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追撃の蛇と薔薇 〜不朽の地下墓地〜 終

10月1日 午前8時10分更新。

10月2日 午前7時30分更新。



奴隷騎士ゲイルの攻撃は無茶苦茶だった。


縦横無尽に様々な角度から予想だにしない動きで剣撃が打ち込まれる。


宙で一回転し振り下ろされる剣が頰を掠めた。

防御を捨て全身全霊で放つ捨身の攻撃が連続で迫る。


回避したが次の技が襲う。衝撃で地面が粉々に壊された。


ーー避けてばかりでは我を倒せぬぞ…?


…ったく…簡単に言ってくれるぜ!


「流星」


距離を潰し大獄丸を振り上げ直ぐに下すと奴隷騎士ゲイルの剣を弾き体勢を崩した。


「羅刹刃・朔月!」


大剣状態は破壊力が増すが速度が落ちる。


ーーむぐっ…!!?


ゆえに生半可な一撃じゃない。


甲冑をへし曲げ後退させたが……あれで斬れないだと?


防御は杜撰だと思ってたが並外れた耐久力に舌を巻く。


ーー……微かに残る太陽神の祝福で攻撃力が激減した……貴様は冒涜者……呪われてるな?


「…そーゆー事か」


威力の増減は深淵の刻印と兇劒の影響だろう。


バトルパラメーターと威力が低下しているのだ。


ーー…容赦はせぬ!燦然たる太陽神よ…呪われた半身が焼き尽くそうとも…光の恩寵で剣を照らし給え…紅炎剣プロミネンス・ブランド…。


銀の剣と奴隷騎士ゲイルの左半身を白炎が包み焦がす。


「淵嚼蛇……そして倶利伽羅剣」


業火と黒蛇が大獄丸を漆黒に染め再び激突し合う。


僅かな秒間で入り乱れる剣撃の嵐。


…そして決着の楔となる戦闘技を同時に放つ。


ーー…太陽剣ステラノヴァ…!


「羅刹刃・莫月」


一瞬の間が空く。


「……くっ!?」


奴隷騎士ゲイルの斬撃が俺の脇腹を斬り裂いた。


血は流れず傷口が燃え激痛が襲い膝を突きそうになる。


ーークロナガユウ…。


彼が俺の名前を呼ぶ。


ーー…確信したよ…貴様こそ魔窟に囚われし全ての魂が待ち望む…解放者だ。


敵意も殺意もなく穏やかな顔だった。


ーー…千古より受け継がれ…どんなに刃毀れしようと壊れなかったプロミネンスの剣を砕くとはな……ユウの勝利だ。


骨を切って肉を絶つってか?


「いやぁ褒め過ぎ……って痛ってぇ!」


喋ると脇腹がぁ…!?慌ててポーションを飲んだ。



ーー簒奪技発動。能力の有無により変化。新たな戦闘技『羅漢剣スサノオ』を習得しましたーー



「おぉ」


奴隷騎士ゲイルの太陽剣ステラノヴァをラーニングした。


羅漢剣スサノオか…使うのが楽しみな戦闘技だぜ。



〜数分後〜



「怪我の痛みは?」


「もう大丈夫」


「…動作と体捌きに違和感を感じましたが原因は?」


バトルパラメーターの低下による変化にベアトリクスは目敏く気付いていた。


「後で話すよ」


「……約束ですわ」


意外とベアトリクスも心配症なんだなぁ。


「お疲れ様です!凄い戦いでした」


「まさか相手の剣を壊すとは……」


「不眠で最悪のコンディションだったでしょうに」


「まあまあ……さて」


三人との会話を中断しゲイルに向かい合う。


ーー…天秤は価値を得た…険しき苦難の道を進むがいい…。


水色の転移石碑に光が灯る。


「険しき苦難の道?」


ーー…苦痛の山は最後の試練…恐るべき魔窟だ…健全な肉体を蝕み精神を磨り潰す…苦難は勇気を…苦悶は更なる犠牲を…試されるのだ。


「先を行く者共はどちらを?」


ーー女騎士よ…お前達が追う者は…同胞を天秤に捧げ苦悶の道を進んだが案ずるな…苦難の道を順調に進めば…必ず交わるであろう……苦悶の道は遠い…。


「……」


「ベアトリクス?」


「…考え過ぎかしら」


何か引っ掛かってる様子だ。


ーー…暫し眠る…残された力を酷使し過ぎた…。


え?他にも色々と聞きたいことがあるのに!


