リーダーとボスの違い
1月27日 午前8時40分更新 ※タイトル変更しました
〜向日葵の月1日 金翼の若獅子〜
翌朝、早めにギルドへ行きフィオーネに依頼結果を報告する。ネクストクエストを達成したお陰でGPはゲットできて、一応達成扱いにはなったけど。
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冒険者ギルド
ランク:S
ギルド:なし(設立中)
ランカー:金翼の若獅子 序列第8位(暫定)
GP:30000
クエスト達成数:58
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ギルド名を伝えると大変、喜んでくれたので良かった。
『反逆ってワードが悠さんらしくて良いと思います』
気に入ってくれた様子で一安心!
久しぶりに会議後、キャロルも交え昼食を一緒に食べる約束をするが……それまでに終わるだろうか?
〜午前10時45分 最上階 獅子王の間〜
俺の不安を余所に会議はスピーディーに進行された。
……しかし、嵐の前の静けさってやつか?
ピリピリとした緊張感がゼノビアさんとカネミツさんを中心に漂ってくる。
十三人中四人が欠席、か。
デポルは巡礼都市で復興の手伝い…ユーリニスは再来月まで不在だしルウラは家で稽古に励んでる。
ゴウラさんは音信不通だそうだ。
通常の定例会議に参加する事は滅多にないらしい。
……ラウラが『真似しちゃいけないGMの良い見本だ』って力強く言ってたっけ。
「ーー以上…質問や不明点はあるかい?」
俺を含め誰も答えない。他の皆も特にないのだろう。
「では業務報告は終わりだ。次に」
「鷹の目のスカウト活動について……ですね?早速、派閥の長に納得いく説明をして貰いましょうか」
「某も聞きたい」
うわぁ……めっちゃ食い気味やん。
ラウラの言葉を遮り、待ってましたと言わんばかりに二人が先陣を切った。よっぽど腹に据えかねてるのか、表情が険しくご立腹である。
「特に言うことはねぇーっスわ〜」
フィンは飄々と答える。
「……ギルドメンバーを金銭で釣り、節操なく加入させ混乱を招いておきながら申し開きの言葉がないだと?」
「脅しに近い引き抜きに傘下ギルドからもクレームが来てるわ」
「……」
「『月霜の狼』……いや、『艶狼』から多額の献金を受け取ってると耳にしてるがそれも誠か?」
「何を根拠に?」
「ここ最近の設備拡張・派閥メンバーへの支給金・武具新調や携帯品の流布……とうに振り分けられた運営資金を超え、捻出してるであろう」
「他人様の台所事情に首突っ込むって卑しいっスね〜」
カネミツさんの額に太い青筋が浮かんだ。
「大体、そー言うなら具体的な証拠はあるんスか?」
彼の態度はあくまで変わらない。
「そもそもギルドに還元してる時点で問題ないじゃん」
「…っ」
「そうなのか…?」
隣に座るラウラに囁く。
「…グレーゾーンだけど違反ではないかな。ギルド法にスカウトを罰する明記はないし」
「ふむ」
「フィンが運営資金を横領してる物的証拠もないから取り締まることは不可能……それに、トモエ姫と彼の個人的なお金の受け渡しに文句を言っても仕方ない。懐に入った時点でポケットマネーだから」
それが分かってるから強気ってわけね。
「…では、傘下ギルドへの脅迫はどう説明する?」
カネミツは話題の矛先を変えた。
「具体的には献上金増額・依頼斡旋の忖度・人材派遣の拒否……それに低GRの冒険者への搾取よ」
ゼノビアさんが便乗に問い詰める。
「だ・か・らぁ〜…うちのメンバーはそんなんしてねーっつーの」
「そんな戯言が通用すると思ってるの?」
ゼノビアさんの双眸がきつく細まった。
「ま、無垢なる罪人のメンバーはしてっかもだけどさぁ〜」
「「!」」
「…ボクはただ、連中を預かってるだけ…文句はユーリニスに言えば?」
詭弁を弄するとは正にこの事だろう。
「お主の下卑た勧誘が我々の…『金翼の若獅子』の格を貶めてると理解した上での発言か?」
「…派閥への加入は強者の誉れ……遥か昔より暗黙の了解があったはずよ」
強者の誉れ?
