反逆の黒 ②
1月16日 午前10時43分更新
1月17日 午後21時20分更新
〜夜22時30分 マイハウス リビング〜
ラウラの料理を食べ終え暫くトイレに篭もった後、風呂に入った。
腹パンを連続で食らったよーな腹痛には参ったぜ。
「動かないで」
「…むぐぅ……」
アイヴィーはタオルでアルマを拭きつつ、温風魔導具で乾かす。
「ふっふっふ」
ぐったりと寝そべる姿を見て溜飲が下がった。体中を引っ掻かれたけど悔いはない。
「…にゃろぉー…あんた覚えておきなさいよ」
「え、まだ洗って欲しいって?…アルマは欲しがり屋さんだなぁ」
「……言ってにゃいわよこんチクショー!」
「わははは」
晴れ晴れとした気分だなぁ。
「…悠さんってばかなり根に持ってたんですね〜」
「風呂場からここまで悲鳴が聴こえてきたな」
寝巻き姿のオルティナとエリザベートがホットミルクを片手に呟く。
「くんくん……おぅ!モフモフでぐっとすめる」
ルウラがアルマの腹に顔を埋め嗅ぐ。
「にゃあああああ゛〜…や、やめい!」
「アイヴィーもする」
「うにゃふぅ!?あ、明日の稽古で倍返しよ…!」
こうなると師匠の威厳もない。可愛がられる愛猫そのものだ。
ーーきゅあ〜〜…きゅう…?
「キューは眠いのかしら」
ベアトリクスの膝の上に頭を乗せたキューが欠伸をする。
家族と友人に囲まれ過ごす穏やかな夜……これ以上ない幸せな時間。…他者との繋がりこそが真の財産に違いない。
お金は大事だが手段と切っ掛けでしかないのだ。
……貧乏でも幸せな人は大勢いるしな。
「にゃ!そーいえば悠は明日、暇でしょ?」
「まあな」
「稽古を手伝ってよ」
アルマが俺に助力を求めるのは珍しい。
「おー」
「んじゃ明日は予定通り近接戦闘の訓練をするわよ」
「ん」
「ふふ!がんばります〜」
「成果を見せるチャンスだ。悠を驚かせてやれ」
「そりゃ楽しみだぜ」
こっちも良い勉強になるし。
「組合せはアイヴィーとオルティナは悠…ルウラはわたしね」
「よーよー!ルウラの参上で師匠に見せるぜ下剋上」
「はっ……一億年早いっつーの」
「折角ですので見学しますわ」
「吾もだ」
「僕も見ていきたいけど仕事が残ってるな……あ!ギルド名は決めたの?」
「あー…全然だ」
質問に答え、眉間に皺を寄せた。
…エンブレムや制服のデザインも考えないといけないし、そろそろ決めないと拙いかも。
「ふむ…この際、アルマ嬢にちなみ『魔王の尖剣』はどうだ?」
「あら素敵じゃない」
エリザベートの提案にアルマが手放しで賛同する。
「え〜……手下みたいで嫌だな」
「今でも手下みたいなもんでしょーが」
「…誰が手下だって?ん?」
「は、はにゃしにゃさーーい!」
アルマの腹を掴み、引っ張る。ちょ……最初、会った頃よりマジで太ったなぁ。
「『羅刹』はどうでしょう?『阿修羅』のツーネームドにぴったりなギルド名だと思いますわ」
「今度は仰々し過ぎないか?」
「僕的には『黒翼の若獅子』とか……『金翼の若獅子』の兄弟みたいで素敵だよ」
「えぇ〜…」
パクリだよねそれ!
「アイヴィーは何でもいいから」
「わたしも〜」
「『舞獅子と狩人』がぐっどねーむ!」
「前言撤回でルウラの提案だけは却下する」
「ふぁっく」
「ふぁ〜……もう何でもいいから決めなさいよ」
「うーん」
…個人的には誰にも染まらず自由だって象徴するよーなギルド名が……あっ!
「反逆…」
「反逆?」
「『反逆の黒』…はどうだろう」
「…どうしてまた反逆なんて単語を?」
ベアトリクスが問う。
「後悔しようと権力に屈せず自分が信じた道を貫く……そんな思いを込めて反逆って言葉を選んでみた」
「「「「「「……」」」」」」
「黒は誰にも染まらないって意味だ」
反逆の黒……ちょっと変だけど悪くない気がする。
「『反逆の黒』か……脳筋のあんたにしちゃ上出来なネーミングね」
レ、レベリオーテム?トーテムポールの親戚みたいな響きだ。
「…『反逆の黒』…アイヴィーは賛成だから」
「うふふ〜!ユウさんらしいギルド名ですね」
「くっくっく…悪くない名前だ」
「いえす」
「不条理なルールには抗うって気概も感じるし僕も良いと思う」
「ええ」
「…そうかな?」
「名付けで大事なのはフィーリングよ」
思いの外、大絶賛だぜ。
これ以上、悩んでも良い案は浮かばないだろう。
「よーし……俺の…いや俺たちの冒険者ギルドの名前は『反逆の黒』に決定だ」
大分、時間は掛かったがギルド名が決まった。まだまだやる事は沢山残ってるが大きく前進した。
フィオーネとエンジにも教えてやらなきゃ。
「うむ!それでは祝杯を掲げようでないか」
「……祝杯って今から?」
「寝酒に一杯ならば問題あるまい」
エリザベートの提案に嫌な予感しかしない。
「丁度、手土産に持ってきた良いワインがありますわ」
「ルウラも飲む!」
「未成年のルウラは葡萄ジュースだよ」
「……ラウラのけち」
「じゃあグラス持ってきますねぇ〜」
ーーきゅ?きゅきゅ〜。
「ん…キューもジュース飲みたい?」
ーーきゅう!
……案の定、一杯だけで済む訳もなく最後は酔っ払った四人の介抱をする羽目になったのだった。
ま、祝ってくれる人がいる幸せを噛み締めないとね!




