紅い瞳が涙を流す。⑦
「ゆう…悠…悠っ!」
何度も俺の名前を呼ぶアイヴィー。
「…大丈夫だ。生きてるよ」
優しく頭を撫でる。
「……無事で…ほんとに、よかった…」
「アイヴィーのお陰さ。それにしても凄かったぞ。覚醒って言ってたが…」
「……特殊な種族の亜人や一定のLvに達した亜人が習得する固有スキル。…アイヴィーはこの姿が好きじゃないから」
「妖精みたいで可愛かったぞ。羽根も生えてたしな」
「……ほんと?」
きらきら輝く紅い瞳で見上げる。
「ああ。蝙蝠の妖精とかな」
それを聞いて口をへの字に曲げた。
「……コウモリ…かわいくない。女の子に蝙蝠の妖精って言っちゃうのがアイヴィーはがっかりだから」
駄目出しされた。背中の羽根が消える。
「……悠…ごめん。……覚…醒する…とすごく眠くなるの…寝てもいい…?」
蕩けた表情でとても眠そうな声のアイヴィー。
「ゆっくり休んでいいよ。おやすみ」
外敵も居ないし大丈夫だろう。
直ぐに寝息が聴こえた。
「…こんな小さいのに本当に偉いぞ」
隣にゆっくり寝せる。周りを見渡すとダンジョン内の景色に変化が訪れた。
暗い空間が淡く光り池も澄んだ水で満たされている。
「フィオーネはボスを倒せばモンスターが沈静化するって言ってたっけ…」
モンスターだけでなく魔窟内にも影響するらしい。
幻想的な風景で癒されるが失ったHPとMPを回復させないと…。
特製ハイポーションとマジックドリンクを全部、飲んでHPとMPを回復したが水流で受けた擦過傷や折れた骨は完治していない。
もう少し休憩してから動くか。
〜30分後〜
「おし。もう大丈夫そうだ」
怪我も治癒し動けるまで回復した。倒したボスの死骸と素材の回収を済ませる。
…そうだ。ステータスを確認してから出発しよう。
帰りは逃避の木偶人形を使えば良いし。
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名前:黒永悠
性別:男
種族:人間
称号:穢れを背負う者
職業:禍の契約者 Lv1 ←
戦闘パラメーター
HP10000 MP4000
筋力1690 魔力240 狂気3000
体力800 敏捷1000 信仰-1000
技術1000 精神240 神秘1000
非戦闘パラメーター
錬金:50 鍛冶:70
生産:60 飼育:30
耐性:狂気耐性(Lv Max)神秘耐性(Lv Max)
不老耐性 不死耐性(Lv4)聖耐性(-Lv Max)
戦闘技:獣狩りの技法・ギミックブレイク ←
魔法:闇魔法(Lv3)
奇跡:死者の贈り物・病を呼ぶ霧
呪術:禁呪・白墨蛇・呪炎・禁呪・九墨蛇 ←
加護:アザーの加護 夜刀神の加護
従魔:祟り神(親密度21%)←
固有スキル:鋼の探求心 浸食 冒涜者 閉心
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職業
禍の契約者
①祟り神と契約した者の職業。
②派生先→???(必要Lv20)
戦闘技
①獣狩りの技法
深淵の獣を斬り殺した封印された女神の技。
・真月之太刀…獣を無惨に斬り祓う技。
・萬月之太刀…周囲の獣を無惨に斬り裂く技。
・一刀・煌…獣を無惨に斬り刻む斬撃を飛ばす技。
呪術
①禁呪・白墨蛇
契約した祟り神の力。血とMPを代償に三匹の白蛇を召喚し苛烈に敵を猛追する。
従魔
『祟り神』
①黒永悠が契約した禍の夜刀神。親密度の上昇に伴い契名を与える事が可能。現在の親密度では契約者側からの対話は不可。
②『祟り神』側からの対話に応じる事は可能。
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名刀・金剛鞘の大太刀+1
・浸食の効果発動により斬れ味・威力・間合いを
更に強化。
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「遂に敏捷・技術・神秘も四桁突入だ。信仰はマイナスで四桁だけど…。職業が禍の契約者に変わってまたLvも1からスタートか」
