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仏の一面、修羅の二面 ①

2月12日 午後23時12分更新

2月13日 午後17時48分更新

2月15日 午前9時20分更新





〜向日葵の月3日〜


雲一つない快晴……何もしてなくても汗が噴き出る。


日課の畑仕事を終わらせ、午前中はエンブレムと制服のデザイン作成に没頭した。午後からベルカ孤児院に行こうと考えてた矢先、予想だにしない来訪者が訪れる。



〜午後14時10分 マイハウス リビング〜



「……いくら頼まれても無理ですって」


俺は三度目になる拒否の意向を示した。


「お願いします!」


頭を下げられても溜め息しか出ない。


彼女は取材記者ホーク・ネイ・エレジーさん……ベルカ新聞で冒険者関係の報道を担当している。


代理決闘とパルテノンの記事を掲載した張本人だ。


……特別インタビューする予定とは載ってたが、まさかアポなしで自宅に来るとはな。


よほど興味を惹いてしまったのか、断っても納得してくれない。


「さっきも言いましたが変に注目されたくないし、インタビューなんてされる柄じゃない」


「黒永さんは今一番話題の冒険者……読者もあなたの記事を見たがっています」


どんな層に需要があるのか疑問だ。


「俺は自分ができる最低限を全うしてるだけですって」


「その最低限の内容をぜひ詳しく!」


「だから……あーもー…」


「どこからベルカに?冒険者になる前はどんな仕事を?……契約者となった経緯は?」


矢継ぎ早に質問をしてくる。


真実を話せればどんなに楽か……それでも答える訳にはいかない。


「ノーコメントで」


「そ、そんなぁ」


がっくり肩を落とし落胆する。


熱意は買うがここははっきり断わろう。


「まぁまぁ〜お茶でも飲んでくださいな〜」


お盆を抱えたオルティナが紅茶を差し出した。


「あ、ありがとうございます」


……あれ、ずいぶんめかし込んでないか?


ばっちり化粧して、綺麗な服に着替えている。


「うふふ〜……ユウさんもちょっとだけホークさんの取材に協力してあげたらどうですか?」


「えー」


「……ベルカ新聞は連邦内で有名な大手新聞社だしギルドのいい宣伝になりますよぅ」


耳元で囁かれる。


「……」


「もちろん秘密は秘密のままで……じゃないと彼女は諦めないと思うし〜」


まぁ…それはそうかも知れないけど。


「アイヴィーは準備万端だから」


「ルウラもおっけー」


お、おほぉ!二人はいつの間に着替えてきたのか、めっちゃ着飾ってるやんけ!


そもそもルウラはギルドが違うくない?


ーーーバッカねぇ〜…いちいち浮かれちゃってまぁ…にゃむ。


ア、アルマの毛並みが艶々……ブラッシングばっちりで浮かれてるじゃねーか!ま、まさか……そのままの姿で喋るつもりかよ…!?お願いだから黙って寝ててくれ!


ーーきゅあ〜あ……きゅ?


平常運転はキューだけだった。


「いやぁ他の皆さんはインタビューに前向きですね!」


にこやかに喋る彼女を一刀両断する。


「俺は全力で後ろ向きですけど」


そう言うとホークさんは顔を伏せ、黙り込み呟いた。


「……このインタビューがポシャったら来月は雑草を食って飢えを凌ぐしかないかも」


「……」


「新聞に記事を載せないと家賃も払えません…」


「……泣き落としは通用しませんよ」


「実家で暮らす母の仕送りもストップしなきゃ」


「うっ…」


だ、騙されないぞ!


「そうなれば体を売って稼ぐしかないかなぁ」


「…俺には関係ない話だ」


「私みたいな器量でも客が取れますかね……?」


あーー!もぉーーー!!


