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仏の一面、修羅の二面 ⑦

2月25日 午後15時10分更新

2月25日 午後18時33分更新





〜午後16時50分 ネフカンパニー 3F 執務室〜


「あ〜〜〜ん……やっと来たってか!ん?」


R・Sを片手に持ち、不敵に笑うネフと遂に対面する。


「はじめましてぇ…だな『辺境の英雄』」


値踏みするように悠を睨め付ける。


「あひゃひゃひゃ!!……血塗れじゃねーか…アンタは甘ったるいケーキみてぇな野朗だって噂だったが……その面ぁ見るとぜーんぜん違うな…ん?」


瓶を捨て、殺気で爛々と瞳が輝く。


「部下を殺した代償はテメーの命で償って貰うぜ……ん?」


悠は大獄丸を片手に問う。


「…ユーリニスの命令で孤児院を襲ったのか?」


「……」


「目的を洗いざらい話せ」


「何の話かわかんねーなぁ」


ネフは当然、惚けた。


「……隠せば地獄を見る羽目になるぞ」


「地獄ぅ?そりゃテメーがこれから逝く場所……さっ!」


間合いを詰め、一撃を穿つ。


「はぁははははっ!!もう終わりだぜ!ん?」


両手中指に装着された針の先端に血が付着する。悠の首元に小さな丸い刺し傷ができていた。


「冥土の土産に教えてやるよ……俺の『悶える針蜂(バイタリーショック)』はよぉ一撃目に相手の体を麻痺毒で弛緩させ、耐性Lvやバトルパラメーターを低下させちまう」


「……」


「そして、二撃目で血液を循環する魔力を狂わせる毒を注入しショック死させるのさぁ!!」


…元々、ネフのスキルは耐性Lv・体力・精神の数値を低下させる変化系統のスキルであった。暗殺で磨き、練度が限界に達した事で有害なウィルスを混入させ魔力を異常反応させる新たな効果を習得したのだ。


モンスターの免疫構造は人と違い、種別で複雑のため効力を発揮できないが対人戦では凶悪な性能を誇る。


他のアビリティを捨て、一芸に特化した戦闘方法だ。

禁術に近い性質のスキル……彼が殺人蜂と恐れられる由縁でもある。


「これで仕舞いっと……なぁ!!」


防御もせず、立ち尽くす悠にネフは自身のスキルに対抗手段がないと高を括っていた。


「ひゃははははははは!」


二撃目を与え、勝利を確信する。



「終わりか?」



しかし、それは()()()()()()であった。


「……は?」


極みに至り、進化を遂げた深淵の刻印の前には無力だ。

禁術と古代魔法さえ無効化する理外の力を前に通用する訳がない。


「…んだよ……そりゃあよ!!ん!?」


三撃、四撃、五撃、六撃……何度、攻撃を繰り出しても結果は変わらない。


「右足だ」


「〜〜〜〜あがッ!?」


超速の抜刀で、ネフの右膝から下が切断される。


重心を崩し不様に転倒した。


「…ふ、ざっけんな!……殺してやるっ!!」


片足を失っても、狂犬のように吠える。 R・Sの作用で痛覚が麻痺し高揚感に浸っているからだろう。


「ユーリニスとの関係と孤児院を襲った理由を教えろ」


再び質問を開始する。


「ぺっ!……ひゃひゃ」


悠に向かって唾を吐き、嘲るように嗤う。


「左足」


「うっぎぃ……!?」


今度は左足を切断した。両足を失い、出血が酷くこのままでは失血死するのは明らかだ。


「答えろ」


「……死ねよバァーカ」


それでも、ネフは頑なに答えない。


悠は特製エックスポーションを腰袋から取り出し蓋を開け、切断面に垂らす。


「なっ……」


HPが全快し傷口が治癒され、出血が止まった。


「右腕」


「……いがぁっ!!」


右肘から先を斬り落とす。


「ハァ…ハァ…ま、()()()…おまえ……!?」


意図を察し、表情が真っ青になる。


「口と耳さえあれば十分だろう」


無慈悲な通告……道端で死んだ虫に群がる蟻を見るように感情を感じさせない眼差しにネフは戦慄した。


「喋りたくなるまで斬り刻んでやる」


切っ尖から血が滴り落ちる。



〜午後17時 ネフカンパニー 1F〜



シオン率いる第一騎士団の部隊は悽惨な有様に愕然とした。


「おぇぇ!!…げぼぉ……!」


「…うげぇぇぇ!」


数人の団員は、吐き気を堪え切れず嘔吐する。


「…酷い……なんだこれは…」


顔を顰め、冷や汗を流すのも無理はない。死臭が漂い臓腑と死体が散乱しているのだ。


「……悪夢のような現場だな」


「『辺境の英雄』が殺ったのか?」


「ーーーーひゃひゃひゃ……いひ、ひひ!」


唯一の生存者であるテッドは隅で両膝を抱え笑っていた。


「ふむ……」


「だ、団長?」


シオンは死体を意に介さず、踏み彼の前に立つ。


「何が起きたか喋れ」


「…ひひ?……あひゃひゃ………『阿修羅』に…し、修羅に……殺される……みぃぃんなぁぁ死ぬんだぁ!!あはは、ははは!ひゃはははははは…」


頰を強く掻き毟り、爪に剥がれた皮膚が付着する。


「…まるで話にならんな」


「一体、何が起きたんでしょうか……?」


テッドは気が狂い、対話は不可能だった。


「連行し牢屋にぶち込め」


「…はっ」


「他の団員はロビーを検証し、野次馬を遠ざけろ」


シオンは階段を一瞥し部下に指示を出す。


「『金翼の若獅子』の連中が来ても中に入れるな。騎士団が執り仕切るのだ……私は『辺境の英雄』を捜索する」


「ならば我々も」


「要らん。足手纏いだ」


歯に布着せぬ物言いだが力の差があり過ぎて連携を望めぬ以上、致し方ない。


彼女が描く最悪の想定は、悠と戦闘になることだった。



〜数分後 ネフカンパニー 2F〜



シオンは片膝を突き、ベッチィの遺体を検分する。


「…凄まじいな」


打撃による死因と推察し唇の端を吊り上げた。


「ジーグバルトの爺さんが奴を後継者にしたがる訳だ」


オフィスに転がった R・Sの空瓶を発見する。


「これはセヴンスヘヴンで流行った違法薬?……やはり、黒だったか」


左手に握り締めた瓶が割れる。破片を払い、呟いた。


「商人ギルドを隠れ蓑にした犯罪組織とは実に許し難い」


ベアトリクスより苛烈な思想を掲げるシオンの表情が嫌悪と憎悪で歪む。


「さて……」


彼女は階段を登り三階へ進む。



〜ネフカンパニー 3F〜



執務室に辿り着き、シオンは驚愕する。


「いひゃ…ぎぃぃぃぃ…」


手足のない肉の人形……例えるなら達磨だろう。


ぶちっ、と小さく剥がれる音が聴こえ、血塗れの悠が投げ捨てたのはネフの眼球だ。


右目の抉られた眼窩から血涙が溢れる。


「……喋る気になったか?」


他に切断された手、足、耳、鼻が放置されていた。


「お゛れ゛……は……何゛もぉ!喋ら゛ねぇぇ!!」


「次は左目だ」


シオンは事態を把握するべく呼び止める。


「待て!『辺境の英雄』」


「…誰だ?」


振り返った悠の顔を見て、唾を飲み込んだ。


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