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仏の一面、修羅の二面 ③

2月17日 午前8時50分更新




〜午後14時42分 ベルカ孤児院〜


孤児院に到着し目を疑う光景が広がった。


「い、いだいよぉぉ…!」


「ゔえええーーん!」


「シスター!シスタァーー!?」


「う…あ……あぐっ……皆は…リル……カイン…コワン…?ハーシャ……無事、です…か……」


「お前らぁ…若頭とゴホォ!?……ず、直ぐお、親父゛にれんら゛ぐじろ……!」


「ドンパン兄ぃ!?…畜生ぉ……なんで治癒魔法が効かねーんだよぉ!!」


「…お゛れのごとはいいっ!子供ど……シスターはぁ゛!?」


これは火傷…いや、毒か?


火傷した箇所の水膨れが破裂し飛び散った液が皮膚を腐らせている。


……孤児院を破壊する黄色の煙と形容し難い炎の渦がもたらす惨状に体が震えた。


「…ユ、ユーの兄貴ぃ!?どうしてここに…」


勇猛会の若衆ギルドメンバーの一人……ソンタが涙目で俺に気付いた。


…そうだ……呆けてる場合じゃない。皆を救わなくては!


貪欲な魔女の腰袋から特製エックスポーションを素早く掴み、放り投げペナルティで撃ち抜く。


霧雨のようにポーションは怪我人に降り注ぎ、傷を癒した。


「こ、こりゃあ火傷が……すげぇ…」


「治っていく……?」


重症だったナタリアさんとドンパンが体を起こす。


他の子供達とシスターもポーションを浴びて無事、回復した様子だ。


「……大丈夫か?何が起きたんだ?」


気が動転しそうだが冷静にならなきゃ……状況を把握して行動だ。


「悠さん……私にもさっぱり…」


「いきなり魔法…いや魔法かわからねーがあの炎が炸裂したんでさぁ……皆を逃すのに必死で…俺も詳しくぁ分かりやせん」


自分を犠牲によく判断したと心から思う。


「……一先ず、みんなが無事で良かったよ」


「皆?…そうだわ……リルとカインはどこ!?」


がばっと立ち上がり、ナタリアさんが周囲を見渡す。


「大変…他の子は居ますが……ふ、二人がいません!シスターカナリアも…!」


「「「!」」」


まだあの孤児院の中か…?


「……ゴ、ゴンゾーもいねぇ」


青褪めた表情でドンパンが呟く。


「た、助けにいかなくては……!」


「ダメですナタリアさん!死ぬ気ですか!?」


「でも、二人が……あの子達が中にっ!」


必死の形相のナタリアさんを若いシスターが羽交い締めして止めた。


「居ないのは四人だな?」


俺は炎に包まれ、崩壊する孤児院を睨み聞く。


「ユーの兄貴……ま、まさか!」


ドンパンがコートの裾を掴む。


「あの炎は普通じゃねぇ…きっと呪術ですぜ!?いくらアンタでも」


「大丈夫だ」


毒のように体を蝕む炎、か……ミーシャのダストレイジに近い()()だ。俺には寧ろ()()()だろう。


もはや考えてる時間も惜しい。……必ず四人を助け出す!


「急いで『勇猛会』と『金翼の若獅子』に連絡してくれ」


「あ、兄貴……アニキーーーー!!」


静止を振り切り、燃え盛る孤児院の中へ突っ込んだ



〜同時刻 ベルカ孤児院 教会〜



祭壇に祀る女神フラムの銅像が熱で溶け屋根の一部が、土砂のように崩れ落ちた。


「…うえええ゛ん!!ごわい゛よぉぉ!」


「ぐすっ…えぐ……わぁーーん!」


「…大丈夫……けほっ…だ、大丈夫だから…ね?」


大泣きするリルとカインを必死に抱き締め、カナリアは慰める。


「ゔおぉぉ…!」


ゴンゾーは三人を庇い、折れた太い柱を支えていた。力を緩めれば下敷きになってしまう。


教会に居た四人は外へ逃げ遅れてしまったのだ。


「…だ…いっ……じょぶだからっ……な」


「ゴンゾーさん……うぅ!」


自らを犠牲に必死に耐える彼を見上げ、堪えていた涙が頰を伝う。


彼の背中は焼け爛れ、水疱が破裂し皮膚を腐蝕させHPは底に尽きつつある。……悶絶し叫びたい衝動を抑え、根性で痛みに耐えているのだ。


渾身の防御魔法で炎を防ぐも、既に限界は近い。



〜同時刻 ベルカ孤児院 中庭〜



深淵の刻印で瞬時に再生し回復するお陰で、この状況下でも活動を可能としていた。


「問題ないみたいだな」


俺は大丈夫でも、悠長に四人を捜してる余裕はない。


鋼鉄の探究心を発動し位置を確認する。


「!…彼処か」


四つの白いマークは教会で点滅していた。


「………待ってろよ」


意を決して扉を開く。


「!!」


とてつもない激痛が襲う。


「ぐぉ…おぉぉ…!」


再生が止まり、皮膚が裂傷し血が流れた。


……深淵の刻印の吸収効果は祝福で相殺されてしまうらしい。


「こ、んな…でもっ……祝福され…ってるってか!?」


不滅の刻印でダメージを軽減しても…これかよっ!


心まですり潰すような痛みの嵐に体が悲鳴を挙げる。


へっ……生憎と泣き言を言ってる暇はない、か…早く……救出しなくては!


「あ、そこかっ……」


一歩、足を踏み出す度に傷口が深まり皮膚が剥がれるのが分かった。体が異様に重く、力が抜けていく。…HPも物凄い速度で減少してるのだろう。


やべぇな…意識が遠のく…このままじゃ辿り着く前に……倒れちまうぞ。


「ーーーーああああ゛っ!!」


ペナルティで自分の足を撃ち、目を醒ます。ポーションを飲んでもまるで焼け石に水だ。戦闘数値とアビリティが弱体化し、淵嚼蛇を発動させても黒蛇は塵となり消えた。


あと僅かな距離が遠い……ゴンゾーが必死で折れた柱を支えてる…のに……!


「……かっ…めん゛…」


この状態でどこまで保つか微妙だが使うべき時だ。


俺に力をくれミコト……!!


「蛇っ……憑卸ぃ…」


亀裂が走った白面を被る。



〜同時刻〜



いよいよゴンゾーの膝が崩れ、限界を迎えた。


「ぐがぁ!?」


左頬は瘴炎魔法の火傷で腐り、血が滴る。


「…神様……どうかゴンゾーさんを…二人を助けてっ…」


祈りも虚しく、女神フラム()()届かない。


「…ぐ、糞っ……ごめん゛な…?」


「う゛わあああああん…えっぐ……えーーん」


「リルこわ゛い゛よぉ…!」


無情にも四人を潰そうと柱が倒れ込む瞬間、瓦礫もろとも吹き飛んだ。


「え……」


「…何がっ…ゴホッ!?」


カナリアの祈りは祟り神(ミコト)には届いていた。



「モウ心配要ラナイゾ……ヨク耐エタナ」



「…あ、なたは……」


「ぞの゛っ…声は……ユウの……兄貴゛?」


身に纏う黒い瘴気と異形の風貌に四人は言葉を失い、目を見張る。


……しかし、白面は罅割れ欠片が塵となり消える。完全な状態ではない禍面・蛇憑卸だった。


炎が強まり教会がいよいよ、崩れ落ちる。



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