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紅い瞳が涙を流す。⑨


〜金翼の若獅子 二階フロア 応接室〜



案内されたのは二階の最奥にある一室。


高級感溢れるソファーに壁に飾らせた名画っぽい絵とモンスターの剥製。


……社長室みたいな部屋だな。


「紹介しよう。『金翼の若獅子』副GM…ランカー序列第7位『灰獅子』のラウラ・レオンハートだ」


紹介されたラウラ・レオンハートさんの第一印象は性別不詳の麗人。獣耳と尻尾……パッと見た印象は男装の麗人に見えるが胸がないし男だよな。


灰色の長髪を後ろで結びスーツ姿で美男子とも美女ともどちらにも見える亜人ひとだった。


「噂は予々。初めまして黒永悠さん。副GMのラウラです。どうぞソファーにお掛け下さい」


「ご丁寧にどうも」


「お飲み物は如何かな?紅茶で宜しければ淹れますよ」


「あ、では……頂きます」


「ラウラ。吾にも頼む」


〜数分後〜


赤褐色の薔薇の香りがする高そうな紅茶だ。


一口啜る。……うん。美味しい。


「今日は疲れてる中、時間を割いて頂き有り難う。…貴方に興味があり直接、お会いして話がしたかったもので」


「興味ですか?」


「ええ。冒険者ギルドに登録し二日目でGランク依頼を達成しアルカラグモの単独討伐を達成。…そしてAランクのギルドメンバー『三又矛』のアルバート・ダンブルビーに決闘で勝利。…AAランクの昇格依頼では()()アイヴィー・デュクセンヘイグとPTを組み極時間でダンジョンを攻略した。…興味を抱くのは至極当然だと思いますが」


微笑んではいるが目が笑ってない気がする…。


「エリザベートもフィオーネも貴方は出自を話す事を嫌うと仰っていましたがそれは僕にもですか?」


「はい。過去の話はしたくないので」


「……副GMとして僕には知る権利が有るとは思いませんか。貴方が脅威と成り得る可能性も零ではないでしょう?」


脅威って……仕事してるだけなのに酷い。


「貴方は何者ですか?」


「田舎者です」


予想外の返答だったのかラウラさんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。


「くっくっくっく…あーはっはっは!…なぁラウラよ吾の言った通りだろう?」


エリザベートさんが愉快そうに笑う。


「…ふふふ、確かにそうだな。まさか僕の問いにも田舎者と答えるとは思ってなかったよ」


「…話ってそれだけですか?」


「違う。勿論、貴方の経歴や過去に興味はありましたが本題はそこではない」


ティーカップを口に運ぶ。


何気ない仕草も寛雅で絵になるな。この人。


「本題?」


「ええ。貴方は世間一般の常識や冒険者ギルドの事情に疎いと伺っている。『金翼の若獅子』の現状と問題を先ずは説明しようかな」


…現状と問題、か。


「前に吾が貴公を勧誘した時の話は覚えているかな?」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『金翼の若獅子はミトゥルー連邦を束ねるギルドの総本部。各支部を合わせ所属メンバーは三万人を超える大組織だ。組織ならではの派閥争いも頻繁でね。ランカー同士は自分の部下を率いて競い合っている』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……派閥争いも頻繁って話かな」


「その通り。ラウラが言った現状とは……ランカー同士の派閥争いで『金翼の若獅子』が腐り切った汚職組織と成り下がりつつある事態を指しているのだよ。年々、ランカー同士の小競り合いや争いは激化し…上位陣は権力・金・力の誇示に執着する様になった。…贈収賄や種族差別…売名行為に詐欺…果ては裏稼業に通じる者さえいる始末。…有力ギルドの御子息やご令嬢の好待遇。…例を上げれば切りがないさ」


「…酷い話ですがGMや副GMのラウラさんが罰して正せば良いのでは?」


ラウラさんが口を開く。


「…問題はそこなんだ。冒険者ギルド総本部『金翼の若獅子』の統括は上位順の序列13位までの議会制になってる。平等に権力を分散し過ぎた為に他の上位ランカー陣が結託したらGMや僕の力だけではどうにもならない」


三権分立の失敗例みたいだな。


「…それに『金翼の若獅子』の現GMはギルドの統括に全く興味がなく稀にしか居ません。…豪放磊落でそういった事は『面倒だ。お前らで勝手にやれ』…と言ってしまう位だから」


「無責任だな。顔が見てみたい」


ラウラさんは目を細め笑みを浮かべる。



「僕の父です」



…おーっとと。これはやらかしたパターンだ。


「えっと、すみません」


まさか身内だとは…。


「いえ、その通りですよ。僕には父と二人の兄妹がいますが……兄は離反し独立して冒険者ギルドを設立し『金翼の若獅子』には現在、在籍していないし妹も上位ランカーだが……問題のある性格で手に負えない」


「くっくっ。確かにな。あの子は手に余る」


上がそんなんで大丈夫なのか……この組織。


「僕の家系は『金翼の若獅子』の設立者の血を引く亜人デミ……『獅子族レーベ』です。其々が強く力もありますが自分勝手過ぎる。このままじゃ先代達に顔向け出来ない」


「この現状を打破すべく吾とラウラは手を組んでいるが……幾ら正論を述べ正義を謳っても少数意見は抑圧される。そもそも上位陣は我が強く己が利益や信念を優先するから厄介なのだよ」


