造られた神 ③
11月10日 午前8時更新
「とりあえず他に拾った物もあるし先にそっちを見るのはどうかな?」
「まぁまぁ!それは嬉しいご提案だわ〜」
両手を合わせミッケ司祭は微笑む。
「…悠?」
「機嫌を取った方が気前良く話してくれるかもよ」
小声でこそこそと密談する。
「……」
ベアトリクスが不機嫌そうに黙った。このまま自分のペースで有利に話を進めたいのだろう。
「頼む」
「……わかりましたわ」
やった!折れてくれたぞ。
「わくわくどきどき〜…コリンもそう思わない?」
「そうですね」
素っ気ない態度で少女は返答する。
「も〜〜!仏頂面はダメよ?もっと愛想良くしなきゃ」
…彼女の振る舞いや表情が演技か天然なのか分からないが衝突は避けれそうだな。
俺は椅子から立ち上がり腰袋の留め金を開いて二つの女神像を取り出した。
「よっと」
約2m程度の大きさだ。
「!…これは…」
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精巧な慈愛の女神像
・慈愛の女神であるフラムを精巧に象った石像。
迫害された聖職者が魂を込め作った清白な彫像である。
非常に貴重で歴史的価値が高い。
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精巧な堕落の女神像
・堕落の女神であるメリアを精巧に象った石像。
欲に塗れた聖職者が奴隷に作らせた欺瞞の彫像である。
非常に貴重で歴史的価値が高い。
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「この二つの像は大聖堂の……ふぇっ!?」
仁王立ちしていた聖職者が次々と両膝を突きフラムの石像に祈りを捧げ始めた。
「…嗚呼…なんと美しいのでしょう」
ミッケ司祭まで感極まった声で祈っていた。
「フラム様…」
「…迷える我々にお導きを…」
異様な光景である。
「ど、どーしたんだこれ」
「恐らく敬愛する女神の精巧な石像に感動したのでしょう」
ベアトリクスが答える。
「…大袈裟じゃないか?」
「ネフィリム教団の献身的な教徒は信仰の象徴である女神フラムに心臓を捧げても構わないほど心酔し崇拝してると噂で聞いたことがあります」
「それはまたヘビーな信仰だぜ」
「…わたしは無神論者ですがこの石像が美しい点だけは同意するわ」
推しのアイドルに過熱するファンみたいな心情か?
俺の一押しの女神はミコトたん!
オンリーワンかつナンバーワンだ。
なんてたって言葉通り一心同体の仲だしな。
〜10分後〜
祈りを捧げる聖職者の集団を眺め時間が過ぎていく。
「…黒永さん」
ミッケ司祭が切実な表情で俺を見詰め呼ぶ。
「あなたの割に合わないと百も承知だけど…この女神像はラフランに寄贈して頂けませんか?」
まぁそーくるよね!
「もちろん」
「まぁ!」
「……」
即答すると隣に居るベアトリクスに肘で小突かれた。
…なんでだろ?
「本当に?」
「ええ」
「…本当の本当に?」
「え」
「売却ではなく本気でネフィリム教団へ寄贈してくれるのですね?」
すっごい念の押し方だな。
「そりゃまぁ…そーゆー約束で情報を教えて貰ったし」
「あなたは天使のように優しい人ね!」
身を乗り出しテーブルの上に置いていた俺の左手を両手で握り締めミッケ司祭は満面の笑顔で………あっ!
「私は感謝感激です……およよ〜」
「か、感謝しなくていいからっ…!」
激痛が走り額に汗が滲む。
「あ…そうでした〜。私ってばうっかりさん」
わざと!?やっぱりわざとなのか!?
「ついつい黒永さんには触れてみたくなっちゃって」
とんでもねぇことを笑顔で言ってやがる。
「軽々しく触れるのは止めなさい」
「あらぁ」
パッと手を離し首を傾げる。
「悠はとても嫌がってます」
「…ベアトリクス?」
ミッケ司祭に対しベアトリクスの短い言葉の節々には明確な棘があった。
「馴れ馴れしくしないで頂けるかしら?」
「黒永さんは嫌がってないようですけどぉ」
いや俺だって痛いのは嫌だよ!?