ーー……どうか…我々と…アイリスの魂を…解放してくれ…ユウこそ…運命が遣わした…救いの使者…なの…だ……。


ゲイルはそう言い残しセクトと同様に消えてしまった。


「…む〜」


門番には不可思議な抑止力が働いてるっぽい。これも守護者の力なのか…?謎が多く憶測でしか推察できん。


「二つの道は交わる……これは有益な情報よ」


「邂逅の時は近いってか」


「探索指揮を任せたわたしの判断は正しかった」


そう言われると嬉しいね!


「今日はここで休憩しましょう」


「「「はっ」」」


「恐らく最後の休憩になるわ」


「分かった」


「悠も休んで疲労回復に努めて頂戴」


「…俺は元気だぞ」


「駄目です。貴方だけに甘える訳にはいかない」


「そうですよ!」


「ああ」


「クロナガさんは必須戦力なんだし正念場に備えて下さい」


「……」


ソロとは違う感覚で若干の戸惑いはあるが…冒険者ギルドがPTを組む事を推奨する理由が漸く分かった気がする。


「へへっ…サンキューな!」


()()なんだし当然ですってば」


キャンプの準備を行い夕食を食べ少し仮眠を取る。



〜夜23時19分 不朽の地下墓地 天秤の祭壇〜



「ふぁ〜…んにゃ…」


寝袋から体を起こし目を擦り懐中時計を見る。


…えー…23時過ぎ?まだそんな時間か。


ベアトリクスが焚き火の傍で火の番をしてる……よいしょっと!


「起きたのですか?」


「ん」


「ゆっくり朝まで休んで大丈夫よ」


「目が覚めちゃってな…コーヒーでも飲まないか?」


「是非」


ケトルに水筒の水を注いで焙煎し挽いた豆の粉末を入れた瓶を準備する。


自家製インスタントコーヒーだ。


〜10分後〜


「体が暖まります」


カップを両手に持ち兜を外したベアトリクスが微笑む。


「ダブルで砂糖を多めにしてある」


ブラック派の俺も疲れた時はこの淹れ方が好みだ。


「三人は?」


「交代の時間までテントで寝てるわ」


「ふーん」


「…先の戦闘で精彩を欠いた動きの原因を教えてくれますか?」


話すって約束だったな。


「ゲイルは神に祝福を受けた武器と防具を装備してたから影響を受け戦闘数値が低下したんだ」


「バトルパラメーターが?」


「うん…自惚れじゃないが俺の戦闘数値は高いしアビリティもスキルも秀でてると思う」


「……」


「でも相性の良し悪しで顕著に弱体化するって痛感したよ」


「それでも勝利した悠は素晴らしい」


…この先は真神樂蛇と禍面・蛇憑卸でカバーする必要があるかも知れ……ふぇ!


「ベアトリクス…?」


「わたしが傍にいますから」


頰に添えられた彼女の手は暖かくて気持ちいい。


「メンデンもサイトもセバスチャンも……貴方は一人じゃない」


「……おう」


優しいベアトリクスに思わず甘えたくなっちまう。


「あら…照れてるのですか?」


「ち、違う」


「頰が赤いわ」


「…それは…その……気のせいだよ」


「普段は大人なのに…ふふ…そんなギャップが愛おしい」


子供扱いされてるぅ!


焚き火を眺めつつ会話を続けた。


〜15分後〜


「…『黒髭』には支援者がいるかも知れません」


ぽつりとベアトリクスは呟いた。


「支援者?」


「犯罪者が魔窟を攻略するには手際が良過ぎる」


「ふむ」


「そもそも強盗や略奪の方が楽に金を稼げるのに聖堂の宝を狙うのも変な話だわ」


「確かに…」


「捕縛し真実を吐かせればはっきりします」


「正直に話すとは思えないけどなぁ」


「いえ……きっと()()()()()()()


表情は変わらないが凄味を感じる。


……話したくなる、か。非人道的な手段を使うって意味を含めた言葉だ。


その後、サイトと交代しベアトリクスも就寝する。


二度寝する気分でもないし武器の整備でもしよっと。


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