水没せしルカナンシュメク ①
12月9日 午前7時45分更新
12月9日 午後15時46分更新
12月10日 午前8時7分更新
〜14日後〜
あれから、瞬く間に時間が過ぎていく。
やんちゃなオルタとオルカの遊びに連れ回され、フカナヅチとウェールズの稽古に付き合い空いた時間で水郷を散策し大自然に癒される毎日……贅沢な平穏ってやつを満喫している。
皆で囲む賑やかな夕食も楽しく、お陰様で貯蓄してた調味料と備品も見事に使い切りそうだ。
……毎夜、繰り広げられるアジ・ダハーカとフカナヅチの熱烈なアプローチの話は……また今度でいいや。
〜15日目 早朝 龍神の水郷 水没の遺跡群〜
一人で朝の散歩ってのも悪くない。
水に沈む廃墟と森ってのは神秘的で目を奪われる。
…オルドとオルガに厳しく此処で鍛えられたっけ?
新鮮な水は清らかな空気を生む…大きく深呼吸した。すぅーはぁー…タバコで汚れた肺が浄化されてく気分!
「あ、魚だ」
優雅に泳ぐ巨大魚と小魚の群れを発見する。
うーむ…最近は肉ばっかだし無性に魚が食いたくなったぞ。
「…釣り竿はないし手掴み?」
ま、朝風呂ならぬ朝泳ぎっつーのも偶にはいいもんだ。
水深は深いが透明度は高いしよく見える。
服を脱ぎパンツ一丁になった。準備体操してっと…おいっちに!おいっちに!
「よっと」
ジャンプして飛び込み水柱が立つ。
〜水没の遺跡群 水中〜
おぉ…思った以上に視界がクリアだ。全然、目も痛くならない。
水が澄んで綺麗な証拠だろう。
張り切って今日の朝飯をゲットするとしよう。
〜6分後〜
「とったどーー!」
淵嚼蛇で捕まえた魚を掲げ、某芸人のように叫ぶ。
…手掴みとゆーか漁をしてる気分だ。
水中といえど自由自在に動く黒蛇を前に哀れな魚は抵抗虚しく捕まる。
水面から露出した遺跡に上がって、数えると十匹以上は捕まえていた。
えーと…龍魚ホウボウ・雹魚ライライ・滝ガツオ・翡翠イワナ……ふむふむ…どれも食用可能とは有り難い。
手速く〆て収納する。貪欲な魔女の腰袋ならば時間が経とうと鮮度が落ちる事はない。
「ふぅ…」
まだまだ時間はあるな。息を吸い込み再び飛び込む。
〜水没の遺跡群 水中〜
沈んだ遺跡は多種類の魚や昆虫っぽい不思議生物の住処となっていた。
幻想的な水の世界はさながら自然のアクアリウム。
…しかしまぁ、息継ぎなしでこんなに潜水できるとは思わなかった。本気で頑張れば10分はいけるかも?…どんどん人から離れてく気がする。
「!」
水底に沈む石碑の残骸を見つけた。
ところどころ欠けてるが…えーっと…第九防衛…拠点…ルカナンシュメク……ルカナンシュメク?
「……」
ふむ…ヒャタルシュメクと何か関係性がありそうだ。
龍神の水郷の遺跡はココブー王国の遺跡と共通する類似点が多いしな。
マップを展開しよっと……む!?
近くの遺跡に緑の矢印が点滅していた。
その場所を目指して泳ぐ。
〜水没せしルカナンシュメク 入り口〜
「!…っ!?」
矢印が示す場所に到着するも往生する。
だ、駄目だ…折角、遺跡の入り口を見つけたが非常に硬い青の結晶石で閉ざされていた。
水中で浮力が作用するとはいえ俺の筋力で押しても引いても…殴っても駄目となると魔法の類か?
……確かヒャタルシュメクも赤い結晶石が出口を塞ぎ壊せなかったって皆が言ってたっけ。
「……」
恐らくロストテクノロジーの防衛機能だと思う。冷静に考えると霊臓を操作した際にそれっぽい文章もあった。
むう…余計に気になる所だがそろそろ戻って酸素を吸わないと溺れちまう。
後ろ髪を引かれつつ、水面を目指し浮上した。
〜数分後 水没の遺跡群〜
水面から顔を突き出し目一杯、空気を吸う。
「ぶはぁ!…すぅー…はぁー…寒っ」
季節は夏だが水の中は冷える。
大の字で遺跡の屋根に寝転び、陽射しを浴びた。
「朝から何をしてる?」
「…ウェールズか」
赤髪を靡かせ彼女は顔を覗き込む。
「泳いで魚を捕まえてたら体が冷えてな…ぶるるっ」
「魚を?」
「ああ…は、はっ…はくしゅん!」
…寒くて体の震えが止まらん。もしかして低体温症ってやつか?
