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紅い瞳が涙を流す。③



〜金翼の若獅子 一階フロア〜


アイヴィーと一階フロアのテーブル席に座る。


「この後はどうするんだ?」


「…寮に戻りたくないから本を読む」


そりゃそうだ。あんな光景を見てむさむざ戻すのは忍びない…家に泊まって貰おう。


事情を話せばアルマも大丈夫だろ。喋ったってアイヴィーには分からないしな。


「今日は家に泊まるか?」


「…え」


「寮には戻りたくないんだろ。なら家に来いよ。可愛いネコもいるぞ」


「ネコさん…で、でも…アイヴィーが…泊まったら悠に迷惑かけるから…」


「迷惑なんかじゃない。気にするな」


「……本当?」


「ああ。本当だ」


戸惑うアイヴィーが遠慮がちに頷いた。


「よし!決まりだ。今日の夕飯はアイヴィーの好きなもん作ってやるから言ってみろ」


「……クリームシチュー」


「なら材料買って帰ろう……そうだ。ちょっとだけ待ってて貰えるか?フィオーネに挨拶してくる」


「うん」


〜 一階 受付カウンター前 〜


フィオーネが俺に気付く。


「悠さん…。ギルド中の噂になってますよ。アイヴィーちゃんとPTを組んでAAランクの昇格依頼に付き添うって…」


「まぁ最初からそのつもりだったから」


フィオーネは目を閉じてため息をつく。


「…今更、辞めて下さいと言っても無駄なのは分かってます。だから言いません」


「はは。心配してくれてありがとな」




「……ッ…笑い事じゃありません!!」




フィオーネの怒鳴り声が響く。眉を吊り上げ狐耳が後ろに立ち厳しい目付きで俺を見る。


美人が怒ると怖いって言うよな?…あれはマジだ。


他のギルド職員とメンバーの動きが止まり喧騒が静寂に変わった。


言うまでもないが俺も止まった。


「…失礼致しました。悠さんがたった二人でダンジョンのボス討伐に挑むのに危機感が…全ッっく!!…足りないのが信じられず怒鳴ってしまって」


「す、すみません」


情けなく謝る姿を見てフィオーネは吊り上げた眉を下げ悲しそうに俺を見詰める。


「…アイヴィーちゃんを助けたい理由がお有りなのでしょう。…それは悠さんの過去と関係していませんか?」


「そ、れは」


言葉が詰まる。


「自分の事を話したくないのは分かってます。……ですが何一つ話してくれないのは…とても辛いです。私の勝手な見解ですが…悠さんはアイヴィーちゃんに…自分を重ねてませんか?」


「……」


図星を突かれ本心をフィオーネに伝えた。


「……そうだよ。俺も親を子供の時に亡くしてそれで嫌な思いも…辛い経験もした。…俺はアイヴィーに自分を重ねてる。あの時、死にたくなるほど…毎日が嫌で助けてってずっと思ってた。俺には…今のアイヴィーがそう見えるんだよ。…アイヴィーは…あの時の俺なんだ」



