表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

354/465

造られた神 ②

11月6日 午前9時44分更新




〜午後8時40分 巡礼者の宿 3F 301号室〜


三人が帰った後、渡す分の宝をまとめアイテム整理をしつつ貪欲な魔女の腰袋に収納し直す。


使い道を妄想しながら整理整頓するのは楽しいもんだ。


鑑定したが死者の宝はダンジョンで死んだ生物を財宝に変化させるガルカタのスキルで精製された物だった。


…価値は高いみたいだが不気味だし他の皆には黙っておこう。


「本当に杖と腕輪はいらないのか?」


「要りませんわ」


隣で眺める彼女に再び聞くも返答は変わらない。


「奇跡とか魔法が使えて便利なのに」


「慣れ親しんだ武器が一番よ」


「まあな」


「性能に依存するようでは一流とは呼べない」


「ふむ」


「それに…話を聞いた限りその杖と腕輪は魔法適正が高い者が装備してこそ真価が発揮されるでしょう」


霊剣ソルシオンと似てるな。


「…話は変わりますが悠は本当に欲がないのね」


「どうして?」


「寄付の件よ」


「人並みにはあるぞ」


「……」


「…その顔は信じてないだろ?」


「ええ」


即答かーーーーい!


「なんっつーかまぁ…幸いお金に困ってないしこーゆー風に誰かを助ければ自分が困った時に助けて貰えるかも知れないだろ?大体、俺には使い道がない」


「考えれば幾らでも使い道はあると思うわ」


喋るかどうか迷ったが答える。


「…ガキの時さ」


「?」


「親もいないし施設育ちでお金がなくてすっげー貧乏だったんだ」


「……」


「周りは最新のゲームとかカッコいいおもちゃで遊んでるのに俺は何一つ持ってなかった」


「…それで?」


「本当は我慢するしかなかったんだけど……施設職員のお姉さんが内緒でおもちゃを買ってくれたんだ」


児童福祉の仕事じゃ立派な職務違反だ。


「すっげぇ嬉しくて何度もありがとうって言ったらお姉さんは…」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『君が大人になったら同じように他人に優しくしてあげてね』


『…やさしく?』


『例え安っぽい同情でもそれが救いになる時だってあると思うの』


『どーじょ?すくいってなに?」


『あはは!大人になればきっとわかるよ』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ーーーーって言ったのさ」


自分が大人になって()()()()が分かる。


「俺にとって()()()()()()()()()()()()()この宝も誰かの救いになる」


「………」


「ははは!唐突に語っちゃったな」


「…その方は素敵な女性だったのね」


「ああ」


俺の初恋の人だし……ってのは言わないでおこう。


「いつも自分のことをあまり話さない貴方が打ち明けてくれて嬉しいですわ」


「まぁ…偶にはな」


「ふふふ」


ベアトリクスが肩にそっと寄り掛かった。


頰をほんのり朱色に染め非常に可愛いけど変な雰囲気が漂ってる?


「眠いなら寝た方がいいぞ」


言うやいなや不機嫌な表情に早変わりした。


「…そういう無粋な発言は控えた方がいいと思います」


「えぇ」


「カウンターを喰らわせますよ?」


エドワードの二の舞は絶対に嫌だ!


「勘弁してください」


タオルに包んだ人造神の右眼にベアトリクスが気付き指差す。


「む…もしやそれが例の?」


「人造神の右眼だ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

人造神の右眼

・禁忌なる造られた神の遺骸の一つ。

瞳は希望を灯すもそれは似て非なる絶望である。

この右眼は理を曲げる力を宿す。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……」


個人的にはこの右眼は壊すべきだと思う。


嫌な胸騒ぎがするのだ。


「明日、彼女がどう()()するか楽しみです」


「え?あ、あぁ」


「少し早いですが今日はもう休みましょう」


「そうだな」


……ベアトリクスの言う通り寝るか。


「…ってやっぱり一緒のベッド?」


「当然ですわ」


何がどうなって当然なのか理解に苦しむ。しかし、疲れてるせいか朝までぐっすり眠れた。


起きたらがっつり密着されててびっくりしたけど!


…もう寝相が悪いってレベルじゃない気がする。


やましいことは一切してないがベアトリクスと一緒のベッドで寝たって皆には暴露ないようにしよう。



〜百合紅の月24日〜



空目様は怪しく朝から雨が降っている。


午前中は宝を渡しに市内を回り時間が潰れた。


反応は様々だったが皆が涙を流し凄く喜んでくれて……もう感謝の言葉でお腹がいっぱい!