「…ちなみにエリザベートさんの序列は?」


「まだ言ってなかったかな。吾は第11位だ」


11位…只者じゃないとは思ってたけど…。


「上位ランカーの二人が揃ってギルドの内情を説明してくれたのは俺に何の関係が?」


「ここからが本題だ。僕達みたいな少数派が大多数を相手にするには個人の質を重視する必要がある。…悠さん。僕達の力になってくれませんか」


「つまりスカウト?」


「はい。エリザベートの誘いを一度断ったのは承知の上でお誘いします。…フィオーネやエリザベートから聞く限り貴方を信頼出来る人物だと僕は判断しました。再度、打診させて頂きたい」


この人達…俺を買い被り過ぎだよぉ…。


「…断ったらどうなります?」


「何もありません。仮に副GMの立場と権限を利用し強制しても意味がない。悠さんの意思を尊重します」


穏やかな顔でこちらを見るラウラさん。


試されてる気分だ。


「…二つ条件を聞いて頂けるなら協力します」


「条件を聞かせて頂けますか?」


「一つ目はアイヴィー・デュクセンヘイグがギルド寮を退寮し俺の自宅に住むのを認めて欲しい。騎士団がGMに処遇を一任したと聞いてます」


「……二つ目は?」


「二つ目は『金翼の若獅子』に所属するつもりはありません。俺は自分の意思で行動します。助けが必要なら言って下さい。力になります」


「一つ目は僕の権限で問題なく許可できる。二つ目は……悠さんにメリットがないのでしょう」


「あー…。俺は普通に仕事して暮らせれば満足です。…上手く言えないけど……俺にはラウラさんやエリザベートさんみたいに立派な考えはない。不正を正すとか大勢の人を救う事なんて出来ない。……でも目の前で困窮する人を見捨てるほど薄情でもありません。自分ができる精一杯を全うする…。それだけです」


「地位や名誉はいらない、と?」


「興味ないですね。煩わしいし」


「……………」


「くっくっく。煩わしい、か」


欲は身を失うってな。


ラウラさんが閉じた目を開け真っ直ぐに見詰める。


「分かりました。その条件を飲みます」


うしっ!…やったぞアイヴィー!


「条件を飲む上で僕から提案とお願いがあります」


「…提案とお願いですか?」


「はい。提案は…悠さんのお力添えが必要な際は僕から『個人指定依頼』としてフィオーネを介し受注をお願いする。彼女には後程、この旨を伝えておきますので心配しないで下さい」


「わかりました」


「お願いは……ふふ。僕の事はラウラと呼び捨てで呼んで欲しい。敬語も必要ありません」


「構いませんが良いんですか?」


「ええ。仕事を抜きにしても個人的に貴方とはお付き合いしたいと思いましたので」


女性なら一瞬で骨抜きになりそうな笑顔。


……一瞬、ドキッとしたのは内緒だ。


「分かりま……分かったよ。ラウラ」


「ええ。こちらこそ」


「良い雰囲気を邪魔して悪いが気掛かりがある。…貴公、吾が勧誘した際は即答で拒否したな。ラウラと何が違うというのだ」


「……だって部下とかなりたくないから」


「ほぅ。…面と向かってはっきり言われるとは。吾の乙女心が傷付くぞ」


髪を弄りエリザベートさんの尻尾が上下に揺れる。


「…ふん。まぁ良い。吾もエリザベートで構わんし敬語はいらん。一人だけ仲間外れでは寂しいからな。それに吾の方が貴公より遥かに歳下だ」


またまたご冗談を。


「遥かに歳下ってエリザベートはいくつなの?」


「吾は14歳だ」


「……嘘だぁ」


14歳って…。20代後半の女性にしか見えないぞ。


「吾は『竜人族ドラグニート』だからな。成長が著しく早い種族なのだよ」


「竜人族の14歳は他種族の20代に相当しますからね。ちなみに僕は22歳ですよ」


その若さで冒険者ギルドの総本部を統括って凄いな。


最後にアイヴィーの退寮手続きはラウラが済ませてくれるので今日から家に住んでも構わないと嬉しい申し出を受けた。


礼を言い二人に別れを告げ退室する。


待っているアイヴィーの元へと急いだ。



〜数分後 応接室〜



「珍しいな。ラウラが初対面で簡単に信用するとは」


「…信用、か。悪人では無いのは確かだ。ああまで無欲だと逆に怖くもあるけどね」


目を細め答える。


「アイヴィー嬢の件は良かったのか?」


「構わないさ。彼女に対する周囲の評価や態度も報告は受けていた。…どうにかすべきだと思ってたし上手い具合に収まって逆に助かったよ」


「ふむ」


「何にせよ今後の彼に期待しよう」


「くっくっく。だな」


「…そうそう。まだ書類業務が残ってるんだ。エリザベートも手伝ってくれ。暇だろう?」


「普段なら断る所だが今日は引き受けよう。……気分が良いのでな」


「ふふふ」


二人が応接室を出ていく。


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