貞操を守り抜け!⑥
12月4日 午前8時50分更新
12月7日 午前8時57分更新
〜同時刻 名もなき浮島〜
竜王降誕により、変貌を遂げたオルドの姿を目の当たりにしたフカナヅチとウェールズは息を飲んだ。
「…あれがオルドさんの本気か」
「身震いが止まらん」
「竜王降誕はオルドが星竜の血統に自惚れず研鑽を積み、かの戦いの最中で習得せし強化系スキルじゃ」
アジ・ダハーカが説明する。
「見て分かりますが…凄まじいスキルですね」
「うむ!妾も何十年振りに見たかのう」
それは悠の強さを物語る証でもあった。
ーー…もうオルドってば年甲斐もなく興奮しちゃって……妻としては恥ずかしい限りですわ。
ーーお、お父さんってばすごい…ねぇお母さん!?ぼくもあれやりたい!!どーすればいいの?
ーー…ちょっとオルタってばうるさい!
ーーほら、喧嘩しないでちゃんと見て。
父の剛勇たる姿を前にオルタとオルカは尊敬の眼差しを向け瞳を輝かせていた。
「どうやらオルドは初手から大技を出すつもりじゃぞ」
「…あれはブレスなのか?」
「風の嘶きが伝わってくる」
空へ飛び、魔力を溜めつつMPを消費するオルドを呆然と眺め二人は呟く。
「オルタにオルカよ。しかと父を見ておれ」
アジ・ダハーカは二匹に厳かな口調で告げる。
「飛竜を統べる王…いわば竜王の系譜と名は時代によりうつろうもの」
オルドの角と鱗が輝き、銀炎の竜巻が起きる。悠は必死に竜巻を躱し反撃のチャンスを窺っているが範囲が広く右往左往するしかない。
「火焔竜、氷刃竜、天空竜、崩土竜、不滅竜……遍く竜の中で竜王の名を冠した飛竜は僅かしか居らん」
銀炎が一層、燃え盛った。鮮烈な瞬きに魅入られるようにオルカとオルタの視線は釘付けとなる。
「お主達の父は現代の偉大なる竜の王なのじゃ」
ーー照れ臭いのか自ら竜王とは名乗りませんけどね……他の飛竜達も認めているのに。
「かっかっかっ!頑固で堅物な性格じゃからな」
「…このままじゃ悠は瀕死どころか死ぬと思います」
ウェールズがアジ・ダハーカに問う。
本人は気付いていないが声色は不安に染まっていた。
「それはどうかの〜?」
にやり、とアジ・ダハーカは笑う。
「以前にも増し悠は強くなった」
ーーええ…此処で稽古をしてた頃と今じゃ雲泥の差でしょう。
「彼奴が奥の手を使えば戦局はたちまち一変する……が使うつもりはないみたいじゃの」
奥の手とは禍面・蛇憑卸のことだ。
「奥の手ですか?」
「うーむ……むっ!?」
アジ・ダハーカが驚くのも無理はない。
悠は回避を止め、上段に大獄丸を構えたのだ。
〜同時刻〜
熱で肺は焼け、炎が皮膚を焦がす。深淵と不滅の刻印の効果がなければ倒れているだろう。
膨大な溜め時間は戦闘技の威力を高めている証拠だ。
……攻防一体の技なのか炎の竜巻で近付くことも回避も困難……かなりヘビーな状況である。
打開するために蛇憑卸を使うか?
答えはNo!力には力を…技には技で対抗じゃい!!
心頭滅却すれば火もまた涼し…くないけど、我慢だ。
大剣状態の大獄丸を上段に構える。天構えからの神束剣…併せてアビリティの重ね掛け…間に合うか!?
「剣者の理ぃ…淵、噛蛇っ…」
炎の勢いがどんどん強くなってやがる。
「く、倶利伽羅剣」
攻撃力が増大し属性を無視するこの奇跡は必須だ。
…よっしゃ間に合ったぜ!
途端に炎が消え静寂が訪れた。嵐の前の静けさ…いよいよか?
ーー…準備は?
「ふぅ…はぁ……ばっちこい!」
柄を握り直し威勢良く答える。
ーー銀に輝く雫よ…我が咆哮と共に息吹となり焚べよ…これぞ大いなる星の火なり!
「忿怒荒神流…奥義っ…」
赫奕せし炎が収束し破壊のエネルギーが膨れ上がる。
ーーアラステラル・フローガ!!
吐き出された炎が海嘯の如く迫る。その凄まじい破壊力に、結界のダメージ許容量が限界を超えた。
亀裂が蜘蛛の巣のように広がりみるみるHPも減っていく。
…このまま直撃すれば丸焦げ不可避ってか?
「ああああああっ!!」
叫び声に呼応し漆黒の刃が天へ伸びていく。
「か、神束剣ぃ!」
巨大化した大獄丸を一直線に振り下ろした。
ーー……なにっ!?
全力の奥義と奥義が激突し筆舌し難い衝撃波が起きる。
〜同時刻〜
アジ・ダハーカの結界が砕け消えていく。
ーー…はぁ…はぁ…どうなった…?
アラステラル・フローガを放った反動と衝撃の余波で負傷したオルドは飛ぶ事もままならず地に落ちた。
ーー……。
警戒を緩めず戦闘態勢は解かない。
突如、粉塵を突風が拐うと斬撃が被弾した。
ーーがっ…!?
「ち、ちくしょ…超痛ぇ…」
ーーゆ、悠っ!
満身創痍も甚だしい風体で悠は淵断・轟を放っていた。
オルドは迎撃しようとするも懐へ潜り込まれる。
ーーふ、ふふふ…練度を極めればいずれ奥義へ至る、か。流石だ……友よ。
自分の奥義が悠の奥義に相殺され、敗北を悟りオルドは清々しく笑う。
深淵の刻印・不滅の刻印・兇劒……属性ダメージを軽減しHPの自動回復と攻撃による回復効果が相乗し一手早く悠は動けたのだ。
……言い換えれば超希少な耐性と事象系統のスキルを保有する理外の契約者を相手に追い詰めたオルドの実力の高さも尋常でない。
ミコトは才能・素質を凌駕する力を悠へ惜しみなく与えている。破滅と表裏一体の危うい庇護ではあるが、神の恩恵は常識を逸脱していた。
「これで終わりだ」
ジャンプし最後の一撃を見舞おうとする。
ーー…おとうさーーーん!!負けないでぇ!
ーー勝ってーー!負けるなぁ!!
オルカとオルタの必死の声援が耳に届く。
「……」
悠はそのまま大獄丸を振り下ろす事なく着地した。
ーー…どうした?
怪訝そうなオルドを一瞥し大の字で地面に倒れる。
「ぐ、ぐわぁーー!お、俺の負けだ」
突然、わざとらしい大根演技を披露されオルドは口をぽかーん、と開き絶句した。
「完璧に負けたぜぇ…さすが龍峰で最強の飛竜だ!!」
ーーお、おい!一体何を…?
大声で叫ぶ、悠に戸惑う。
ーーわ〜〜〜い!!お父さんが勝ったぁ!
ーーお父さんは最強だぁ!!
大喜びでオルドに飛びつくオルタとオルカを見て満足気に微笑む。
ーーむ、むむむ?……あっ!
不自然な一連の行動と言動にオルドは合点がいった。
「あー…このまま寝てたい」
ーー……呆れるほど優しくお前は強いな。
「え?何のことかさっぱりだけど」
寝そべり惚ける友にオルドは目を細め破顔する。
ミコトが惜しみなく力を与える理由がそこにあった。




