番外編 串刺し卿は容赦がない ⑤
11月2日 午後18時45分更新
〜夜21時21分 マイハウス 地下二階 稽古場〜
夕食後、エリザベート指導のもと戦闘距離を保つ練習をルウラを相手に実践する。
「!…できてた?」
「うむ」
「にゃむ…まぁ及第点ってとこかしら」
アルマも認めアイヴィーは喜ぶ。
「……あーーーー!しっと!!鬱陶しい」
反対にルウラは不機嫌そうに頰を膨らました。
「空間距離の支配は戦闘術の基本であり奥義でもある。特に敏捷の数値が高い相手に有効な手段だよ」
ラウラが微笑み拍手する。
「アイヴィー嬢とオルティナのバトルパラメーターが一定値に達してなければ不可能な動きだがな」
「はぁ…はぁ…慣れないと相当疲れますね〜」
肩で息をしつつオルティナが答えた。
「どちらかと言えばアイヴィーの方が向いてるかも」
「そーね〜…一発の火力はオルティナだけど機動性はアイヴィーの方が高いわ」
「…わんもあぷりーず」
「まだするの?無様に負けたいなら構わないけど」
得意気に挑発する。
「……こら弟子1号!あんまり調子に乗ると怒るわよ」
アルマがぴしゃりと諫める。
「…あう」
「ルウラが本気を出せば通用しないしまだまだヒヨッコの域を脱してないわ」
「むぅ」
「さすがアルマ!びゅーてぃふるな慧眼」
「ルウラも同じよ」
「……ほわっつ?」
「観察してよーくわかったわ…アンタの弱点は驕り…そのスピードは目を見張るけど一撃一撃が軽いし相手によって手を抜く悪癖があるでしょ?」
「……」
図星である。
「獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすのにその程度で満足してると足元を掬われるわよ」
「…ルウラは十三翼の」
「なに?文句があるなら言ってみなさい」
「………のー」
アルマが求める基準はとても高く人が定めた指標は無価値に等しいのだ。
「…ルウラが大人しく怒られてるぞ」
「うん…正直、僕も驚いてる」
アルマは目を瞑り唸って告げた。
「うーん……仕方にゃいわね。この際だしルウラもわたしが鍛えてあげるか」
「「!?」」
まさかの展開だった。
「いいのかい?」
「磨けば光る原石を川底に放って置くのは勿体ないでしょ」
「師匠!」
「あによ?」
「川底に沈めたままの方がいいと思うから」
差をこれ以上、つけられたくないアイヴィーは必死だ。
「ル、ルウラはギルドのわーくで忙しい!ね?…ね!?」
厳しい修行が苦手なルウラも助けを求めるが無駄だった。
「仕事は他のメンバーにやって貰うから大丈夫だよ」
「強くなれるのだぞ?何も問題なかろう」
「じーざす!裏切られた…」
「諦めなさい。わたしがこうって決めたらこうするの」
「「でも!」」
「……うだうだと面倒臭いわねぇ」
煮え切らない態度にアルマの毛が逆立つ。
「返事は…はいかイエスよ…分かった?」
全盛期のアルマは生態系の頂点に君臨し理の領域にさえ介入する魔力を保有していた。…アジ・ダハーカと同じく語り継がれ存命する伝説級のモンスター達は今も魔王の名を恐れている。
「はい…」
「…いえす」
無論、そう返事をする他に選択肢はなかった。
「よし!明日からビシバシやるわよ〜」
…ただ、これは横暴ではなく思い遣りだ。
ライバルが居た方が互いに切磋琢磨し成長するだろう。口には出さないがアイヴィーとルウラの将来を考えた上での判断である。
「仲間が増えましたね〜」
オルティナが汗を拭きつつ笑う。
「僕は逆に羨ましいかも」
「吾もだ」
「ラウラとエリザベートは教え甲斐がなさそうだもの」
二人を一瞥しアルマは答えた。
「…ま、そのまま経験を積めばいい線までいくわよ」
最大級の褒め言葉である。
「指導者としてもアンタは才能がありそーだし」
「くくく!魔王に褒められるとは光栄の至り」
「…悠もちょっと違うけど同じね」
「悠も?」
「従魔の影響でかなり尖った成長をしてるけどアイツは半端ないわ」
「ふむ」
「才能や素質を無視してどんどん強くなってる」
「…確かに出会った当初とは比較にならないかな」
ラウラは顎に手を当て呟く。
「あの原始人には限界と底が全く見えないもの」
「限界と底、か」
「まさに深淵ね」
にやり、と笑う。
「悠がお人好しの善人で命拾いしたわよ〜」
「……」
「もし敵だったらヤバかったでしょ?」
その通りだった。
悠は味方にすれば頼もしいが敵となれば脅威である。
「だからこそ出逢えた奇跡に感謝しなきゃ」
アルマは照れ隠すように鼻を鳴らす。
「ふん…優等生の返しね」
自分もその奇跡に感謝すべき該当者と分かっているのだ。
「くくく!それが運命の相手ならば尚更な」
ラウラの顔が引き攣った。
「あ、ははは…誰が誰の運命の相手だって?」
「ラウラには見えぬだろうが吾には悠の小指と結ばれた赤い糸がしかと見える」
「へぇー…それは僕の方だけど?」
「…真似するのは感心しないぞ」
激しく火花を散らすラウラとエリザベートだった。
「…ねぇエリザベート」
アルマは興味本位で質問した。
「アンタはどうして悠に惚れてるわけ?」
「む…直球な質問だな」
「なんとなーく気になってね」
「まぁありきたりだが人柄と優しさだ」
照れ臭そうに答える。
「ラウラはアイヴィー嬢がああまで変わると想像できたか?」
「…出来なかったよ」
中央で仲良く口喧嘩する二人を見詰めた。
「一番弟子はアイヴィーだからこれからはアイヴィーさんって呼んで」
「ルウラが三人の中で一番あるてぃめっとだしがーるがルウラさんってせいほー」
「その小さい脳みそに礼儀を叩き込んであげる……とりあえず先輩命令で稽古場の雑巾掛け百往復だから」
「ふぁっく!自分ですれば?」
「…も〜ケンカはめっ!ですよぅ」
柔らかく微笑む横顔が気持ちを物語っていた。
「多くを語る必要はない…唯一無二の大切な想いは常に吾の心の中にある」
「……」
「…悠は生涯を共に歩む価値のある素晴らしき男だ」
ラウラにとってエリザベートは親友だが恋敵でもある。
「僕も負けないから」
引けない戦いだからこそ強い意志を込め答えた。
「くくく!望むところだ」
「あー…口ん中が甘ったるいったらないわ」
野暮な質問をしてしまったと後悔する。
「…アルマ嬢こそどうなのだね」
「は?」
「悠とは一番長い付き合いだろう?」
恋慕の情はあるのか…隠された質問の意図を察しアルマは顔を顰め答えた。
「バカね〜!わたしにとって悠は息……」
自分が思わず口走りそうになった言葉を誤魔化すように首を左右に振る。
「……忠実なしもべ妖精よ」
「え?」
「勘違いでなければ息子と」
「こ、この話題はおしまい!しゅーりょー!!」
「「……」」
「お腹空いたわねー……夜食の時間よ!オルティナ〜?」
逃げるようにオルティナの傍へ駆け出すアルマを見てエリザベートとラウラは頬を緩ませるのだった。
番外編は終了です(。・w・。)
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