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紅い瞳が涙を流す。⑧



〜夕方16時 金翼の若獅子 広場〜



出入国管理所で手続きを済ませ帰って来た。


「久しぶりに戻ってきた感じがするな」


僅か二日間の出来事とは思えない濃密な時間を過ごした気がする。


「うん。大変だったけど楽しかった。悠がPTを組んでくれて昇格依頼も達成できたから。…ありがとう」


「そういえば昇格依頼を一人でも受注したかった理由は聞いてなかったっけ。教えてくれるか?」


「…みんなに認めて欲しかったから」


恥ずかしそうに俯く。…健気で泣けてくるぜ。


「きっと認めてくれるさ」


「ううん。もう気にしてない。…だって悠がアイヴィーを認めてくれたもん」


にこりと微笑む。目を覆っていた前髪を俺があげたゴムで留めている。


紅い瞳を曝け出すのは今までの自分との決別。


アイヴィーなりの意思表示なのだろう。


贔屓目で見ても天使だ。


まるで娘の成長を見守る父親の気持ち…いやいや!俺は未婚。ぴちぴちの30歳だぞ。


…でも友達は9歳の子供がいたっけなぁ。


「どうしたの?」


「あ、何でもない。さーて!キャロルも待ってるし報告に行くか」


「うん!」


元気のいい返事が返ってきた。


意気揚々と二人並んで施設へ向かう。



〜 金翼の若獅子 二階 受付カウンター 〜



受付前が騒々しい。


俺達を遠巻きに囲む人集りの声だ。


帰って来て早々に好奇の目で見てきやがった。


…ちょっとムカつく。


キャロルは俺たちのギルドカードの記録ログを確認している。


騒つく原因はもう一つある。


アイヴィーの紅い瞳…いや自信満々の姿だ。


以前と違い他者の顔色や噂話を気にしない毅然とした態度が気になるのだろう。


「…ナーダ洞窟のボスを討伐…。依頼達成を確認できたぜ。…うぉぉー!すげーぞ!!」


キャロルが叫ぶと集まったメンバー達も吃驚仰天の声を挙げた。


「二人ともほんっと無事でよかった。…すげーってしか言えねーよ…それにユー。…ありがとな。うちの頼みを守ってくれて」


「アイヴィーが頑張った結果さ。俺は手伝いをしただけだし……それにほら」


後押しするようにアイヴィーの背中を優しく押す。


「…アイヴィーは…またキャロルが……えっとね。…仲良くしてくれると…嬉しいから…」


頰を赤くした告白。


その言葉を聞いたキャロルの目に涙が浮かぶ。


「…ごめんな!…ずっと謝りたかった。…うちを助けてくれたアイヴィーに…化け物なんて言っちまったのに…うちは最低だ…」


「…ううん。一番、最初に優しく笑って話しかけてくれたのはキャロルだから…謝ることなんてないよ」


「アイヴィー!」


仲良く手を取り合う二人。長い誤解と蟠りが解消された瞬間だった。


心が暖かくなる良い光景だ。


「…ぐすっ…えへへ!…昇格依頼達成したんだ。新しいギルドカードの発行と…AAランク昇格に伴う説明があっから一緒に来てくれ」


「うん。…でも悠は?」


「俺は待ってるよ」


「…いや、実はユーにも大事な用事があんだよ。詳しい話はあとでいいか?」


「わかった。俺も相談したいことがある」


アイヴィーと一緒に家で暮らすって話だ。


ミトゥルー連邦の法律には詳しくないが養子縁組制度やケースワーカーは居ないだろう。


福祉制度が充実してるとは考え難い。


GMギルドマスターにアイヴィーの処遇は一任されたって言ってたからなぁ。


金翼の若獅子に話を通す必要があるのは確かだ。


…そういえばGMの名前すら知らない。


「質問があるんだが」


ごつい獣耳のおっさんが声を掛けてきた。


「質問?」


「…あの化け物の過去や経緯は知ってるのだろう。…PTを組んで恐ろしくなかったのか?」


………。


「アイヴィーを化け物って呼ぶのは止めてくれ」


「…何故だ?」


…何故、だと。


「ノスフェラトゥのヴァンパイアだぞ。今や幼い身でAAランクまで昇格した。…化け物以外の何者でもないだろう」


「そうよ。…呪われた紅い瞳…影を操る力…恐ろしいじゃない」


「不気味だしな」


「危険な存在なんだ。それを手助けするなんて……お前は正気かよ」


好き勝手に陰口を叩く。


「……いい加減にしろよ!」


俺は怒鳴った。


「…あの子は化け物じゃない。幾ら強いって言っても10歳の子供だ!…闇ギルドの父親がいる?ノスフェラトゥのヴァンパイア?…影を操る?紅い瞳が呪われてる?…下らない世迷言をほざくな!アイヴィーは何も悪いことをしてねぇだろ!?」


息を飲むように静まりかえる。


その態度や言葉にはうんざりだ。


…両親を亡くした子供が皆に認められたくて一生懸命、頑張ってるだけなのに…!


