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紅い瞳が涙を流す。⑥



〜ナーダ洞窟 最深部〜



目的地に到達すると池があった。


深く暗く底が見えない池。草も苔も何もない。ただ池がぽつんとあるだけだ。


「ここがボスの住処…。池があるだけだぞ」


「アイヴィーも暗くてよくわからないから」


いや違う…!


池には何かが蠢いている。…姿は見えないが悍ましさを感じる。


「!?」


「……こいつは…」


ーー愚カナ人ノ子ヨ…。


池の水が膨らみ声が聴こえる。


ーー我ガ居ヲ荒ラシ…我ガ僕ヲ殺ス。ソノ身ノ業ヲ知ルガ良イ。


池の膨らみが収まり水面に現れたのは…。



「ぁ…あ…あ……ぁ…!!」



……信じられない事にアイヴィーだった。


いや…黒い模倣体と言うべきか。偽物に決まってるが細部まで瓜二つだ。裸で不敵な笑みを浮かべている。


アイヴィーの顔が恐怖で震え引き攣っていた。


『アイヴィー…アイヴィー…アイヴィー。呪われた子。悪魔の子。闇の眷属の末裔。…そして化け物…』


偽物が意地悪い口調で語りかける。


「…離れろ!」


金剛鞘の大太刀を抜こうとしたがーー。


「ぐっ…!?」


現れたモンスターに邪魔をされる。


妖艶な雰囲気を醸す尻尾が生えた人外の女だった。


ーー貴様…我ガ幻ガ効カヌトハ……。


悍ましさの原因はこいつか。


ーー対象を確認。ステータスを表示ーー

名前:幻のジュエ

種族:ウンディーナ Lv74

職業:ナーダ洞窟 魔窟の支配者

戦闘パラメーター

HP300000 MP10000

筋力180 魔力4000 狂気4000

体力2105敏捷1000 神秘2000

技術309 精神200

戦闘技:幻魔技

魔法:水魔法(Lv7)

固有スキル:暁闇の誘い 支配者

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ナーダ洞窟の魔窟の支配者。幻を操り敵対者

の心的外傷を痛ぶる。耐性もなくダメージは

与え易いが魔法を使用し寄せ付けない。近寄

るのは至難の技。


心を抉り貪り愉悦する。それは支配者たる者

の所以。屈服し頭を垂れよ。

幻に足搔いたくば強き心か……狂気がなけ

ればいけない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


支配者ボスっ…!


「退けッ!!」


ーー心配カ?…無駄ダ。ア…小娘ハヨホドノ闇ヲ抱エテイル……ヒヒヒ。アアア…心地ヨイ…拒絶…絶望…喪失…迫害……暴力…狂オシイホドニ我ヲ悶エサセルノ……ッ!?


三日月斬りがジュエの胸を斬る。避けられたが傷口は浅くはない。紫の血が滴り落ちた。


ーー……人ノ身デ…我ニ…傷ヲ負ワセタナ…?代償ハ高クツクゾ!!


激しい水流と溟蒙がジュエの周囲を逆巻く。


「…もう一度言うぞ」


トラウマを抉る…。


酷い精神攻撃に晒されているアイヴィーを思うと怒りで腹わたが煮え繰り返した。


「退け」


ーー…愚問ヲ……死ヌガイイ!


「ちょっと待ってろよ…!」


金剛鞘の大太刀を掲げ突進した。



〜同時刻 ナーダ洞窟 最深部〜



ジュエの幻魔技に嵌ったアイヴィー。


『あなたの父親が皆に何をしたか忘れたの?罪もない人々を不幸にして…その報いをあなたは受けなきゃいけないのに……あの男が優しくしてくれて勘違いしちゃった?』


じわりじわり、と蝕む悪意の囁き。


「………ぃ…や……」



『アイヴィーは生きてちゃ駄目。幸せになる権利はない。……辛い思いをして死ななきゃダメなの』



「…いやっ……聞きたくない聞きたくない……!」



『他人から石を投げられ…家を燃やされて…残飯を漁って生き続けても……ママは…病気なのに誰にも助けて貰えなかったでしょ?……汚い小屋で腐って腐って腐って腐ってぇ!!……蛆虫の苗床になって死んだのにさぁ』


「……やめてぇぇぇ!!!!」


アイヴィーの心の傷を抉る幻のジュエの幻魔技『濁りミラーズ』。


直接的な攻撃力はないが他者の記憶から悪意の幻影を産み出し精神を汚染する技。深い傷や辛い過去を抱える者にこそ効果が顕著に表れる。


記憶の写し鏡なのだ。


『呪われた紅い瞳…化物…忌子…塵屑…あなたは価値がないのよ……死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』


