもそも力で屈服させれれば、『灰獅子』とてそうしていた筈だ」
「それは……」
的を得た答えに口篭る。
「冒険者が何百人死のうと構わんが、その割を食うのは無関係の市民だからな」
「……」
「ゆえに万人が認める法の番人による裁きが必要なのだ」
正論と分かってはいるが、相手は法を意に介さない男だ。
「『金獅子』は誰しも認める最強の存在だが、役に立たん……今や国の鎖に繋がれた哀れな獅子に過ぎん」
ムファサの地でゴウラさんが俺に語った記憶が蘇る。
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『最強國家戦力に任命され、後悔してるのは自由から一番、程遠くなっちまったことだ」
『?』
『背負うもんが増え過ぎて、それが更に強くしちゃくれるが同時に俺を縛っちまう』
『…えーと』
『がはははは!…ま、自分の意思に反して我慢することが増えちまうって話さ』
『ふむふむ』
『金翼の若獅子が抱える問題は武力で解決しねぇし、ラウラにゃ荷が重すぎる……無理矢理、従わせるやり方はなるべくしたくねぇんだ』
『……』
『……だから悠がよけりゃ今後も手を力を貸してやってくれねーか?』
『もちろんです』
『頼りねぇ俺よりきっと皆の役に立つさ…へっ…お前といるとレイヴィーのバカを思い出すぜ』
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……彼女の方が冒険者ギルドよりゴウラさんを理解しているのは皮肉だな。
「具体的にはどう協力しろと?」
「十三翼の立場を活かしユーリニスの悪事に繋がる証拠や情報を暴き私に流せ。無論、我々が掴んだ裏情報もお前に提供し、多額の報酬を支払う」
「………」
「他にも色々な面で協力すると誓おう」
「……有り難い申し出ですね」
「フッフッフ……だろう?」
俺は目を瞑り暫し考えた後、答えた。
作者のキキです((〃´▽`〃))/“
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