「…そ、うだったのですね……すみません」


後悔した顔で謝るフィオーネ。


「…いや、いいんだ。いつも助けてくれるのに隠し事ばっかりでごめんな」


「…でも私は嬉しいです」


「嬉しい?」


「本心が知れたから。私が思ってた通り…やっぱり悠さんは誰かの為に一生懸命な…素敵な方だから」


微笑むフィオーネ。


柔らかい手が俺の手を取り握る。


「無事にアイヴィーちゃんと二人で帰ってきて下さいね。これは私からの…悠さんへの依頼ですよ?」


「……ああ。絶対に達成させる」


この依頼は絶対に失敗できないな。


「(他所でやれぇぇ!!!)」


「(きゃー!きゃー!ラブの匂いがするぅ!)」


「…この酒って砂糖入ってんのか?甘くて吐きそう」


「あーはいはい。仕事仕事…っと」


…周りが何故かうるさい。


でも、すっきりした気分だった。


待たせていたアイヴィーと一緒にギルドを出る。


第6区画で買い物をして家に向かった。



〜夕方16時 マイハウス〜



買い物を済ませ自宅に到着する。


「……ここ?」


アイヴィーは物珍しそうに家を眺めている。


「そうだよ。ちょっとだけ外で待ってくれるか?」


こくりと頷く。


中に入るとアルマが欠伸をしながら丸まっていた。


ーーーなによ。今日は早いわね。


「ああ。実はなーーーー」


〜数分後〜


経緯を説明すると特に騒ぐ訳でもなく興味もない様子だった。


ーーー家主のあんたが良いならいいんじゃない。ランダもよく捨て子とか家に連れて来てたし。


「そうなのか?」


ーーーええ。…お節介で世話焼きな性格はランダそっくりね。


「じゃあ中に入れるからな」


ーーーどうぞご勝手に。わたしの言葉はわからないから猫の鳴き声としか思わないでしょ。


「アイヴィー。待たせたな…中へどうぞ」


「…ネコさん…」


アイヴィーはアルマを見つけると真っ直ぐ近づいて行く。…ネコが好きなのか?


ーーーまだ子供ね〜。


俺は引っ掻くなと願いながらアルマとアイヴィーの様子を見ていた。恐る恐る手を伸ばすアイヴィー。頭に触れぎこちない手つきで撫でる。


…アルマはされるがままだ。


ーーー昔を思い出すわ。あの時もこんな感じだったし。


俺が撫でるとあんなに嫌がるのに…ちょっと悲しい。


ーーーふぁ〜。はやく夕飯を作りなさいよ。


「ネコさん」


アイヴィーはアルマに夢中でこっちを全く見ない。


疎外感を感じながら夕飯の準備を始めた。


…ちょっと切ない。



〜1時間後 リビング〜



「おーい!出来たぞ。ご飯にしよう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

クリームシチュー

・野菜と肉を牛乳とブイヨンで煮込んだ料理。

隠し味にバターを混ぜている。特別な食材は

使ってないが心も体も温まる一品。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


クリームシチューとサラダにパンを食卓に並べる。


俺はご飯にかけてよく食べたが……今日はアイヴィーのリクエストだ。無難にパンにしよう。


「いただきます」


ーーーはふはふ!!


アルマはガツガツ食べている。もっとゆっくり味わって食べて欲しい。


「……ネコさんもシチュー食べるの?」


驚いたようにアルマを見るアイヴィー。


「家のネコは変わってて人と同じものを食べるんだ。…名前を言ってなかったな。こいつはアルマだ」


ーーー…変わってはふ!…なふわよ!