純粋に喜んでくれて嬉しかったぜ。


…残すはミッケ司祭との約束だけだな。



〜午後13時35分 パルテノン市庁舎 会議室〜



市庁舎の会議室で彼女の到着を待つ。


誰かも分からぬ肖像画をぼんやりと眺め…うっわ…リグレッド城の罠を思い出しちまった。


「どうかしましたか?」


「別に……ってかさ」


「はい」


「…全員連れて来て良かったのか?」


小声で囁く。


「無論」


椅子に座る俺とベアトリクスの背後に鉄騎隊と第二騎士団団員の混成部隊が控えている。


「こんな風に待ってたら相手は気分を悪くすると思うけど…」


俺が逆転の立場だったら絶対に嫌だ。


「大丈夫ですわ」


「そうなの?」


「悠は外交は不慣れでしょうしわたしに任せて」


不慣れってゆーかそもそも外交が初体験ですけどね!


「聖歌隊を分かりやすく喩えるならば他国の十三翼のような組織よ」


「へぇ…」


「来たわ」


奇妙な十字架が刺繍されたローブを着た聖職者の集団が会議室に次々と入ってくる。


見事にミトゥルー連邦とラフランで二分された対立図の出来上がりだ。…今にも喧嘩が始まりそうな剣呑とした雰囲気が流れる。


「待たせてごめんなさーーい!」


最後にミッケ司祭が現れた。


〜数分後〜


挨拶もそこそこに会合が始まる。


「くふふ!お二人の大活躍はすでに聞きました〜」


「はぁ」


「それに宝を無償で分け与えた黒永さんの素晴らしき善行……私は感動で涙が溢れちゃいそう」


殺伐とした中で彼女は明るく振る舞う。


「…午前中に配ったばかりなのによく知ってますね」


「すごい噂になってますから〜。信仰深い市民は口々に『辺境の英雄』こそ女神フラムが遣わした正義の天使だ…って言ってますよ?」


俺のどこが天使なんだっつーの!


「あ、はは……早速ですが本題に」


「え〜!もっとお喋りしたいですぅ」


「お、お喋り?」


「こうして話せる機会は滅多にないもの〜」


ミッケ司祭は可愛く微笑む。


「…わたしも悠も暇ではない」


ベアトリクスが横から口を挟んだ。


「情報提供に感謝してますがスピーディーに進めましょう」


「あらぁ?」


「簡潔に言うとそちらの()()()()()事は運んだ」


「も、目論見って…」


棘のある言い方だがミッケ司祭は笑顔を崩さない。


…代わりに背後に控える聖職者達の圧が増した。


「『黒髭』を撃退後、大聖堂で彼は謎のアイテムを獲得したわ」


「そうですかぁ」


「…本来、悠が分配した宝もラフランの所有物と権利を主張しても不思議ではないのに貴女は咎める気が微塵もない」


「……」


「つまり、このアイテムはネフィリム教にとって財宝より遥かに価値がある物なのでしょう?」


「うふふ〜」


詰問するベアトリクスに彼女は笑ったまま答えない。


「……パルテノンの亡命者を手厚く保護し救難要請にも応じた我々に随分な言い方をされますね」


黒頭巾のローブを被る少女が反論した。


「ミッケ司祭の指示に従い黙って物を渡せば良いのです」


「…貴様は誰に向かって口を聞いてる?」


今度はメンデンが食ってかかる。


「我々は命懸けで依頼を遂行し、クロナガさんとマスターは約束を守ったのよ」


「ああ…譲歩される立場にある輩が弁えろ」


「譲歩?ミトゥルー連邦が近年、()()する凶悪犯に他国がどこまで迷惑を被ってるか理解する知能が足りないようですね」


論点がずれ始める。


あーもー!やっぱり口喧嘩に発展したよ…。


「メンデン」


「…はっ」


「コリン〜?」


「……」


二人に諌められ渋々、引き退る。


「…兎に角、真実を隠されたままアイテムを渡す訳にはいきません」


「ふむぅ…真実ですか」


「『黒髭』の狙いもこのアイテムだった以上、ネフィリム教が秘匿にする極秘情報を()()()が漏らしたと考えて然るべきでは?」


「!」


コリンと呼ばれた少女の顔色が変わる。


…人のことを言えないけど分かりやすい子だな〜。


息詰まる沈黙が流れる。


むー…嫌な空気だし俺が換気しよう!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 悠が同衾した事を暴露しなくてもベアトリクスが自慢しまくりそうなんだがねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