造られた神 ④
11月11日 午後17時更新
11月12日 午前8時25分更新
〜数分後〜
テーブルの上に右眼を置きタオルを解いた。
「!」
露になった人造神の右眼を見てミッケ司祭の顔色が変わり笑顔が消えた。
「これは大聖堂の守護者から奪い取った」
「……」
「三つの魔窟をより凶悪な魔窟へ変化させ死者の魂を束縛させる危険な力を守護者に与えた諸悪の根源さ」
「!…驚きです…お詳しいのは鑑定のスキルかしら?」
「俺の鑑定は他の奴より色々と詳しく知れるから」
「…昨夜、見た時より瞳孔が動いてるわ」
忙しなく上下左右に動く瞳孔はかなり不気味だ。
「ミッケ司祭はこれが何か知ってますよね?」
「……」
鈍感って言われるけどこの反応は間違いない。
「おいそれと話せない教団の事情があるかも知れないが説明して欲しい」
「ふぅ…人払いした理由がわかりました」
「俺もベアトリクスも決して他言しないと約束します」
「誓いましょう」
「……うふふ!黒永さんは優しいですね?私の立場を考慮してくれるなんて」
ネフィリム教は大きな宗教みたいだし情報漏洩を防ぐため、幹部しか知り得ない機密情報があるのではないかと思ってたが正解だった。
「少し長い話になりますが」
「構いません」
「それでは…」
ミッケ司祭は静かに語りだした。
〜20分後〜
ネフィリム教の教祖……後の初代聖女は神の血を継ぐ半神半人だった。
名前はモアブ・ネフィリム。古代人が愚かにも創造神に反逆し敗れ見放された暗黒の時代に生まれ育つ。
…ある晩、慈愛の女神フラムより神託を授かり創造神の許しを乞う試練の旅へ出発する
その試練とは浅ましい業と飽くなき欲が孵化し世に産まれた世界を焼き尽くす魔神の封印であった。
受難の月日を乗り越えモアブは見事試練を成し遂げる。…しかし魔神は封印されても尚、甘言を囁き自由になろうと足掻きもがく。モアブは魔神が二度と蘇らぬよう名を禁じ…その四肢を切断し臓腑をくり抜き…七つの秘匿の地へ埋葬する。
彼女の活躍により罪は清算された。しかし、許されたとはいえ神々の大半は既に人類へ愛想を尽かしていた。
慈愛の女神フラムだけはモアブの願いを聞き入れ敬虔なる者に祝福を授けるようになる。
モアブは女神フラムの祝福を授かった七人の使徒を連れ小国ラフランでネフィリム教を創設した。
その教えは徐々に世界へ広まり賛同者が増え人々は彼女を聖女と呼び慕い、平和の象徴となる。
…十数年後、後継者に聖女の座を譲り七つの魔神の遺骸を記した七つの書を使徒へ授け、彼女は忽然と姿を消す。二代目聖女は七人の使徒を聖歌隊と名付け初代の遺志を継いだ。
……話を要約するとこんな感じか?
ネフィリムの聖典でも遺骸の項目が記された章があるが詳細は描かれてない。聖女だけが閲覧できる聖書と聖歌隊の柱に代々、引き継がれる本に魔神の真実が記されてるそうだ。
魔神とは古代人の兵器……造られた神だろう。
「私は魔神の右眼が記された本を先代の柱から引き継いだの」
「……」
「失われた言語の翻訳は非常に難解で一部分しか読めずほとんどが口伝だけど」
ずばり古代語だな。
「…つまり封印された遺骸の残りは各地へ放置されてると解釈していいのかしら?」
「秘匿された遺骸の地はそれぞれ聖歌隊の柱が受け持ってて、私はガルカタ大聖堂の担当だったの。…恐らく歴代の聖歌隊でも遺骸の実物を見たのは私が初めてでしょうけど」
「ふむ」
ヒャタルシュメクを脱出した博士と将軍はモアブと会えなかったのかな?
