追撃の蛇と薔薇 〜苦痛の山〜 ⑦
10月14日 午後12時30分更新
〜午前5時54分 苦痛の山 忘れられた神殿〜
「…そうだったのですか」
「この不始末は全て俺の責任……本当に申し訳ない」
俺は深々と頭を下げ謝罪した。
「…そんな…謝らないで下さい!」
「え?」
メンデンが力強く叫ぶ。
「ここまで無事に来れたのはクロナガさんのお陰だ」
「追撃と撃退に成功した功労者をどうして非難できます?」
サイトとセバスチャンも頷き答える。
「……でも」
「お願いです…自分を責めないで?」
優しい気遣いに涙が出そうになる。
「三人の言う通り反省も含め今後に活かせばいい」
「…ああ」
その通りだ。落ち込んでる暇はない。
「十二分にミーシャ・E・ティーチの情報は得ました。次は対応策を練った状態で戦える利点があるわ」
「名前と能力が分かったのは大きな収穫ですね」
「パルテノン襲撃の主犯格は目撃情報と能力が合致するわたしが殺した男に違いない」
「兄貴って言ってたよな?」
「エドワード・E・ティーチと名乗ってました。ベルカに帰還したら『豹王』に依頼し騎士団の『罪人名簿』に該当者がいるか照会して貰いましょう」
「ペナルティブック?」
「監獄に収監した犯罪者の家系図・血筋・極秘情報を記載した記録簿ですわ」
なるほど!
「マスターに報告が遅れましたが配下を尋問した際に興味深い情報を吐きましたよ」
「詳細を」
促されサイトが報告する。
「『黒髭』の狙いはガルカタ大聖堂に隠された秘宝です」
「!」
「……」
「空賊団に金を払い妨害策に興じパルテノンで無差別テロを引き起こしたのは邪魔者の介入を防ぎ排除するため……ガルカタ大聖堂の秘宝に関した情報源は下っ端には明かさず把握してたのは『黒髭』とその…エドワードだけと言ってましたね」
ベアトリクスが俺と目を合わせ頷く。
彼女の言わんとする言葉が口に出さずとも伝わった。
「静聴」
「「「はっ!」」」
「第6位の権限により『追加依頼』を発令します」
「ネクストクエストですか?」
「内容はガルカタ大聖堂の攻略と秘宝の獲得です。退けたとはいえ賊が狙う宝をこのまま野放しに出来ません」
「「「…はっ!」」」
「準備を整え出発しますが悠のダメージは?」
「問題ないぜ」
超特製エックスポーションを飲んだし元気いっぱいだ。
「あ…手下は放って置いていいのか?」
「大丈夫ですよ!二度と起き上がりませんから」
「二度と…?」
「パルテノンの皆が味わった以上の痛みを与え殺しました」
平然と答えた。
「…メンデンが言った尋問とは拷問の隠語ですわ」
ベアトリクスが耳打ちする。
「そっか…」
悪人には躊躇しない鉄騎隊の根本を垣間見た。…ベアトリクスが掲げる理想の体現者達は俺のように甘くないのだ。
〜15分後 苦痛の山 嘆きの石碑〜
神殿の広間を出発して山頂に到着した。言葉で表せない絶景が俺達を出迎える。
雲海が広がり燦々と輝く太陽が眩しい。
「…石碑ですよね?」
小さな石碑が中央にぽつんと鎮座している。
「警戒しなさい」
ベアトリクスが注意を促す。
「最後の門番が待ち構えてる筈ですわ」
図ったように光と共に門番が現れる。
「「「「「!」」」」」
擦り切れた赤い修道服を纏う妙齢の女性だった。灰色の肌が印象的で太陽をモチーフにした不思議なロザリオをぶら下げている。
憂いを帯びた眼差しを向け口を開く。
ーー…試練を乗り越えし者達よ…哀れな子羊の群れよ…立ち去りなさい。
「…地下墓地の奴みたく普通に喋ったぞ?」
「ああ…」
ーーこの先に待つは闇より深い絶望と永遠の牢獄です……どうか命を粗末にしないで…。
恐らく彼女は奴隷騎士ゲイルが言ってたアイリスだ。
「貴女がアイリスか?」
俺の質問に驚いた様子だ。
ーー……どうして…私の名前を?
「それはーーーー」
簡単に経緯を説明した。
〜数分後〜
アイリスは哀しげに目を伏せ呟く。
ーー……そうだったのね。
「俺達は大聖堂に用があるんだ」
ーー……。
「…守護者を倒しゲイルもセクトも貴女も…他の皆もダンジョンの呪縛から解き放つって約束する。行かせてくれ」
ーー勇ましいですが賛同しかねます…彼処は聖堂などではありません…死者の怨念が渦巻く呪われし魔宮です。
「…ガルカタ大聖堂が魔宮ですって?」
ベアトリクスが問う。
ーー聖堂にまつわる伝説は人を騙し呼び寄せる罠で守護者は常軌を逸した悪魔……かつて私とゲイルは三つの試練を乗り超え…大聖堂のガルカタと対峙し敗れた。
静かにアイリスは語る。
ーー…魔窟の門番は不滅ではない…やがて力を失い塵となる…試練を破りし者を殺し…強き者を選別し…次の門番へと据えるの…そして弱き死者を糧に魔窟は禍々しく変貌し魔物と財宝を産み…欲が人を導く…それが狙いなのです…。
「嘘だろ?そんな化け物がいるなんて…」
ーー真実よ…ガルカタ大聖堂は神が眠る地ではありません…悪魔が眠る邪悪な巣窟……命を粗末にする必要はない。此処を去りなさい…。
「…無理だ」
ーー………。
「魂を弄ぶ卑劣な奴は絶対に許せねぇんだ」
ヒャタルシュメクのナックラビィーを思い出す。
…あの化け物と守護者には魂を捕え従える類似した共通事項があるし深淵の獣かも知れない。
「深淵の獣は殺す…穢れた血で湖を…死骸の山で城を…作ってやるんだ…くくく」
「……悠?」
「うん?」
「大丈夫ですか?」
「何が?」
「何がって…今さっき貴方は…いえ…」
小さく首を振りベアトリクスはアイリスに向き直る。
「…とにかく危険極まる守護者は駆除対象で冒険者ギルド総本部の最高運営執行機関の一人として同じく見逃せません」
三人もそれに続く。
「……ええ」
「敵前逃亡は鉄騎隊の隊律違反なんでね」
「恋人を残して死ねるか…ベルカで帰りを待ってるんだ!」
サイトォ…それ死亡フラグっぽいぞ?
ーー…若人を言葉で諭すのは無駄か…さすれば第三の…私の試練を果たし証明しなさい……本当に貴方達が哀れな我等が縋れる希望なのかどうかを…!
ロザリオが輝き彼女が消え次の瞬間、魔獣が現れた。
ーー私はアイリス・ソラール…遥か昔、篝火の巫女と呼ばれた太陽神の信徒…今や囚われた死せし傀儡なり。
人面で背中に翼が生えた大きな獅子…?
ーー…うら若き騎士の乙女よ汝に問う。
「わ、私!?」
アイリスの前脚がメンデンを指す。




