古の約束を守る者 ②
「痛ってぇ!」
直撃した光線は皮膚を溶けた蝋燭のように爛れさせる。
熱くてズキズキする痛みって感じだ。
……でも、何故だろう?
俺の中で魔力が滾り心臓の鼓動が激しくなる。
戦闘欲が漲り爛れた患部は異常なスピードで治癒し受けたダメージは既に全快だ。
「裁き…裁きの聖印をを受け…倒れない?」
ガルカタは無表情だが驚いていた。
「肉を腐らせせ…骨を溶かす…無二の攻撃にに生物は耐えられぬ筈…」
深淵の刻印は全異常状態の完全無効化及び吸収する……奴の付与された状態異常攻撃を吸い取り俺の治癒力を高めHPを回復させたんだ。
ミーシャの攻撃があの程度で済んだのも状態異常を付与した攻撃だったからに違いない。…回復が捗らなかったのは物理ダメージの割合が大きかったからか?
「くく、くくくく…あははは、はははは!」
「……」
唐突に愉悦が込み上げ笑ってしまう。
…誰にも負ける気がしない。最高にハイな気分だぜ。
「壊せ…くくく…壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ」
「!」
「は、はははははははは…深淵より暗い…絶望の底で悲鳴を聴かせてくレ…」
大気が震え瘴気の風が吹き荒れる。
「お前ヲ解体してやルヨ」
〜同時刻〜
…人造神の右眼はガルカタに魂を授ける。
もはや兵器とは呼べないだろう。
宿った魂が醜く歪で欠けてても定められた万物の境界線を超えたのだ。
そもそも人造神は古代人が神に対抗すべく深淵の獣の残骸を融合させた禁忌の兵器である。万物を穢してしまう欲望の卵の断片……孵化すれば厄災を招く負の遺産。
古代人が産んだロストテクノロジーと負の遺産の融合体が守護者だ。
「…断罪の雨…」
「…くくく」
「慈悲…慈悲の剣」
「ははははは」
…そんなガルカタも初めて味わう恐怖という感情に翻弄されていた。
自分の攻撃を一身に浴びても歩を進め再生を繰り返す怪物を前に……エラーコードで思考が埋まる。
先程とは別人のような殺気と魔圧を悠は放っている。
…その姿は禍面・蛇憑卸を発動した状態と似ていた。
「お前…お前は…何者だ…?」
無視して嗤う。
「ひ、ひひ…あはは、はは!…これデ終わリか?それだト豚ノように屠殺するゾ」
「豚…貴き守護者の…我が…豚……」
侮辱が恐怖を凌駕し彼女は激怒した。
「…許さぬ許許さぬ…神罰をくれてや…るる…冒涜者は滅す……全兵装制限解除…」
六つの骨格フレームが背中を突き破って翼を作りフルフェイスの照準装置が顔面を覆う。
次々とパーツが手足と胸部に癒着し接合…強固な装甲を伴い火力特化した戦闘形態へ変貌した。
「目を凝らし見るがいい…最…最後の光を…」
高密度の魔力の塊が幾重に共鳴し空気が振動した。
「欲深き殉教者のの…骸よ…彼の敵を眠りへ誘え…」
古代兵器が出現し広間を埋め尽くす。
どれも照準は正解に悠を捕捉していた。
「オーバーエンド」
一斉照射された紫の光線が大爆発を起こした。衝撃波で神殿は崩壊し穢れが混じる熱風が有象無象を腐らせる。
ガルカタが放った最大威力の戦闘技は恐ろしいの一言だ。
「………」
機熱を排出し反動でパーツが外れる。
「…馬鹿…馬鹿な…あり得ない……」
粉塵で視界は曇るも熱探知機能が絶望を報せた。
「次ハ俺ノ番だ」
悠は回避もせず真っ向から戦闘技を受け切り耐えたのだ。骨折した箇所が治癒し焼け爛れた皮膚は粘膜が張って元通りになる。
瘴気がより激しく渦を巻き粉塵を拐う。
……ガルカタには予想もつかぬ現象だが深淵の穢れを含む攻撃は悠にとって豊潤な栄養素なのだ。
ダメージを差っ引き力を与えてしまう。深淵の刻印へ成長した耐性の効果が遺憾なく発揮された。
…そして精神にも影響を及ぼしている。
「まさか…この違和感…神に…ガッ…ギィー!…るる…!!?」
大獄丸の斬撃がバターを切るように装甲を裂く。
「ひひっ…あひゃはははははははは!」
警告音が鳴り響いた。
防御を試みるも暴風のような攻撃はガルカタの膨大なHPをみるみる削り始める。
一発一発が通常時に放つ戦闘技並の威力を出していた。
嬉々して嘲笑し自分を蹂躙する怪物に恐怖が増大していく。
「あ、…ぎ…ギ…ぎっ…ぎっが…ビー…モア…ブ……」
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『対象物の護衛を開始。期間は稼働停止まで続行』
『…葬り去る手段がない以上、こうする他ないの』
『了解』
『これは古代人が神々に叛いた罰……未来へ負の遺産を残してしまう』
『理解不能』
『ごめんなさい…ごめん…ガルカタ』
『分泌液確認。主人の心拍数に異常有』
『ずっと私を守ってくれたのに酷い仕打ちを…許して…』
『…解答不能…適切な解答を思考プログラムで模索中』
『……私…生涯を神に捧げ赦しを請うわ…そしていつかまた…あなたと再会をーーー』
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「…モア…ガガガガガガギー…ブ……我が主…人」
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『…ば、化け物め…』
『敵対象駆除確認…あ、新たな護衛手段を模索…最案を検討…火力及び兵装不足により機能低下……破損箇所甚大…早急な対応を…』
『…人造神の右眼…をエネルギー再変換利用…成功確率14%』
『………』
『…………』
『……………最優先…モア…モアブ…主人の悲願成就…オートオペーレーション開始…』
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「我…守護者…聖…のモアギギギギィッ…命を…ガッガ」
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『我…敬虔なる聖女の剣…神の地と遺物を守る守護者…魂を…迷える魂を従え聖女に尽くす…神の使徒…生者を呼び寄せる欲望の卵……死者の魂を統べる深淵の卵……授かりし使命を全うすす…る』
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ガルカタの記憶領域が破損し過去の記憶が蘇る。
…走馬灯と呼ばれる死の淵に立つ者が見る幻覚…作られた瞳から人造体液が流れ両頰を伝う。
「羅漢剣スサノオ」
無慈悲な漆黒の刃が上半身と下半身を真っ二つにした。
斬撃の余波が周囲も両断する。
黒蛇で強化した斬撃を扇状に飛ばす技のようだ。
「モア……ブ…」
まだ喋るも悠の左手が胸を貫き核たる心臓を引き抜く。
…これで全機能が停止し二度と起動しない。
古の約束を守る者の凄惨な最期だった。