中途半端に知ってしまい、非常にもやもやする。
「…ちなみにその本を俺が読みたいって言ったら?」
「ぜったい無理!だって古代語で書かれた本ですよ」
古代語は完璧に読めるんだよなぁ…。
「そもそも他国の人へ話したことが暴露たら…ね?」
「……」
まぁ仕方ない。
「…あと深淵の獣って知ってますか?」
「!」
「深淵の獣?うーーん…」
ミッケ司祭は少し考え答える。
「聞いたことがないわ」
はぐらかし嘘を言ってるようには見えない。
「そっか…」
「何か関係してるのですか?」
「いや、気にしないで下さい」
知らないなら説明は止めとこう。
「む〜〜…あ、そーだ」
ぽん、と手を叩きミッケ司祭は頷いた。
「こほん!今から独り言を呟きまーす」
「へ?」
「…ミトゥルー連邦加盟国グリンベイの図書館には初代聖女が記した謎の禁書がひっそりと埋もれてるって変な噂を聞いたことが…あったよーな…なかったよーな…うふふ」
「!」
「真実は如何に?って感じだわ」
ミッケ司祭はにこやかに喋った。
「…ずいぶんと大きな独り言ね」
「ああ…お礼を言いたくなったよ」
「はて?私ってば何か言ったかしらぁ」
飄々と彼女は惚けてるが面白い情報だ。
古代人の兵器である人造神が魔神として後世に伝わってるのも不思議な話…伝説は曲解し語り継がれるってか?
七つの遺骸が眠る地を管理してると言ってたが深淵に縁がある代物は俺も放って置けない。
「さて…この右眼をどうするか議論するのが本題ですわ」
「だな」
「…黒永さんはどうお考えで?」
「破壊すべきだ」
即答した。
「破壊、ですか」
「この右眼は想像以上に危険な物ですし」
「…初代でさえ封印するしかなかった魔神をどう破壊するの?」
「説明は省くけど俺には破壊できる。いや…俺にしかできないの間違いか」
深淵の力が付随されてるならば兇劒のスキルで破壊するしか方法はない。
「彼の言ってることは真実よ」
ベアトリクスがフォローする。
「他の遺骸が埋葬された地を教えてくれるなら俺が全部、破壊してもいい」
「え?」
「そもそも聖歌隊しか知らない秘密が外部…よりによって『黒髭』に漏れたのは何故ですか?」
「…それは…」
ミッケ司祭の表情が曇る。
聖歌隊の中に裏切り者がいる他、考えられない。
「話したくないなら追求しないが元凶を断ちましょう」
「…個人的には黒永さんの意見に賛成よ」
「個人的には?」
「皆に相談させて下さい」
「……」
「初代に縁がある魔神の遺骸を私が勝手に処断を下すわけにはいかない」
「…事件が起きてから動くじゃ遅いですよ」
「…我が教団の同志を信じる心に疑いは持ちません」
毅然とした態度だった。
「遺骸の処置について方針が決まり次第、必ず連絡すると誓いますので右眼を譲って欲しい」
「……」
「重ね重ねお願いばかりで申し訳ないけど」
ミッケ司祭の仲間を信じる気持ちを尊重すべきか否か…はぁ……俺は甘いな。
「…ベアトリクス」
「悠が決めていいわ」
俺に任せると彼女は決めたみたいだ。
「…あなたの言葉を信用し右眼は譲ります」
「黒永さん…」
この判断が間違ってないことを願おう。
「でも、遺骸をネフィリム教が利用するつもりなら俺は許さない」
「……」
「その時は覚悟して欲しい」
躊躇せず適切な行動を実行するつもりだ。
「…ええ」
タオルで包んだ右眼を彼女に渡す。
「…獣は殺す…」
「黒永さん?」
「殺す殺す殺す…絶対にだ…くくく…ひひ…」
「!」
「どうしました?凄い顔ですよ」
ミッケ司祭はオバケでも見たように引き攣った表情で凝視していた。
「今、あなたは殺すと…」
「へ?」
「……私の聞き間違いかな」
まるで意味が分からず首を傾げる。
「……」
ベアトリクスはそんな俺を黙って眺めていた。
人造神の右眼と女神像を譲り会合は終了だ。
夜まで自由な時間ができたし土産を買いにいこうか?
何件か店は営業してるし経済活性の役に立とう!




