知れ渡る魔王復活!①
12月18日 午前8時更新
12月18日 午前9時27分更新
12月21日 午前7時47分更新
〜百合紅の月29日 午後13時10分〜
バルト海は海獣種のモンスターが跋扈するリヴァイアサンの支配海域…アジ・ダハーカ一行は海獣の王が棲家とする『海神の祠』に居た。
神骸の地ムファサとはまた別の禁域……海の魔窟『貝骨の穴』に守られし秘境の地である。
〜禁域 海神の祠 珊瑚の庭〜
色鮮やかな珊瑚礁と美しい海藻…太古の魚や不可思議な軟体生物が悠然と泳ぐ。砂金を混ぜたように輝く海水は魔素が豊富で濃いためだ。
幻想風靡な光景に相反し、効果の高い水中呼吸と肉体活発化の魔法をエンチャントしなければ辿り着けない。
ーー海の底とは思えない美しさですね。
ーーまぁ、雹晶窟ほどではないが魔素が濃いし長居はできんがの。此処の海水に長く浸かっとると血が蝕まれ『塩毒』になってしまうんじゃ。
アジ・ダハーカは平然と答えた。
ーーそうだわ。昔、彼とあなたがリヴァイアサン様に叱られたの覚えてる?
ーー………。
オルドは一瞬、硬直し返事はせず頷く。その表情は憮然として不機嫌そうだ。
ーーかっかっかっ!懐かしいのぉ。
ーー…オルドさんが怒られた?
アジ・ダハーカが笑いつつ、フカナヅチに説明する。
ーーリヴァイアサンの下僕クラーケンとオルガを巡り大喧嘩し叱られたんじゃ。
ーー其奴は竜ですか?
ーー全然違うぞ!蛸……じゃなく魔烏賊の魔物じゃな。
ーー……あれは海に漂う腐った肉の塊です。
ぼそっとオルドが貶した。
ーーなんや一目惚れしたとかでオルガに猛烈に迫っての…オルドと夫婦となる前じゃったし所謂、横恋慕じゃな。
フカナヅチは興味津々で傾聴する。
ーー夫は意地っ張りで頑固でしょ?中々、妻になれって言ってくれなくてね……やきもきしてたわ。
反対にオルドは居心地が悪そうに俯く。
ーー此奴も必死じゃったのかクラーケン率いる海獣の一派に単身で突っ込み、大暴れしおってな。紆余曲折あり、怒ったリヴァイアサンに叱られ仲良く喧嘩両成敗じゃ。
ーーそれから一ヶ月後、漸くわたしに求婚してくれたの。
竜にも歴史あり…知られざるオルドとオルガの結婚秘話である。
ーー女心に鈍いとは重罪じゃな。悠にも聞かせてやりたいわ。
ーークックック!左様かと。
ーー雌が手綱を握らないと雄は勘違いしますから…ねぇあなた?
ーー……あ、あぁ。
オルドは羞恥心でこの場から逃げ去りたい気持ちで一杯だった。
雑談に花を探せつつ、珊瑚の庭を抜けリヴァイアサンが居る海神の玉座へ到着する。
〜30分後 海神の祠 海神の玉座〜
フカナヅチは言葉を失う。
ーーかかかかっ!久しぶりじゃのリヴァイアサンよ。
ーーほんとだねぇ…最後に会ったのって何年前だっけぇ?あはははは!!忘れちゃったぁ。
再開にお互い、顔を綻ばせる。
ーーあ〜〜!君はオルドくんとオルガちゃん?まぁまぁ……こんなに立派になっちゃって……時が経つのは早いなぁ。
ーーうふふ…お久しぶりです。
ーー…お元気そうで何より。
ーーそっちの若い子は飛龍かな?
