貞操を守り抜け!①
11月26日 午前9時53分更新
〜夜22時31分 龍神の水郷 霊脈の秘湯〜
「ふぁ〜…生ぎ返る゛ぅ〜」
満天の星空と秘湯のロケーションは最高だ。
疲れも跡形もなくぶっ飛ぶってもんさ!
龍峰から流れる水のせせらぎが心地良く聴こえる。自然のヒーリングミュージックってやつだな。
「…これはまた右腕が随分と黒く染まったのう」
「ん?あぁ…まあな」
隣で湯に浸かるアジ・ダハーカの双眸が細まる。
「ふむ…ちらっと言っておった深淵の獣とやらの影響か」
「だと思う」
「要らぬ心配じゃが妾との約束を破り逆誄歌は使っておらんよな?」
ぎ、ぎくぅ!
…避けてた話題をぶっ込んできたな。
アジ・ダハーカに下手な言い訳は通用しないだろう。
「じ、実はだな…」
「?」
秘密にして暴露たら後が怖いし正直に話した。
〜数分後〜
「ーーーーこの戯け者っ!」
「ぶぶらっ!?」
黙って傾聴していたアジ・ダハーカが勢い良く立ち上がった瞬間、鋭い平手打ちが右頰に飛ぶ。
痛っでぇ……あ、顎が外れるかと思ったぞ。
「…其方の耳は飾りか?両耳を引き千切り燃やしてやりたいわい」
「ひゅい!?」
耳なし芳一になっちまうじゃねーか!
「あーーもーー!…良いか!?今一度言うが二度と使うでないぞ!二度とじゃ!!」
「あい…」
「次、使えば問答無用で水郷に監禁するからな」
「それは人権侵害じゃ…」
「ほーう…もう一発喰らわせねば理解せぬと申すか?そうかそうか」
相当、ご立腹なのか凄まじい殺気と威圧感である。
「り、理解しました!」
背筋をピンっと伸ばし返事をする。
「…むむむ…説教し足りんがアルマ様にも叱られたと言うし反省しとるみたいじゃな…この辺で勘弁してやるわい」
ざぶん、と不機嫌な顔で湯に浸かり直す。
「すいません…」
俺も皆に悲しい思いは二度とさせたくない。アイヴィーとアルマと約束したし懲りてる。
「まったく…心配ばかりかける夫で妻は大変じゃ」
「…そーいえば自分を妻ってずっと連呼するのな」
「当たり前じゃ!妾のよーに可憐で…時に厳しく…凛々しい良妻賢母に恵まれた幸せを奥歯でしっかり噛み締めんと罰が当たるぞ」
噛み締めようにもあなたのビンタで奥歯がガタガタでっす!
…アジ・ダハーカなりの冗談を交えたコミュニケーションだろうし深く追求はしないでおこう。
下手な物言いをすれば怪我をする気がしてならん。
「どうされました?」
「アジ・ダハーカ様の怒声が聴こえましたが…」
湯気の向こう側で浸かっていたフカナヅチとウェールズがこちらへ移動して来た。
「何でもないぞ。ちと叱っとっただけじゃ…のう?」
「いひゃいふぇふ」
右頰を引っ張られた。
「左様ですか」
「……」
お子様体型のアジ・ダハーカは論外だが龍人変異したフカナヅチとウェールズは目に毒だ。
滴る水滴が胸と局部を覆う鱗に伝い、非常に扇情的で全裸よりそそる……ってか普通にエロいな。
湯で火照った肌もまた艶かしい。
ん?ウェールズの様子が変だぞ。焦ってるってゆーか…アジ・ダハーカを横目で気にしてソワソワしてる。
「…本気で主に言う気か?」
「無論」
「間違いなく殺されるぞ……私は知らないからな」
「クックック!絶好の機を逃すは愚鈍なり」
「……」
「二人ともどうかしたのか?」
「いや…その……」
歯切れが悪いウェールズの隣で意気揚々とフカナヅチは胸を張った。
うひょーー!おっぱいに目が釘付け……はっ!?
「……悠?」
不機嫌と殺気を5:5でミックスした声色だ。
…と、隣に座るアジ・ダハーカが怖くて見れねぇ。
「アジ・ダハーカ様」
「む?」
「…龍峰を照らす煌星であらせられる偉大な飛龍の長に若輩の龍が場を弁えず願うことを許して頂けますか?」
真剣な表情でフカナヅチは問う。
「其方が妾に願うとは珍しいな…遠慮せず申してみよ」
腕を組み傅く若き飛龍に長は快活に答えた。
「感謝します」
フカナヅチは俺を一瞥した後、喋る。
「…昨今、龍峰の飛龍は番をなさず龍の血と知を次代の我が子へ注ぎ果て命を育むのが常になります」
「それが血を濃く残すのに一番適しておるし、龍は単体で子を宿せるからのう」
「はっ…それ故に飛龍の数は激減し幼子が害獣に狙われ成熟せぬまま死せる憂いも御座いますが」
「弱肉強食は自然の摂理とはいえ如何し難い事実じゃな」
生態系のトップに立ってそうな飛龍も苦労があるんだなぁ…自然界ってのは厳しいもんだ。
「その通りかと。…しかし、アジ・ダハーカ様は人と龍の壁を超え悠という剛の者を伴侶に迎えました」
「うむ」
うむ…じゃねぇっつーの!!何を自信満々に頷いてんだ?
「間違いなく生まれる子は龍峰の未来を照らす新たな明星となりましょう」
「えへへ……そ、そんなに褒めるでないぞ?照れるではないか…のう悠よ」
にへら、っと顔を弛ませ満面の笑顔が咲く。
いや…肘で小突かれたが俺にどう答えろと?
「龍って雄と雌の境目が曖昧なんだっけな」
結果、明言せず適当に話題を逸らし答えた。
「なんじゃいその気の抜けた返事は…あっ!照れておるのだな〜?愛い奴め……うりうり」
「わ、わははは!て、照れてないっつーの」
脇腹を擽ってくるアジ・ダハーカだった。
「……その子種を更に撒けば空に燦然と輝く星々のように龍の未来は一層、明るくなるでしょう」
擽る手の動きが止まる。
ウェールズはフカナヅチの隣で冷や汗を流していた。
「…フ、フカナヅチよ?」
「はい」
「まさかお主の願いとは…か、かかかかかっ!い、いやあり得んわっ!!妾の考え過ぎ」
「我にも悠の子を宿す許可を頂きたい」
アジ・ダハーカの言葉を遮り願いを口にした。
ザ・フリーズ。
たっぷりと気不味い沈黙が流れる。
俺は口をポカーン、と開け呆然としていた。
「…え、えええええええ!!」
話がロケットブースターを装着して宇宙に飛び立ちやがった。絶賛、混乱中である。
こ、子種ってつまり……孕ませろって意味だよな?
どう血迷えばそんなん願うの!?