「ハハ!格?暗黙の了解?そんなルール知らねーッスわ」
……あ、やばい!
「ふぅ……ここで武器を抜くのはルール違反…」
「ゼノビアもカネミツも落ち着け」
ミコーさんとエリザベートが制止する。
「……」
…フィンの首元に向けた国太刀・凌霄をカネミツさんは静かに鞘に納めた。
初めて見たがゼノビアさんの武器は弓……いや、魔導弓か?美しく半透明の大弓の矢の照準は間違いなく眉間を狙っている。
「……ええ」
短く答えると武装を解除したのか瞬時に消えた。
正に一触即発である。
「あのさ、お互い冷静に平和的に話し合わない?」
ムクロさんに大賛成!!
「先に突っかかってきたのはそっちっスけどねぇー」
不穏な空気のまま、沈黙が続く。
「……悠は此度の件をどう思いますか?」
ベアトリクスが話を振ってきた。
「俺か」
トモエまで関わってるのは予想外だったが元々、釘を刺すつもりだったしな。
「……リーダーってのは志で人を惹きつけるがボスは権力で人を従わせるらしい」
「…は?」
「フィンは派閥のボスでリーダーじゃないって意味さ」
俺は淡々と自分の感想を述べた。
「ベアトリクスの鉄騎隊もカネミツさんの刀衆もムクロさんの蟻の探検家も……正にリーダーの信念に共感し信頼するメンバーが集まってるって印象だった」
「黒永殿……」
「今の鷹の目はどうなんだ?」
フィンは暫く黙った後、気のない拍手をして馬鹿にするように答えた。
「いや〜…さっすが『辺境の英雄』!…クッソ甘〜い綺麗事で説得力がないっスわ」
「……」
「みんなに贔屓されて第8位になった奴は言うことが違うっスね〜」
フィンは可哀想な奴だ。
ユーリニスと違って内心は焦ってるのが分かっちまう。
高校生の時の俺もこんな感じだったのだろうか…?
「…まぁいいよ。最後にこれだけは言っておくぞ」
「はいはい」
「俺に不満があるなら直接、俺に言え」
「……あ?」
「憎んで嫌うのはいいが卑怯な真似をするな」
「……」
「一線を越えればお前も鷹の目も潰す」
「!」
視線を逸らさず静かに忠告した。
「……やれるもんならやってみ」
「俺はやるぞ」
フィンは口を噤み、目を細め舌打ちした。
「……チッ…どいつもこいつも…変な勘繰りばっかでクソっスわ!あー!!気分悪っ」
「周りに勘繰られず批判されないやり方を模索すれば良いじゃないか」
そう言うと俯き、体を震わせた。
「注意されてる内は良いが見限られると誰も構わなくなるぞ……無関心ってのが一番辛いんだ」
「……」
「十三翼って立場じゃまず怒られることもないだろ?こーゆー機会に相手の訴えを傾聴す」
「ーーーーうぜぇーんだよっ!!」
そう叫ぶと机を叩き、椅子から勢い良く立ち上がった。
……俺の説教が気に食わなかったようだ。真っ赤な顔で感情を剥き出しにしている。
「おい…まだ話の途」
「十分、集まったしギルドメンバーのスカウトはしねぇ……こう言えば満足っスよね!?」
……中なんだけどなぁ。
他のメンバーを睨み、叫ぶ。
「それに今更、どう非難されてもうちは今や『金翼の若獅子』の最大派閥……次の『獅子の集い』で誰が真のトップか分からせてやるっスよ」
「……馬脚を表したわね」
「拙者達は決して其方に同意せぬぞ」
「うーん…褒められるやり方じゃないなぁ」
苦い顔でムクロさんは呟いた。
「…『瑠璃孔雀』よ何処へ行く?」
「ボクは忙しいんでね……くっだらねー会議にこれ以上、時間を割いてる暇ぁねーっスわ」
そう吐き捨てフィンは獅子王の間を出て行ってしまった。