水の中で動き過ぎて体温を相当、奪われたみたいだ。
「…大丈夫か?唇が紫色だぞ」
「ち、ちょっと…大丈夫じゃないかも…」
震えて奥歯と奥歯が擦れ合う。
シ、シ、シバリングってやつだ、だな!
「寒いならばこうすればいい」
ウェールズの左掌の上に揺らめく炎の玉が浮かぶ。
「な、な、何を?」
「体を燃やせば暖まるだろう?あのポーションとやらを飲めば、即座に火傷も癒えるしな」
躊躇なく燃やそうとする彼女に向かって叫ぶ。
「…す、ストーーーップ!や、やめて!」
「何故だ?」
あ、荒療治過ぎるわっ!
「い、痛いのは嫌だしそれで焚き火をつ、作ってくれないか?」
「ちっ…まどろっこしい」
「!?」
ウェールズが隣に寝そべって俺を抱き締めた。
「な、何を……あったけぇ」
じんわりと体温が伝わってくる。
ホッカイロ…ってか湯たんぽ?急速に冷えた体が熱を取り戻していく。
「火を枯れ木に焚べるよりこっちの方が早い」
「ふぁ〜…生き返るぅ」
「水に浸かった程度で震えるとは人とは難儀な生き物だ」
「飛龍は丈夫そうだもんな」
ぬくぬくぅ〜!擦り寄り肌を密着させる。
「各々が持つ龍の特性は適応する魔素が豊富な環境でより強く戦闘数値に反映し強く発揮される。逆に反属性の魔素が多い環境では弱体化を防ぐ…これは『龍抗』というスキルだ」
「ほへぇ」
…なんだか眠くなってきちゃった。
「まだ寒いか?」
「あったかくて最高…このままこうしてたい…」
「…ふん」
鼻を鳴らすもウェールズの鼓動は態度と裏腹に早くなった。
〜10分後〜
「……」
「……」
沈黙が非常に気不味い。
…体温が戻りすっかり回復したが冷静に考えると誤解を生みかねない状況である。
パンツ一丁で密着し抱き着いてるのだ。
寒さで思考を放棄してたけど、好意に甘え過ぎた。
「も、もう大丈夫だ」
「そうか」
「ありがとな」
立ち上がりウェールズに礼を言う。
「…別に」
そっけなく答えるウェールズの頰がほんのり朱色に染まっていた。
いそいそと着替えた。
「…そ、そうだ!実は面白い発見をしてさ」
「発見?」
微妙な雰囲気を打破すべくルカナンシュメクの話をする。
〜数分後〜
「古代人の伝説は知ってるが…ふむ」
「別の場所でも発見したし間違いないと思う」
「恐らくアジ・ダハーカ様も知らないだろうな」
ウェールズは水底に沈む遺跡を一瞥し答える。
「新たな発見もドラグマの神樹の守護に勝る価値はない」
「なるほど」
…しかし、深淵の獣に関する情報や秘密が眠ってるかも知れないし探索出来ないだろうか?
「水の中で自由に動けないと詳しく調べるにも難しいし…うーん…」
「水中で活動したいなら魔法を使えば良い」
「へ?」
「水魔法のロ・オキシゲンがエンチャントに最も適してるが他の魔法でも代用可能な筈だ」
「…そんな便利な魔法があるの?」
「ある」
魔法ってスゲーー!
「まぁ俺はスキルのお陰で恩恵を受けれないけど」
「つくづく難儀な奴だ」
こればかりは仕方ない話だ。
「さて…腹が空いたし戻るぞ」
「おー」
「先程の件だがアジ・ダハーカ様にも相談してみろ」
「ああ」
「…今日の飯は?」
「ウェールズにはお礼にとびっきり美味い朝飯を食わせてやるよ」
「そうか」
普段と変わらないクールな表情だが尻尾は正直だ。ご機嫌に左右に振っている。




