解放された魂と魔窟 ②
10月21日 午後12時15分更新
〜午前8時18分 苦痛の山 嘆きの石碑〜
「もう大丈夫!ほら目を開けて〜?」
シロに促され恐る恐る瞼を開けるとアイリスと対峙した石碑の場所へ戻っていた。
「し、し、し、死ぬかと思った…」
助けて貰い文句は言いたくないが二度と御免被りたい呪法だ。
「もきゅもきゅ…いふぁいのはふぉーへん…ごくん!尼津鳥居は生身の人間に使う術じゃないもん」
ランが残してた干し肉を頬張りつつ喋る。
……ほわっと?
「普通は再構築前の分解でショック死すると思うよ」
とんでもないワードがシロの口から飛び出した。
「主の屈強な肉体と鋼の精神力ならば問題ないと信じておりました」
「………」
「ミコト様と繋がってるマスターには免疫もあるしね」
「痛みに耐えよく頑張った…感動した」
「………おー」
結果オーライ!万事解決!!
そう言い聞かせて納得しよう……そうしよう!
「そういえば皆は何処に…?」
周囲を見渡すが四人の姿がない。
「クロナガさーーーん!」
お…この声はサイトだな。
その後、無事に四人と合流した。
戻らない俺を心配し周囲を捜索してたらしい。アイリスやゲイルはお礼を言って消えたそうだ。
…最後に会えなかったのは残念だが約束は果たせた。
きっとセクトも他の魂もこれで安らかに眠れる。
〜5分後〜
「ーーってな感じで守護者は倒し……どうした?」
大聖堂の詳細を説明してる最中だがベアトリクス以外の三人の様子が変だ。
「小さい女の子だね〜」
「えっと…あの……」
「背後にいる女が……い、いや!この方が…」
「…女?口に気を付けろ下郎」
「クロナガさんが召喚したって言ってましたし安全なのは分かってますけど…」
「くんくん…硬そうだけど味はどうかな…」
ハクとシロとランが気になってる?
ちなみに言葉は通じてない。
三人はヘブラ語とは異なる未知の言語で話してるとベアトリクスは言っていた。
「…神秘の力が迸ってます」
隣に居た彼女が耳元で囁く。
「神秘?」
「悠は契約者で狂気の耐性も高いゆえ平然としてますが……見て下さい」
ベアトリクスの右手が震えていた。
「強さ云々ではなく生物の枠から外れた未知の存在と直面すれば理解の範疇を超え身が竦むものよ」
「ふむ」
「前にムファサの地で見た時と比較になりませんわ」
「む…主に馴れ馴れしいぞ。離れろ」
ハクがベアトリクスを威嚇する。
「…彼女はわたしに怒ってるのかしら?」
「ハク?」
「…この女狐は主に対し不埒な感情を抱いております」
不埒な感情ってなんだろ?
「とにかく俺の友達を女狐なんて言わないでくれ」
「……御意」
ハクの主人に対し一途だが過保護な面が露呈した。
「ク、クロナガさん…さっきから涎が肩に…!」
「……一口齧るくらいは許されるかな?」
許されねーよ!
獲物を見る肉食獣のようにランはセバスチャンを凝視している。
「ラン!めっ!!」
「あーうー…怒られた…」
「古代人とは体の特徴が違うね?鎧の下はどーなってるのかな」
「きゃ!?」
「…シロもメンデンを離しなさい」
メンデンの体に手を這わせ鎧を脱がそうとした。
「え〜ダメ?」
「ダメ」
な、なんか疲れるぅ!
「喋ってる言葉がわからないけど助かった気がするわ…」
「…俺は食われるかと思ったよ」
「この三人が契約した従魔なんですか?」
サイトの質問に首を振る。
「違うよ」
「ぶ、無礼な!ミコト様を我々と同格と捉えているのか!?無知で浅ましい下郎め……喰い殺すぞ!!」
ハクの口が耳まで裂け瞳が爛々と光った。
「ひ、ひぃ!?」
「…ベアトリクス以外は事情を知らないし怒るなって」
「で、ですが…むぐぐぐぐ」
宥めると渋々引き退る。
「召獣に近い気もしますわ」
「…ん〜強いて言えば俺の家族だ」
適切な表現はこれしかない。
「……家族?」
「「「……」」」
この一言はシロもハクもランも予想外だったようだ。
とても驚いている。
「こんな俺に尽くしてくれていつも感謝してるよ」
嘘偽りのない気持ちだった。
「あ、主…勿体なき御言葉…感激でハクは…ハクは!」
「……そーゆー不意打ちはずるい」
「え、えへへ!もぉ〜マスターってば〜」
ハクとランとシロの凄く嬉しそうな顔を見て照れ臭くなる。
「あー…とにかく守護者も倒したし宝はゲットした…そろそろパルテノンに戻ろうぜ?」
察したのかベアトリクスが微笑み頷いた。
「ええ…それにネクストクエストも見事完遂です」
〜クエストを達成しました〜
「おう」
やっぱ達成の二文字は気分が良いぜ!
「…我々が近くまで送りましょう」
「いいのか?」
「背中に乗ってすぐだよ〜」
「ん…今回は特別にご主人様以外も運んであげる」
三人は上機嫌で意気揚々としていた。
これはかなり助かる!来た道を戻るのも大変だしな。
「シロ」
「りょ〜かい」
ハクに促されシロが白蛇の姿に戻った。
「う、うぉ!?」
「…なんて大きさだ」
「神々しくて綺麗な鱗…」
見惚れ呆けるのも無理はない。
「よっと…シロが乗せて運んでくれるってさ」
「…ハクと私が護衛」
「諸悪の根源は主が屠りこの地は浄化されたゆえ脅威となる敵は居ないでしょうが……万が一に備えた配慮です」
マップを見ると罠のマークが消えていた。
支配者のガルカタを討伐し魔窟も解放されたのだろう。
「こんな経験は滅多にできないわ」
ベアトリクスもハクの背に乗る。
「三人も早くなさい」
「「「は、はっ」」」
「とんでもないスピードだからしっかり掴まってくれ」
誇張じゃなくマジだ。
「いししし!シロちゃん全力でいっちゃうよ〜?」
「分かりました」
がっつりとベアトリクスが両腕を回し背中に密着する。
うん…他の三人も乗ったし準備完了だな。
「出発だ」
俺の号令と同時にシロが動き出す。
「……」
色々あったが感慨深い依頼になった。
アイテムパックに目を向ける。
ミッケ司祭が言ってた神の遺骸は人造神の右眼…宝には程遠い危険な物…これは壊すべきかも知れん。
…帰ってから皆にまた相談しよう。今回は戦利品も平等に分配しなきゃいけない。
猛速で縦横無尽に這いずる背に揺られ考えていた。
メンデンとサイトとセバスチャンの絶叫と泣き声が微かに聴こえた気がしたが……まぁ大丈夫だろう!




