貞操を守り抜け!③
11月30日 午後12時28分更新
「むぅ妾は非常に納得いかんが…まぁいいわい」
頰を鰒みたく膨らまし唇を尖らせ呟く。
「アジ・ダハーカ…」
「…其方が飛び抜けた阿保で馬鹿で鈍感とゆー事実は遺憾し難いものがあるのじゃが…」
「…アホでバカで鈍感…」
ぼろ糞で泣けてきた。
「それでも好いてしまうは惚れた女の弱味じゃ」
「お、おう」
…心臓がドキっとさせられる仕草と表情だった。幼い見た目と裏腹の艶かしさを感じる。
なんか改めて意識しちゃうとヤバいな…って俺はロリコンじゃない!アジ・ダハーカはずっと歳上だし合法ロリってやつ?
事情を知らない奴が見れば犯罪臭が半端ないけどな。…速攻で騎士団へ通報されそう。
「えっと、フカナヅチもそれでいいかな?」
「クックック!致し方あるまいしこれは朗報だ」
「朗報?」
唇を吊り上げ笑う。
「アジ・ダハーカ様に気を遣う必要がなくなったからな」
「ほーー…やはり建前と本音は違ったか?」
「いえ飛龍の未来を案じ主を心底、敬愛し尊敬するは本心……流れの行く末が変わったと認識したまで」
「ふんっ…修行を請い龍人変異を習得し目的は達成…万々歳か。最近の若い飛龍にしては中々、見上げた根性じゃのう」
「お褒めに預かり恐悦至極」
「今のは皮肉じゃい!…まぁ勇む若者に身の程を知らしめたるも主の務めよ」
「遠慮は致しませぬ」
「かっかっかっ!明々たる力量の差を見せてやろう」
戦闘力は兎も角、スタイルではフカナヅチの圧勝だと思うけどね。
二人の間に剣呑とした雰囲気は漂ってない。
意外と和気藹々って風にも見える。
「…丸く収まりそうで安心した」
ウェールズが仏頂面で呟く。
「すまん」
…しかし、苦節三十年で漸くモテ期到来か。
相手は人外だが変異すれば美女と美少女…いや幼女?
感性がズレてるだけかも知れないが男冥利に尽きる話だ。ハーピーに欲情したって野朗の気持ちも理解できるかも……ってね。
「……」
「どうかした?」
不思議な物を見るような眼差しをウェールズは向ける。
「…フカナヅチとアジ・ダハーカ様の言う愛が私には理解できん」
「あー」
「参考までに聞くが愛とは何なのだ?」
「また哲学的な質問だな…うーん…誰かを想う強い気持ちや感情ってゆーか…」
「?」
「わるい…上手く説明できない」
「…役に立たない奴だな」
ひ、酷くない?
「千差万別にして不変なるものぞ」
アジ・ダハーカが会話に交ざる。
「千差万別ですか?」
「其方が友を殺され人を憎んだのも親愛ゆえじゃろう」
「……」
「例えば色というのは様々な色があるの?愛も同じなんじゃ」
「オルガさんがオルカやオルタを自己より優先するのも愛だ…子を想う母ほど強い者は居ない」
「…つまり…愛は強くなる要素?」
「そう捉えても構わん」
アジ・ダハーカは腕を組み喋り続ける。
「スキルやアビリティとは違うのですか?」
「かかかかかっ!違うの〜」
「……」
「無限の力とは愛を言うのかも知れん」
「私も愛を理解すれば更に強くなれる…?」
「保証はせんがな」
生真面目な性格なのかウェールズは真剣に悩み始めた。
「クックック…恋愛とは不可思議なものでこればかりは経験せぬば理解できんだろう」
その対象が俺なので聞いてて照れ臭くなる。
「そうじゃの〜…悠よ、今宵は抱き締め離れんからな」
えぇ…あの告白を受けた後に一緒に寝るってどうなの?
「ならば我も隣に」
「駄目じゃ!」
「…何か問題がお有りですか?」
「ふっふっふっ…これは龍峰の主としての特権じゃからな」
どんな特権だよ!