戦闘技や呪術は機会を見て試すとしよう。祟り神との対話、か。俺からは出来ないらしい。
もどかしいが応答を待つしかない。色々と話したいしね。契名も含めて。
…確認も済んだしそろそろ出発だ。
アイヴィーは起きそうにないからおんぶして…っと。
「…んん…」
天使って言っても過言じゃない可愛い寝顔だ。
逃避の木偶人形を握り締めMPを消費した。一瞬で景色が変わり洞窟の外に瞬間移動している。
昼過ぎぐらいの時間みたいだ。
「うぇっぷ…」
魔素欠乏症で頭が痛い。
倒れる訳にもいかないので木に寄りかかる。
「…ふぅー…」
息を整えてから金翼の若獅子に向けて出発した。
〜1時間後 ナーダ平原〜
数時間前までダンジョンで死闘をしてたのが嘘のように気持ちいい風が頰を撫でる。
「…ん、悠…ここは…?」
アイヴィーが起きる。
「ナーダ平原だ」
「…どうやって私をおぶってダンジョンを出たの?モンスターもいるのに…」
「んー…。魔導具のお陰かな」
緋の魔女ランダとアルマに足を向けて寝れない。
「脱出用の魔導具は貴重品……持ってるなんてすごい」
貰い物だけどね。
「まあな」
「…ねぇ悠」
「ん」
「…楽しい夢を見てた。お父さんとお母さんの夢……一緒にピクニックに行った時の楽しかった記憶を…夢で見てたの。…お父さんがおんぶしてくれて…お母さんが隣で笑ってくれてた」
「……」
「…悠は…アイヴィーのお父さんみたい」
「…そっか」
風が優しくそよぐ。
少し沈黙した後にアイヴィーが再び喋りだす。
「…悠と出会えて…本当にアイヴィーは幸せだから。ギルドに戻っても…また一人でも…大丈夫。悠から…いっぱい助けて貰って…褒めてくれて嬉しかったよ」
「なんで別れの言葉みたいなこと言ってんだよ」
「だって…」
まだアイヴィーに伝えなきゃいけない事が沢山ある。
「…俺もなアイヴィーぐらいの歳で両親を亡くしたんだ」
「え…」
「事故だった。両親が死んで施設に預けられてさ…よく苛められた。当時は誰かに助けて貰いたくて…辛くて…ずっと泣いてたよ。だからアイヴィーを放っておけなかった。…子供の時の自分を見てるようで」
偽りのない本心を話す。
「……」
「…なぁアイヴィー。…ずっと…ずっと我慢して苦しかっただろ?…まだ10歳なんだ。我慢なんてしなくていい。願いや我儘も遠慮しないで言ってみろよ。俺が幾らでも聞いてやる」
「……ほんと?」
「ああ」
「…アイヴィーね……みんなと仲良くしたい。キャロルとも…昔みたくいっぱいお話がしたい」
「キャロルもアイヴィーに酷いことを言ったって後悔してたぞ。…きっと仲直りできるよ」
「…前髪も…こんな風に伸ばしたくない…おしゃれしていつかお母さんみたくなりたい」
「いいな。俺もそっちの方が可愛いと思う」
首に回す小さな手が震える。
「……ギルド…の寮なんて…住みたくない」
「…うん」
「…悠の…作ったシチューが…また…食べたい」
「任せろ。作ってやるよ」
俺は前を見て答える。
「…ネコさんにも……また触りたい……」
「アルマも喜ぶぞ」
「…一人は嫌…」
「…うん。俺にどうして欲しいか言ってみろ」
「……アイヴィーは…」
感情が溢れ首筋を温かい水滴が濡らした。
「…悠と…離れたくないっ…一緒に…いたい!…アイヴィー…は…頑張るから…掃除もするし……料理だっで……覚えるから。…だから…悠の家で……一緒に…ひっく…暮らしたい…!」
「…ああ。一緒に住もう」
紅い瞳が涙を流す。
俺の背中でアイヴィーは泣く。大声で泣いた。
…どれだけの思いを我慢し願いを押し潰してきたのだろう。
これからは我慢しなくていい。
この子は俺だ。あの時の俺なんだ。
同情や憐憫からの情け……それでも構わない。
…幸せにしてやりたいんだ。
そんな決意を胸に秘め進む。
転移石碑までもう少しだ。