ーー妾の従者じゃ。ほれ…フカナヅチも挨拶せい。
アジ・ダハーカに促され我に返る。
ーーら、嵐飛龍フカナヅチと申します…『海獣の王』にお会いできて光栄の至り…。
ーーはははは!畏まらなくていいよ〜。敬称も要らないし…僕のことは気軽にリヴァちんって呼んで?
途方もない大きな空洞はドーム状に広がり両端は見えず遥か上には巨大な穴があり、見窄らしい玉座が中央に鎮座していた。
ーーアーちゃんに念話を貰った時はビックリして飛び起きたよ〜。
リヴァイアサンは可愛らしい声で喋り笑う。
体を揺らしただけで地鳴りのような音が空洞に響き震動で揺れる。
……フカナヅチは今まで様々な魔物と相対し闘ってきた。
中には飛龍の自分より体格に優れ巨大なモンスターも大勢、含まれているがリヴァイアサンはその範疇を超えていた。
目測で全長を測れない程、巨大なのだ。
鯨でさえ丸呑みしてしまうだろう牙の生えた口…黄色の瞳に睨まれば微動だにできない圧巻の迫力…手脚のない蛇か竜とも似た風貌……全てが規格外の大きさだった。
青い鱗はアクアマリンの宝石のように光沢を放ち、背鰭・尾鰭・腹鰭が揺らぐ。
リヴァイアサンは海獣の祖であるレヴィアタンの血を継ぐ唯一のモンスターである。
ーーア、アーちゃんはやめい!皆の前で恥ずかしいじゃろが!?
ーーもぉ〜照れ屋さんなんだからぁ。
ーーったく……そう云えば他の者はどうした?
ーークラくんとヤチは皆を連れてお仕事中だよ〜。
肩を撫で下ろし、オルドの表情が和らぐ。
クラーケンとよっぽど仲が悪いのだろう。
ーーんでんで!念話で言ってたけど用事ってどんなの?
ーーうむ…その前にお主を見上げ話すのは疲れるし変異してくれるか?
ーーいいよぉ。では超久々に……そーれ!『海人変異』〜。
強い光がリヴァイアサンの全身を包み姿を変える。
とてつもない巨体がみるみる縮んだ。
「ふぅ〜」
収束する光の中から幼女が現れる。
龍人変異したアジ・ダハーカと同じ位の背丈で、青い綺麗な髪が海中に靡く。特筆すべきは腰から下が魚であり、無数の透明な尾鰭と青い鱗で覆われてることだ。
黄色の瞳とウェーブがかかった青い髪に彩りの真珠の装飾はさながら童話の人魚姫である。
麗しい美幼女はにんまり、と笑う。
ーーどれ妾も…っと。
アジ・ダハーカも人の姿へ変身する。
「あははは!アーちゃんも昔とあんまり変わってないね?」
「それはお主もだろうが…わっぷ!?ひ、引っ付くな」
「むふふふ〜」
無邪気に戯れるリヴァイアサンだった。
ーーあの大きさから幼子へ…?
ーーリヴァイアサン様はアジ・ダハーカ様と同じ長寿…原祖の血を継ぐのだろう。
フカナヅチの疑問にオルドが答えた。
「それじゃ本題に移ろうかの」
「うんうん」
「実はなーーーー」
アジ・ダハーカは悠と出会った経緯を簡単に説明し尋ねた用件を話した。
〜数分後〜
「なっるほどね〜!それで僕の『海玉』が欲しいと?」
「うむ」
「別に構わないけど…異世界の来訪者にして祟り神の契約者って…俄かには信じ難い話だねぇ」
「本当じゃ」
「ま、アーちゃんが嘘を吐くとは思わないし信じるよ!…でも凄いことになってるね〜」
リヴァイアサンは頰を膨らまし目を細める。
「僕も偶には外に出なきゃダメだなぁ…すっかり引きこもって世間知らずだよぉ」
「かかかっ!お主が外海に出れば小島が幾つも沈むからの」
「えへへ〜」
笑ってるがとんでもない大災害である。