「それにベアトリクスさんは何の権限があって彼への感謝を拒ませるのでしょうか?」
「感謝?売ればどんな高額になるかも分からぬ貴重な女神像を寄贈と嘯き手中に納めよく言えますね」
あー…鑑定内容にそれらしき文章があったな。
「あれだけ迫った理由は明々白々…ネフィリム教の司祭ともあろう者が善意につけ込むとは呆れますわ」
「お、おい」
「はて?…ベアトリクスさんは勘違いしてるよーですが黒永さんは大聖堂で見つけた物を譲り頂けると約束してくれましたよ」
「あの情報が等価値だと言うつもり?断言しますが貴女達ではアイテムを見つけることは叶わず大聖堂への到達も不可能だったわ」
「ん〜…『金翼の若獅子』の冒険者からそんな風に非難されても微妙な気分だなぁ」
「…どういう意味かしら?」
「深い意味はないですよ」
柔らかい物腰に見えるが彼女も一歩も引かない。
「ストップ!…ベアトリクスも女神像なんて俺が持ってても困るだけだしいいんだよ」
「……」
「必要な人に渡した方が作った人も喜ぶさ。だろ?」
製作者も草葉の陰でコサックダンスしてるに違いない。
「やっぱり黒永さんは懐が深いわぁ」
「あっちの女神像は要らないのかな?」
「えーっとぉ…黒永さんはネフィリム教をあまりご存知なさそうなので説明しますとぉ〜…女神フラムの双子の姉である堕落の女神メリアへの信仰は戒律で禁じられてるの」
「へぇ」
「淫蕩に耽り物欲に溺れ罪を重ねた聖職者が信仰するシンボルなので」
「…『トリガニスタンの悪夢』という女神メリアにまつわる有名な殺人事件があるわ。ネフィリム教を破門された聖職者ラファエがミトゥルー連邦へ亡命……トリガニスタンという町に潜伏し住民を虐殺後、心臓をくり抜いてメリアに捧げたの」
「……」
「え?」
「騎士団が彼を捕まえた時は正気を逸脱し錯乱状態でした」
ひっでぇ…。
「信仰とは狂気と似て非なるもの…ラファエをサーチした後輩がそう言ってたわ」
「…否定はしないですよ」
サーチできる後輩ってのはシーかな?
「そーゆー理由ならこれは持って帰るか」
「ご配慮に感謝ですぅ」
…それにしても双子の姉妹ねぇ…ミコトとアザーもそうだったし女神の血縁関係ってどーなってんだろ?
ま、残るは人造神の右眼についてだ。
「ここから先は俺とベアトリクスとミッケ司祭の三人だけで話がしたい」
「三人?」
「他の皆は外に出てくれ」
「それは承知し兼ねます」
コリンが即座に反論した。
「いや承知して貰う」
きっぱり告げると先程までと違う強い口調にコリンは面食らった様子だった。
「…聖歌隊の四柱であるミッケ様をお守りするのが武装神衛隊『ペトロ』の務めならば引けません」
「黙って言うことを聞いてくれ」
「失礼ですが十三翼の第8位といえど貴方に命令され」
「…部屋の外に出るんだ」
こーゆー場面で魔圧による威嚇は実に効果的である。
…俺なりの配慮ってやつだし外野に一々騒がられたら話が進まないからな。
「…私は大丈夫だから黒永さんの言う通りにして」
「ですが…」
「わかった?」
俺の魔圧を浴びても平然としてるミッケ司祭は強い。聖歌隊を他国の十三翼と評したベアトリクスの言葉は真実だ。
「…はい」
「素直でよろしい!あとでアメちゃんをあげましょ〜」
お、おばあちゃん?
「……子供扱いは止めてください」
ぞろぞろと会議室を退室していく。