「アイヴィーは優しくて…本が好きな…ただの子供だ!!…知りもしないで…理解しようともしないで…罵るのはやめろっ!!」


「…………すまない」


おっさんが謝る。


…まだまだ言い足りないがこれ以上は控えよう。


「…急に怒鳴ったりしてすみませんでした。今のが質問の答えです」


集まっていたメンバーが散っていく。


怒鳴った手前、非常に居心地が悪く気まずい。



「…悠さん」



フィオーネだ。ナイスタイミング!


「ちゃんと私からの依頼を達成してくれましたね」


ああ…癒されるんじゃあ〜。


「当たり前だろ」


「…それにさっきの啖呵は格好良かったですよ」


「聞いてたのか。この歳であんな風に怒鳴るのって大人気ないっつーか……。恥ずかしいとこ見られちまったな」


「…いえ。何も恥ずかしくありません。アイヴィーちゃんの為に一生懸命な悠さんは立派で誇らしいです」


照れ臭いがそう言われると悪い気はしない。


「…ありがとう。それとキャロルから大事な用事があるって聞いたんだかフィオーネは知ってるか?」


「はい。…悠さんはご存知ないでしょうが『金翼の若獅子』の副GM…『灰獅子チェネレ・レーベ』のラウラ・レオンハート様が面談を希望されてます」


「副ギルドマスター……ってかなり偉い人だよな」


「ええ。…諸事情があり実質、現在の『金翼の若獅子』を取り仕切る御方になります。悠さんが冒険者ギルドに登録されて僅かの期間でのGランク依頼達成とAランクメンバーとの決闘…。そして今回のAAランク昇格依頼に同行しクエスト達成を果たしました。噂を聞き及び是非、会ってお話がしたいそうです。『串刺し卿(ヴラド)』のエリザベートさんも関わってます」


あの人かぁ…。


「私も聴取を受け知り得る限りの情報を申し訳ありませんがお伝えさせて頂きました…」


「気にしないでくれ。こっちも都合が良い」


「都合?」


アイヴィーと一緒に暮らす経緯を説明する。



〜数分後〜



「…アイヴィーちゃんがそんな事を…」


「ああ。出会って時間も短いが放っておけないんだ。俺はあいつの願いを叶えてやりたい」


「そういう事情ならラウラ様にお話するのは間違いないですね。…本当に悠さんが何者なのか問い質したくなります。アイヴィーちゃんが短期間でここまで打ち解けるなんて……」


「田舎」


「田舎者ですよね。分かってますよ」


ちょっと意地悪そうに笑う。


…言わせたげてぇ!最後までぇ!!


「…まぁ、特別な事はしてないよ。助けたいって思って行動した結果が上手く事を運んだだけさ」


「簡単に言われますが……ふふ。いえ、悠さんなら当然なんでしょうね。……ちょっとアイヴィーちゃんが羨ましいです」


「羨ましい?」


「………本当に意味が分かりませんか?」


「全く」


「…鈍感」


頰を膨らまし拗ね顔のフィオーネ。可愛いけど鈍感ってなんなんだ。察しは良い方だと思うけど…。



「やぁ、御二人さん。くっくっく…お話中に悪いね」



この特徴的な笑い声はエリザベートさんだ。


軍帽軍服が似合う綺麗なお姉さん。


「貴公の吾を見るその顔を察するにフィオーネ嬢から話は聞いた様子じゃあないか」


「ええ、大体は」


「話が早い。早速、『灰獅子』の処へ行くとしよう。…貴公もアイヴィー・デュクセンヘイグ嬢の件で話したい事があるんだろう」


「…盗み聴きしてたんですか?」


「くっくっ。ただの偶然さ」


底が知れない人だな…。


フィオーネに待ってて欲しいと伝言を頼み副GMが待つ部屋へ移動した。




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