龍神の水郷、再び!②
11月18日 午前10時50分更新
11月18日 午後22時24分更新
〜40分後 アジ・ダハーカの龍峰 上空〜
飛行船から見る景色とまた違う絶景が広がる。
雲を突き抜けフライアウェーーーイ!!…ってね。
ーー…しかし、また随分と強くなったな。
「分かるのか?」
ーー背に触れる手から猛々しい魔力の躍動が伝わってくる。…あれから幾多の修羅場を潜り抜けたのだろう?
修羅場、か。…確かに色々とあったもんな。
「まぁ何度かね」
ーー我もアジ・ダハーカ様に稽古をつけて貰い強くなったが敵う気がせん……クックック!
何故か嬉しそうに笑うフカナヅチだった。
「アジ・ダハーカに稽古を?」
ーーうむ…ウェールズもだ。
「おぉ」
早く皆に会いたくなってきたぜ。
きっと二匹の可愛いチビちゃんも大きくなっただろう。
ーーそれと約束通り龍の秘術も会得したぞ。
「約束……あぁ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『次、会う時まで我も研鑽を積み強くなる。龍の秘術も会得して見せようぞ。…悠も楽しみにしておけ』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あの日、別れ際の言葉を思い出す。
「その秘術って龍人変異?」
ーーああ…龍の姿ではお前と大きさに差があり過ぎるのでな。
「大きさが何か関係してるのか?」
ーー…ふん…いずれ分かる。
少し照れ臭そうに答えるフカナヅチだった。
「そっか」
そう言うなら追求はしない。
ーー……して船の上で隣に居たあの女は何者だ?
「ベアトリクスは俺の友達だよ」
ーー気に食わん。
「…初対面なのに手厳しいな」
俺も初めてフカナヅチと会った時は戦闘になった。
飛龍の視点では人や亜人は外敵に他ならないし竜語を話せるドラグニートは別だが……種の壁の隔たりは致し方ない。
…思えばあの実力で挑むのは無謀な相手だった。フカナヅチは手を抜いて戦ってたに違いないな。
話に花を咲かせつつ水郷へ向かった。
〜午後12時10分 龍神の水郷 ドラグマの神樹〜
ーー着いたぞ。
美しくも荘厳な龍神の水郷は何も変わってない。
ドラグマの神樹が育つ浮島にフカナヅチが降りる。
背から飛び降り深呼吸した。
…澄んだ空気が肺に充ちていく。こうしてると特訓の日々が瞼の裏に鮮明に蘇るなぁ。
何度、死にかけただろう?
アジ・ダハーカの容赦ない致死級の攻撃がーー!?
「……ゆーーーうーーーーーー!!!」
「ばふぅ!」
砲弾を喰らったような衝撃が腹部を襲う。
むぐぐぐ…も、持ち堪えたぞ!
黒髪に混じる煌めく金髪が靡き、俺を見上げる綺麗なオッドアイの瞳は潤んでいた。
…この感触と匂い…小さな体に似合わぬ重厚な魔力と存在感…ああ…懐かしい感じだ。
「…熱烈な挨拶だな」
「もっと再会に感動せぬか!妾とゆう唯一無二の妻との久々の抱擁じゃぞ」
「あはは」
頭を撫で思わず笑ってしまった。
「笑うでない!」
頰を膨らませ憮然とした表情で答える。
「ごめんごめん。顔を見れて嬉しくなってさ」
「むぅ…つまり照れ隠しか?全く愛い奴め…えへへ」
俺の戦闘の師匠にして龍峰を統べる主である煌星龍アジ・ダハーカは嬉々として破顔した。
〜数分後〜
「オルドとオルガは?」
「フカナヅチより念話でまもなく到着すると聞いてな…オルカとオルタを連れ獲物を狩りに行っておる」
「ほほう」
「今宵は宴じゃ」
「そりゃ腕によりをかけご馳走を作らなきゃな」
「妾にはあまーい菓子じゃぞ!ケーキを所望する」
「はいはい」
「あの蕩ける甘味を早う味わいたいわい」
材料は揃ってる。貪欲な魔女の腰袋に大量の食材と調味料を常に保管しているのだ。
ザイガナハルでアルマとキューの土産に珍しい食材も幾つか購入したしね。
…っつーかアジ・ダハーカが引っ付いて離れない。
「さっきから動き辛いんだけど離れないか?」
「たわけ!甘える妻に応えるのが夫の務めじゃろーが」
た、たわけ?
「え、えぇ…妻ってより娘だろ」
「…なんじゃ?不服ならば拳で語り合っても構わぬぞ。悠も強くなったようじゃし最早、手加減は要らぬだろう」
「よ、よーしよし」
本気のアジ・ダハーカと戦闘は無理ゲー過ぎる。
…強くなれば上を知るってやつか?
アジ・ダハーカより強かったアルマはマジでヤバいな。
「うむうむ!その調子で愛でるがよい…悠は本当に幸せ者じゃ」
幸せの意味を辞書で調べ直してぇ!
「…そーいえばフカナヅチとウェールズに稽古をつけてるって?」
胡座で座る俺の両膝に収まる彼女の頭を撫でつつ問う。
「あぁ…お主が帰った後、此奴らに強くなりたいと朝も昼も夜も念話でせがまれてのう」
ーーアジ・ダハーカ様の修行は死と隣り合わせの毎日でしたがお陰で飛龍としての格を高められました。
死と隣り合わせ……わかる!それすっごくわかるぞ!!
「かかか!オルカとオルタも元気に育っておるしな」
「そりゃいいことだ…ん?」
歓談していると空から赤い龍が現れた。
「ウェールズ!」
ーー…久しぶりだな。
隻眼の猛き炎陽龍ウェールズはぶっきら棒に答える。
「そうじゃ」
アジ・ダハーカは手を叩き頷く。
「皆が戻ってくるまで悠がどの位、強くなったか見せて貰おうかの〜」
「え」
「ウェールズとフカナヅチも手合わせしたいじゃろ?」
ーークックック…是非に!
ーー願ってもありません。
「マジ?でもフカナヅチは」
ーー確かに敵わぬと言ったが闘わぬとは言ってないぞ。
「そりゃそうだけどさ…」
ーー…お前に負けたあの日、私は心の強さを学んだ…そして敗北を糧に主に鍛えられ成長した姿を見せてやる。
ウェールズもやる気満々って感じだ。
「ふっふーん!弟弟子に胸を貸すのも兄弟子の務めじゃぞ?」
「…ま、師匠にそう言われたら従うしかないな」
こんな逞しい飛龍が弟弟子って違和感が半端ないけどね!
「そうと決まれば結界を張ろうかの」
ぴょん、と飛び跳ねアジ・ダハーカは立ち上がった。
次の瞬間、金色の結界が半円状に広がる。
「…まさか二人がかりじゃないよな?」
「そのまさかじゃ」
「おうふ」
嫌な予感が的中した。
「一対一の戦闘となるとフカナヅチもウェールズも荷が重かろう」
俺の荷が積載オーバー気味なんですけどぉ…!
…あの時はウェールズに圧勝したが油断も驕りもない状態となると話は別だ。
しかも、修行で強くなってるしフカナヅチも参戦する。
「マジで頑張らないと」
右肩を回し腰を捻る。
ーー龍の力を凝縮させ内に留めし秘術…龍人変異!
ーー…お前は素早く龍鱗さえも簡単に貫く膂力があるからな…私も龍人変異を使わせて貰うぞ。
光を放ち二匹が龍から人へ変わっていく。
ふ、ふぁっ!?




