脱出しよう。〜出逢い〜③
ーーー嗚呼嗚呼嗚呼ぁ………。
ぞくり、と寒気がする。
ーーー…人の……匂い………?
じゃらじゃらと鎖を引きずる音が徐々に近付く。
足が竦んで動けない。現れたのは…巨大な鬼女…?
般若に類似した白面を装着し顔は見えない。地面まで伸びた白髪が蛇の様に蠢いていた。
血で染まった巫女服の裾を引き摺っていた。右手には俺の身長を凌駕する大刀が握られ刀身に黒い影が纏わり付いている。
…ビビるな俺。大丈夫…きっと大丈夫!きっとこいつは悪い奴じゃないさ。
どう見てもラスボスみたいな風貌だけど胸くっそでかいし話せば分かるって。…勇気出して声かけろ!
「こ、こ、…こんにちわ…」
声が超裏返ったけど気にしちゃダメだ。
ーーー妾の…声が……聞こえ…るのか…?
「き、聞こえてます」
ーーー…………ぉおおおおぉ……っ…幾千……幾万の歳月……この刻を…どれ程……待ち侘びか…。
ーーー妾の…妾の…名を…呼んでおくれ………
懇願するように問う。
知らねーよ。…とはならない。
今の俺には鋼の探求心のスキルがある。
確か相手のステータスも確認できた…サーチだっけ?名前を呼べば平和的にこの場を乗り切れるかもしれないし試してみよ。
ーー対象を確認。ステータスを表示ーー
名前:–
種族:神
称号:禍の夜刀神
職業:祟り神 Lv–
戦闘パラメーター
HP– MP–
筋力– 魔力– 狂気–
体力– 敏捷– 信仰–
技術– 精神– 神秘– ( – 表示及び計測不可)
耐性:不死(それ以外は封印)
戦闘技:封印
魔法:封印
奇跡:封印
呪術:封印
固有スキル:封印
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封印されたパルキゲニアの女神。
かつて神や人を苦しめた深淵の獣と戦うが勝利の代償に深淵の獣の穢れにその身を侵されてしまう。
その後、皮肉にも守った神や人に裏切られ自身の名を失い封印された。
神である故に死も赦されず
穢れた故に信仰も赦されず
ただ未来永劫に時間だけが過ぎてゆく。
長く続く苦痛に耐える為に女神は封印された今も失われた名を呼ぶ者がいる事を信じている。
叶わない願いと知りつつも。
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「…………」
悲惨すぎて言葉もない。
裏切られて名前も奪われて死ぬこともなくずっと生きてく。
たった一人でずっとずっと。……可哀想な女神様だ。
怖いのには変わらないが同情する。
名前は表示されないし俺にはどうする事もできない。
…それに禍の夜刀神とか…祟り神とか…戦闘パラメーターもLvも計測不可って相当ヤバいっぽいじゃん。
可哀想だが名前知らないって伝え出口へ行くしかないな。
「……すいません。知らないです」
ーーー…………嘘、だ。……なら、何故此処にいる…?
「いや、俺にも分からないんで…何とも」
ーーー…………。
沈黙が怖い。
「も、申し訳ないですけど俺は行きますね…?」
ーーー嫌だ…。
ーーー独りは……苦しい……辛くて…辛くて……堪らないのだ…。
ーーー…妾は……皆の為……戦ったのに……何故、だ?
段々と声に憎しみが込もる。
あ、これやばい。絶対やばいやつだ。
髪が逆立ってるし呼応するように空気が震えてるぞ!?
「ちょ、ちょっと落ちついて」
ーーー…名を…………妾の……名を…呼べ……っ!!
最初に感じた感覚は物凄い熱さ。
違和感を感じ確認した瞬間に凄まじい痛みが襲ってきた。
右肘から下の腕が無くなっていたのだ。