「……わかった!わかりましたよ!インタビューを受けますってば」


遂に心苦しくなり折れてしまった。


「やったーー!ありがとうございます!」


打って変わったこの張り切りよう……はぁ…自分の押しの弱さが毎度、嫌になるぜ。


意気揚々と彼女は質問を始めた。


案の定、きわどい質問が多かったが簡潔に最低限の内容でしか答えない。


〜20分後〜


「……うーん」


ホークさんはペンを回し困り顔で質問を続ける。


「アイヴィーちゃんと黒永さんの関係は?」


「父親と娘」


「……では、ウー・ロンを代表する冒険者ギルド『白蘭竜の息吹』のGMだったオルティナさんが黒永さんのギルドに移籍した理由は?」


「色々と事情があってね」


「えっと……ルウラさんは何故、ご自宅に?」


「それインタビューと関係ないですよね」


「……この度、前代未聞の十三翼加入を成し遂げご自身はどう思われてますか?」


「済し崩しで仕方なく」


質問に答えていく度、ホークさんの顔が曇った。


「これじゃ取り付く隙がありませんよ……取材になりません」


「苦手だって言ったじゃないですか」


「じゃあ気分を変え黒永さんのご趣味は?」


お!そーゆー質問は大歓迎だ。


「主に料理、鍛治、錬金…畑仕事かな。趣味と実益も兼ねてるし……あ!最近だと洋裁に精を出しててデザインに苦労してるんですよ」


「……」


「例えばモンスターディッシュ…毒魚のポイズンウオって魚は釣っても狩っても皆、捨てちゃうけど調理次第で高級魚に負けないくらい美味しくなるんだ」


「………」


「その調理方法が驚きで一度、半焼きにしてから地中に埋めるとポイズンウオの毒が分解され身がふっくらと……どうしました?」


ホークさんは顰めっ面で俺を見ていた。


「打って変わってよく喋ってくれるな〜……と思いまして」


「そりゃまぁ」


「…あなたが職人気質なのはわかりました」


今ので?全然語り足りないけど…。


「黒永さんはどうして冒険者に?」


「え」


「過去、多くの冒険者を取材してきましたが大半は…金稼ぎの手段、強さの誇示、英雄願望、成り上がり……そんな答えが返ってきました。生産職も兼業しお金に困らず、権力や地位に執着もない冒険者は黒永さんが初めて……そんな貴方が危険な職に身を置く必要がありますか?」


「うーん」


「戦いがお好きとか?」


「いや平和が一番だよ」


「志や理想があってですか?『荊の剣聖』や『霄太刀』のように」


「……あの二人のような目標はないかな」


「ならばどうして?」


最初の切っ掛けはモーガンさんだ。異世界で生活をするため…異世界で食っていくため……ふふ!懐かしいぜ。


「それは」



「特別な理由はないから」



「……はい?」


隣に座るアイヴィーが代わりに答えた。


「そうですね〜!だってユウさんだもの」


「いぐざくとりー」


他二人も同調し頷く。


「…すみませんがどーゆー意味ですか?」


ホークさんは首を傾げた。


「こいつが冒険者を選んだのは()()()()()なのよ」


アルマが続く。


「物事の起承に壮大な理由を求めるのは人の悪い癖ね……経験を通じ、良くも悪くも己を変える…大事なのは()()()()悠の答えよ」


「……」


「アンタが聞くべきなのは……冒険者となり、()()()()()()()()()()…ってこと」


「なるほど……勉強になります」


流石、伊達に年を食ってない。説得力のある………ん!?


徐々に目を見開き、驚きと戸惑いを浮かべホークさんは震えながらアルマを指差す。


「…あ、あ、あれ?…い、いま……」


や、やべぇ!アルマが喋ってるの暴露たぁ!


余りに自然で気付くのが遅れてしまう。


「ネ、ネコが喋っ…!」


「にゃ?誰がかわいい猫ちゃんよ。わたしはかつて魔王と……にゃぐぐぐぐ」


「や、や、やだなぁホークさんってば……ネ、ネコが喋る訳ないでしょ?」


慌ててアルマの口を塞ぐ。


「で、でも今、確かに!?」


「きっと疲れてるんですよ!インタビューはおしまい……家に帰ってゆっくり休んだ方がいいな」


「あ!ちょ」


「今日はありがとうございましたーー!」


無理くり、彼女を家から追い出した。ドアを叩く音と声がするも、暫くして諦めたのか帰ったようだ。


「焦ったぁ……」


ドアにもたれ掛かって呟く。


「アイヴィーはまだインタビューされてない」


「私もですぅ〜」


不満気に二人が言った。


「……いやいやいや!大変な事態になるとこだったぞ」


「大袈裟よ」


「ぜっんぜん大袈裟じゃないっつーに!!」


張本人は全く悪びれていない。これ以上、変に噂が広まったら最悪だ。


「だって最後に記憶を操作するつもりだったのよ」


「……あ、そんなことができたのか?」


「ま、魔法で記憶を弄ると後遺症で廃人になる可能性も高いけど」


「その魔法は金輪際、使用禁止な」


シレッと言ってるがとんでもねーぞ。


「にゃ……それじゃ暇になったし稽古に戻りましょっか」


俺を除き、三人とキューが肩を落とした。


「しっと!あふたぬーんは潰れたと思ってた」


「甘いわよ弟子3号」


「…せっかく服も着替えたのに」


ーーきゅきゅう〜……きゅ!


キューは俺の所為だと思ってるのか恨めしそうに睨んでいた。


「あーうー……行きますか〜」


「ほら、稽古場へ駆け足!」


リビングに残ったのは俺一人だけになった。


「やれやれ」


苦笑しリビングの後片付けと掃除を始める。


……孤児院に行くつもりだったが、明日にしよっか。



〜午後16時10分 首都ベルカ 第6区画 商店街〜



ホークは険しい表情で商店街を歩いていた。


「……やっぱり怪しい」


立ち止まり、呟く。どう考えてもあの猫は喋っていた。


それに直接取材しはっきりしたことがある。


「彼は普通のヒュームじゃない」


契約者である以上、普通でないのは当然だがそれ以上にどこか変なのだ。


…胸の奥で彼女は説明できない違和感を感じている。ホークの記者魂が触発され好奇心を刺激された。


「……真相を突き止めなきゃ!これは私の使命なんだ!!」


取材に情熱を捧げるホークは新たな決意を秘め、拳を上げ叫ぶ。


「ねぇお母さん!あのお姉ちゃん変だよ〜?」


「シッ!見ちゃいけません」


「…あ……」


周囲の注目を浴びてしまい、彼女は真っ赤な顔でそそくさと立ち去るのだった。


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