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番外編 串刺し卿は容赦がない ④

10月30日 午後13時更新

11月1日 午後18時54分更新




「…きゃはっ」


エリザベートの右手を握り潰そうと力を集中させる。


小さく華奢な体と風貌とは裏腹にフーゴは怪力だ。


鍛えずとも筋肉が発達する()()()()で筋力・敏捷の数値が年齢とLvに伴わず異常に高い。相手の骨が折れる感触と肉を突き破る音が彼女は大好きだった。


悠と交わした握手は左手…利き手は本気の証である。


「!」


しかし、大好きな感触も音も味わえない。


平然とエリザベートは右手を握り返した。


「…どうしたの?」


フーゴより先にトリッシュの顔色が変わる。


「貴公の()()を知らないとでも思ったか?」


徐々にエリザベートの力が増していく。


「くっ…!」


「ふん…弱者を苛め鼻っ柱が高くなり過ぎたようだな」


「…ぐっあ…こ、この」


「舐めるなよ小娘が」


「……痛っ…あぁぁぁぁぁーーーーッ!!?」


絶叫と同時に鈍い音が聴こえエリザベートは手を離す。


「…ユーリニスの庇護があってこそ横暴な振る舞いも見逃されただろうが吾は許さん。報いを受けるがいい」


十三翼は冒険者ギルドの象徴で強くなければ務まらない。


正に力の差をむざむざと見せ付けた形となった。


「フーゴ!?」


慌てて蹲り涙を流す妹に駆け寄る。


「資格到達者のレベルも落ちたものだ」


「…『串刺し卿』…わざと骨を折ったな?」


クルーニーが二人を庇うよう前に立つ。


「くっくっく…殺気立つのは止めた給えよ。和解の握手を望んだのは彼女の方だろう?」


右手を翳し冷淡に微笑んだ。


「脆く()()してしまったがね」


「…きゃはっ…はっはは…」


真っ赤に血走った瞳と額に走る膨張した血管…憎悪で染まった凄まじい貌で笑う。


「ぜ、ぜったい…後悔させてやるっ…し!」


右手を押さえ瞬きせずエリザベートを睨む。


「行こ」


トリッシュに左手を引かれフーゴは立ち上がる。


「…妹を傷つけた責任は取ってもらうから」


姉は冷静に敵意を示し二人を従え去っていく。


「……」


容赦なく制裁を加えるエリザベートにアイヴィーは驚きを隠せなかった。


「毎度のことだが風紀を乱す輩には困ったものだ」


「…エリちゃんがあんな風に怒るのは珍しいね〜」


「アイヴィーはちょっと怖かったから」


素直な感情を伝える。


「……俺も」


「うん…」


ベイガーとデイジーが頷く。


「ションベンが漏れるかと思ったぜ」


「!…ちょっとあんた離れてよ」


「も、漏らしてはねーぞ!?」


「……でもあの魔圧はやべぇよな〜」


「身が竦むってゆーか…背中に氷柱が刺さる感じだよね?」


残っていた冒険者も次々と口を揃える。


「そう怖がらないでくれ……ほら」


「やぁめぇふぇ」


アイヴィーの頬っぺたを優しく左右に摘む。


「…アイヴィー嬢には何れわかる時が来よう…地位とは自由を束縛する厄介な鎖のようなものなのだ」


「?」


「機を窺わぬば戒めることも難しく無関係な者にまで被害を与えてしまう」


「どぉひゅうふぃみ?」


「くくく!要はタイミングが大切という与太話さ」


「…ふふふ〜」


オルティナは言わんとしてる意味を理解していた。正当な理由があろうと衝突は軋轢を生み問題を複雑にさせてしまう。


権力とは無闇に振り翳すものではなく効果的な場面で使うからこそ最大限に発揮されるのだ。


…ユーリニスは承知の上で私腹を肥やすが真の目的に気付く者は金翼の若獅子に一人も居ない。


「それにしても柔らかく心地良い感触ではないか」


「やぁへぇへぇほぉふぃふぁら〜」


先程までの冷酷な雰囲気は微塵も感じられなかった。



〜20分後〜



「そろそろ夕飯の支度に帰らなきゃ〜」


「了解だから」


エリザベートに弄られ少し頬っぺたが赤くなったアイヴィーが頷く。


「もう帰るのか?久しぶりにギルドに来たのに…」


「ん」


別れを名残惜しむベイガーだった。


「…どんだけアイヴィーが好きなのよあんた」


デイジーは呆れた顔で肩を竦める。


「…まさかロリコンじゃねーよな」


「は?」


「うわぁ…騎士団に通報しとく?」


「だ、断じてちがう!!」


仲間の軽口を必死に否定するベイガーだった。


「…貴公は幼女性愛者か?」


エリザベートの表情が険しくなる。


「だから違いますって!?」


「連中に立ち向かったと聞き気骨ある冒険者だと感心したのだが……残念だ」


「ちょっ…本当に勘弁してくださいよ!」


「アイちゃんはモテモテだね〜」


「別に」


「この間もラブレターを貰ったもんね〜」


「!」


「詳しく聴かせてくれ」


「…オルティナ?」


恥ずかしいので黙ってて欲しいアイヴィーだったがオルティナは意気揚々と喋る。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『……ラブレターだと?』


『近所に住んでるコウくんに買い物帰りに貰ったんだよね〜』


『うん』


『8歳くらいの猫人族の男の子で……ってユウさん?』


『武器を担いでどうしたの?』


『ん?ちょっとその子の家に行ってくるだけだ』


『?』


『俺には娘を守る義務がある…絶対に許さん』


『ちょ、ちょっと待ってくださ〜〜い!!』


『止めないでくれ…心の中で鬼がアイヴィーに手を出す野朗を許すなって叫んでるんだ』


『気が早すぎますぅ〜!』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ーーーーって感じで本気で焦ってたの〜」


「くくく…あははは!悠の親馬鹿は極まってるな」


「……あう」


「アイちゃんが宥めなきゃ本気で行ってたと思うよ〜」


他の冒険者も呆れていた。


「お、大人気ないわ」


「…将来の彼氏は苦労するでしょうね」


「付き合うための最初の試練が怒り狂った『辺境の英雄』って……難易度がとち狂ってるぞ」


その後、三人はモンスターハウスへキューを迎えに行く。キャロルは滞っていた依頼が全て受注済みとなり上機嫌だった。


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