「アイヴィーも食べてみろよ」


スプーンですくって口にシチューを運ぶ。


「…………」


無言で反応はないが黙々とシチューを食べる。お気に召したようだ。三人で和やかな夕食の時間を過ごし食器を片付けアルマを二階の部屋に案内する。


「この部屋を好きに使って良いぞ。お風呂は一階の左奥にある。タオルは置いとくから」


「うん」


「俺は下に居るから用があったら呼んでくれ」


「うん」


「…悠」


「なんだ?」


部屋を出ようとしたら呼び止められた。


「…アイヴィーはシチュー美味しかったから。…ありがと」


「はは。喜んで貰えて嬉しいよ」



〜夜21時 リビング〜



ダンジョン探索に備え準備を行う。


「よし!軽食もこれだけ作ったし…毛布やコップ…調理道具も…大丈夫だ」


ーーーくぁ〜。


「ご飯は作り置きしたけど一気に食べるなよ」


ーーー善処するわよ…たぶん。


今、小声で多分って言ったよな…。


「結構な量だぞ。これ一日で食べたら絶対にダイエットだからな」


ーーーう、うるさい!…んーでも魔窟か。懐かしいわ。わたしも昔は魔窟を荒らしまくったもの。支配者をボロクソに痛めつけて遊んだりしたもんよ。


遊ぶ…それって遊びじゃなくて荒らしやん。


ーーー…あ、そーだ。ちょっと待ってなさい。


〜5分後〜


アルマが人形を咥えて戻ってきた。


ーーーはい。これ。


「……なんだこの薄気味悪い人形…」


人形には下手くそな顔の似顔絵とお札がべたべたと貼られてある。


丑の刻参りの藁人形に通じる不気味さを感じた。


ーーーこれは…あー。あんた鑑定のスキル持ちでしょ。鑑定してみなさい。


どれどれ…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

逃避の木偶人形

・緋の魔女ランダが錬成した魔導具。

持ち主のMPを全消費し魔窟を脱出できる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…おぉ!ダンジョンを脱出できるって書いてあるぞ」


ーーーランダがよく使ってた魔道具よ。…『魔窟で迷子になっても安心だ!』…って言ってたわ。これであんたたちも大丈夫でしょ。


「心配してくれてんのか。アルマは優しいな」


ーーーゴロゴロゴロゴロ……はっ!?あ、顎を撫でるな!!…べ、べつに心配なんかしてないからね!勘違いしないでよね!


ツンデレなネコ。


「そういえばなんで俺が撫でると嫌がるんだよ」


ーーー…い、嫌ってゆーか…気持ちいいけど……撫でる手つきがいやらしいからよ!この淫魔家主!!


「ネコに欲情なんてしねーよ!」


心外過ぎるわ。


ーーーふ、ふん!…そーいえばあの子って不死族の吸血鬼よね。…詳しい事情は面倒だから聞かないけど…しっかり守ってやんなさいよ。まだ子供なんだし。


「ああ。勿論だ」


アルマから魔道具も貰い準備も終わった。


早目に風呂に入り明日に備え寝るとしよう。



〜二階 寝室前〜



寝室に向かう途中、客室に明かりがまだ点いていたのが目に留まった。


「起きてるのかな」


部屋に入ると…。


「すぅ…すぅ…」


規則正しい寝息を立て寝ているアイヴィー。


…どうやら風呂上がりにそのままベッドで寝てしまったようだ。パジャマが乱れ拭いたタオルもそのまま。


衣服を整え布団をかけ直す。


「ふふ」


…こう見ると本当にただの子供だ。Aランクの猛者には到底、見えない。


キャロルはアホみたく強いとは言ってたっけ。


…ステータスを確認しておくか。寝てるし子供なんだから問題ないだろ。


ーーーーー対象を確認。ステータスを表示ーーーーー

名前:アイヴィー・デュクセンヘイグ

性別:女

種族:不死族 吸血鬼

称号:孤独な幼き少女

職業:影術師シャドーマンサーLv28

戦闘パラメーター

HP1700 MP4200

筋力240 魔力2000 狂気10

体力14 敏捷500 信仰10

技術240 精神1000 神秘60


非戦闘パラメーター

錬金:11 生産:5

耐性:不老耐性 不死耐性(Lv5)闇耐性(Lv5)

戦闘技:影技シャドースキル 吸血鬼(ヴァンパイア)技法(スキル)

魔法:闇魔法(Lv5)火魔法(Lv5)雷魔法(Lv4)

固有スキル:影法師・覚醒・冥闇

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

不死族で吸血鬼の少女。幼い頃に両親を亡くし凄惨な過去を持つ。疎まれ裏切られて生きてきた為、人を信用する事を恐れている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……」


体力の数値が低いしHPも低いが魔力は四桁でMPも高いな。…確かに強い。


それに影術師。どんな手段で攻撃するのか気になる。


「凄惨な過去、ね…」


アイヴィーの寝顔を眺める。


…アイヴィー・デュクセンヘイグ…本名すらまだ知らなかったな。


「…一緒に頑張ろうな」


灯りを消して寝室に向かった。



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