「いや一人で寝るから」
きっぱりと断る。
「は、はぁ!?何故じゃ?」
「告白されて返事もしない内に一緒に寝れるわけないだろ」
「…意味が分からぬ…お主はわかるか?」
「我も分かりませぬが納得いく答えではないかと…」
「そーゆーもんなんだよ」
「むぐぐ………嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ〜!一緒に寝るったら寝るのじゃ〜〜!!」
全身で不満を表現するアジ・ダハーカは駄々っ子にし見えない。
湯が四方八方に飛び散った。
「…我と主が可哀想とは思わんのか?」
「そうじゃぞ!この亭主関白!!」
亭主関白の意味を分かってるのか甚だ疑問である。
「だって間違いが起きたら大変だろ?…その、なんだ…俺が襲っちゃったり…」
「襲う?」
「えーと…つまり欲情して手を出したりとか」
自分で説明するのって羞恥の極みだな…。
アジ・ダハーカは問題ないと思うがフカナヅチは危険度大である。
「成る程、夜這いというやつじゃな」
「……寧ろその方が都合が良い」
「え?」
「既成事実が生まれれば待たずとも答えは決まる」
「!…その通りじゃ…手を出しておいて逃げるなどと不誠実な暴挙は悠は出来ぬはず」
「主」
「うむ…襲ってしまえばこっちのもんじゃな」
「!?」
獲物を見つけた飛龍は舌舐めずりして笑う。
「お、お前ら…」
「ふへへ…如何に其方が強くなろうと妾の膂力を抑え込めんぞ?」
「クックックック…我も是非お手伝いを」
て、貞操の危機じゃん!逆レ○プじゃん!!
藪を突っついて蛇どころの騒ぎじゃない。
「ちょ、ちょっと……こうしようぜ!俺が明日、オルドに負けたら一緒に寝るけど勝ったらなし…どうだ?」
窮地に追い詰められよく考えず口走ってしまった。
「何故、そんなまどろっこしい約束を妾がせぬばならん」
「……約束しないとベルカに帰ってアルマに告げ口するぞ」
「ア、アルマ様じゃと?それは卑怯じゃ!」
曠野の魔王の名は効果絶大……ってどの口で人を卑怯って言ってんだ?
「ふみゅう…むぅ〜……そうなれば致し方あるまいな」
「ほっ…」
やった!帰ったら死ぬほど肉を食わせてやらなきゃ。
「…オルドさんには是が非でも勝って頂かないと」
「うむ…しかし、其方も安心してる場合じゃないぞ?」
にやっとアジ・ダハーカは笑う。
「本気のオルドは強いからのぉ」
「ですね」
「…そんなに?」
「昔、『喰王』と呼ばれる不滅の魔竜をオルドさんは単騎で打ち倒した」
喰王…不滅の魔竜…すっげぇ強そうな響きなんだけど。
そもそも不滅が倒される時点であり得ない。
大袈裟な比喩表現…?でも、アジ・ダハーカが強いと明言するなら相当なレベルに該当するに違いない。
「不滅竜は同胞を食し命を永らえる凶暴な飛竜……その力は百戦錬磨の龍に匹敵し今の我でも決して敵わぬ」
「うむ!あれは厄介な竜で妾でも面倒な相手よ」
「……」
それを倒したオルドとガチバトル…や、やばいかも?
「な、なぁやっぱり…」
「クククッ!明日が楽しみですね?」
「そうじゃのぉ!まさか…条件を緩和せよなどと男らしくない台詞を悠は言わないじゃろうし」
「……」
ずばりお見通しかよチクショー!
「かかかか」
声高らかに笑いやがってからにぃ……貞操を守り抜くためにも絶対に負けられない戦いだな。
「…ルイーナへの友情とは異なる気持ちか」
「どうかした?」
「別に」
難しい表情を浮かべたウェールズは俺から顔を背け溜め息を吐いたのだった。