「ち、ちがうもん……ゆ、ゆうは……悠はアイヴィーの目が綺麗だって………言ってくれたから…」


『そんなの嘘に決まってるじゃない…今まで何度も…何度も…騙され虐げられて…まだわからないの。ほら…剣を担いであなたを殺しにきたわよアイヴィー」


狂気に対し極めて強い耐性を持つ悠ならば問題ないが……幼いアイヴィーに抗う術はない。


「あ……あ…あ…ぁぁ……」


『……殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』


呪詛が心を犯していく。



〜数分後 ナーダ洞窟 最深部〜



ーー…グゥウウ!!?キ、キサマァ…。


「アイヴィー!!」


激闘の最中、漸く水流を突破しアイヴィーの元へ辿り着く。…黒い模倣体は消えていたが様子がおかしい。


「返事をしてくれ!」


「……悠……?」


良かった…。怪我はないみたいだ。


「大丈」


最後まで言えなかった。



「………あ?………ぁああああ…あああああッ!!!?イヤァーー!!!!」



アイヴィーの影が俺の腹に突き刺さっていた。



「……違……ちがう…アイヴィーは……悠……あああ……嫌ぁ……!!?」


正気に戻ったアイヴィーは慌てふためき取り乱す。


影が消え腹から服に血が滲む。


ーー……ヒヒヒヒヒヒヒヒヒアハハハハハァ!!幻ニ惑ワサレ自分ヲ慕ウ者ニ…刺サレタ気分ハドウダ。弱キ分際デ弁エヌカラコウナルノダ。


「……黙ってろ」


ーー…ナ……蛇ダト…!?


這い寄る白蛇を召喚しジュエに目掛け襲わせる。


少しでも時間が稼げなくては…っ!


「…ごめんなさい…ごめん…ごめんごめ……ごめんなさい…!!」


壊れたラジオのように謝罪を繰り返すアイヴィーを抱き締めた。


「あ…」


「こんなの大した傷じゃない。…辛かったよな。もう大丈夫だから」


「……ゆ、悠…。…アイヴィーは……アイヴィーは……死んだらよかったんだ。……だってアイヴィーに生きる価値なんて…ないもん。……ママも死んじゃって…みんなから嫌われて…辛いの。…誰もアイヴィーを見てくれないの。……意地悪されたり…悪口を言われるの…嫌なの…」


吐露した感情。…余程、恐ろしい精神攻撃だったに違いない。


「死ぬなんて言うな」


「……だって…アイヴィーの味方なんて誰もいないからぁ!!…」


強く…ただ、強く…抱き締める。


…この子は一人じゃない。


俺は自分が幼さなかった()()()に言って欲しかった言葉を紡いだ。


「例え世界中がアイヴィーの敵になっても……俺はいつだってアイヴィーの味方だ」


「……ゆ、う……」


「不死族の吸血鬼で…瞳が紅くても…影を操っても……どんな力を持ってどんな過去があっても…アイヴィーはアイヴィーだ。化け物なんかじゃない。呪われてなんかいない……本が好きでちょっと無愛想だけど…優しい女の子だって知ってるから」


「……本当に…?」


「ああ」


「……本当に…本当…?」


「不安なら何度だって言ってやる。……俺はアイヴィーの為に全力で戦うよ。…だから…アイヴィーも俺の為に頑張って生きてくれ。…諦めないで欲しい」


この先、幾らでも素晴らしい未来がこの子を待っている。人生を嘆くには早過ぎるよな。


「うん…うん!…アイヴィーは…悠の為に頑張るから」


アイヴィーが強く抱き締め返す。


俺に心を開き信頼してくれた意思表示に感じた。


「…よし。なら二人であのボスをぶっ倒そう」


「わかった!」


強い返事。もう大丈夫だろう。



ーー……蛇ガ……オノレェェ!!我ガ身ヲ何度モ傷ツケ…アマツサエ…希望ニ満チタソノ表情…気ニ食ワヌ。気ニ食ワヌゾ!!!



激昂するジュエ。白蛇は大分、時間を稼いでくれた。


腹の傷も浅くはない。短期決戦に持ち込まないと…。


「…悠。時間を稼いでくれればあいつを…アイヴィーは絶対、倒せるから…。時間を稼いでくれる?」


俺を見上げるアイヴィー。


「了解だ。任せろよ」


…その信頼に応えよう。


満身創痍の体だが血が熱く滾る。


九墨蛇が右腕を覆い金剛鞘の大太刀を構える。


「おい屑モンスター。第2ラウンド開始だ」


ーー…舐メルナァアア!!


四方八方から物理法則を無視した水流が襲う。


水が鞭のようにしなり体を打つ。


「がっはっ…!」


ーー威勢ダケカァ!?


痛い。衝撃が凄い。


肉を削ぐような一撃が連続で浴びせられる。


駄目だ…近寄れず逆にこちらの距離が潰されていく。


何発も何発も何発も食らう。HPだけが減る。


ーーーーーーーーーーーーーー

HP5200/8700 MP1000/2700

ーーーーーーーーーーーーーー


…攻撃の最中、分かった事があった。水流の攻撃と防御は同時には出来ない。攻撃に水流を転じればその分、本体を守る水流の防御が薄くなっている。


一か八か…。試してみるしかないな。


「…どうした…そんなペチペチ叩かれても…全然、痛くねぇぞ?」


ーー…ナニ?


「…魔窟ダンジョン支配者ボスもたいしたことねーなぁ。…こんなショボい攻撃しか出来ないのか?」


ーー………。


「幻で相手を騙すしかできねーわけだ。……弱いから仕方ないか」


ーー……ヨカロウ。ナラバ…コノ一撃ヲ耐エテ戯言ヲイッテ…ミルガイイ!!!


安い挑発に乗ってくれた!自身を守る水流すらも攻撃に回すジュエ。


水流が円になり俺を囲む。逃げ場はない。


……集中しろ。



「孤月ッ!!」



大剣状態で放つ孤月は周囲の水流を斬り裂いた。


水飛沫が散りジュエまでの道が開く。


「(チャンスはここだ…!)」


ーー…馬鹿ナ!?


「一刀・閃…!」


飛ぶ斬撃がジュエの右腕を切断する。


ーーギャアアアアア!?


二刀に切り替え黒蛇を纏う。


「……オオオオオッ!」


スタミナが続く限り斬る。斬る。斬る


…ただひたすら斬り続けた。


ーー…ガァ……アアアアア!?……我ハ我ハ…!コノ魔窟ノ支配者ダァアア!!!


高水圧の一撃が俺の体を貫いた。


「っ!!」


……まだだ!アイヴィーのとこには行かせねぇ…!


そのまま連続攻撃を続けるが遂にその時は訪れた。


ーーーーーーーーーーーーーー

HP170/8700 MP10/2700

ーーーーーーーーーーーーーー


腕が上がらない。血も止まらない。


限界の状態に陥ったが…。



覚醒バーストッ!」



…無事、時間は稼げたみたいだ。


振り返ると烈風と黒い雷がアイヴィーを包んでいた。


銀髪は逆立ち紅い瞳がジュエを睨む。


背中からは蝙蝠に似た翼が生え鋭い犬歯が口から生えている。吸血鬼と呼ぶに相応しい姿だ。


「…アイヴィーは…悠を傷つけたあなたを絶対に赦さないから…ッ!」


ーー……ホザケェエエェ…小娘ガァ…!!!


ジュエが攻撃するよりも速く影がジュエを襲った。


「我が影よ。…敵を討ち滅ぼす槍となれ」


影が巨大な無数の槍となり突き刺さる。


ーー…イギャアアアァァ!?


「我が影よ。…敵を繋ぎ止める鎖となれ」


ジュエの真下から影の鎖が現れ容赦なく拘束する。


ーーグギィィィィィ…!!


「…はは。…ったく…」


疲労と痛みで震える手でポケットからタバコを取り出し口に咥え火を点けた。


覚醒、か。…もう勝負は決まっていたな。


「じゃあな支配者ボス



ーー……ヤメロォオオオオオオオォ!!!



「魔剣・モラルタ」



断末魔の慟哭を無視し頭上から黒く雷を帯びた巨剣がジュエを貫き絶命させた。




ーーナーダ洞窟の魔窟の支配者を討伐ーー

ーークエストを達成しましたーー


ーーーLv4→Lv5へLevel upーーー


・新たな職業『禍の契約者』にジョブチェンジしました。

・戦闘数値・非戦闘数値が上昇しました。

・戦闘技『三日月斬り→真月之太刀』に変わりました。

・戦闘技『孤月→萬月之太刀』に変わりました。

・戦闘技『一刀・閃→一刀・煌』に変わりました。

・呪術『這い寄る白蛇→禁呪・白墨蛇あきすみのおろち』に変わりました。

・従魔との親密度が上昇。一定値に到達し従魔側からの対話に応じる事が可能になりました。

・強敵を倒し固有スキル『浸食』の効果が発動。



Lvが上がった。ジョブチェンジもしてる。


気になる内容が盛り沢山だがステータスは後で確認しよう。今は休憩したい…。


疲労感と痛みでその場に座り込んだ。


「…悠…!!」


アイヴィーが胸に飛び込みその衝撃でタバコが口から飛ぶ。


あ、やばい。衝撃で傷が…。


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