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追撃の蛇と薔薇 〜リグレッド城〜 ④

9月23日 午後14時27分更新




「しかし人を呪わば穴二つ…製作者は呪詛返しの恐怖に脅かされ正常な精神状態ではいられない」


ゾッとする話だ。


「…さ、先を急ぎましょう」


「そ、そうだね!」


俺とセバスチャンは身震いしつつ言った。



〜30分後〜



「…随分と長いな」


「ああ…」


あれからずっと歩いてるが出口に辿り着かない。


「一本道で迷う訳がないですし…」


…これじゃ建物の構造と内部の理屈が合わないぞ…空間拡張魔導具でも使ってるのか?


「ストップだ」


やっぱり何か違和感を感じるな…。


「……」


一枚の狩人の男の絵を注視する。…何となくだが俺に似ている気がするが?


「!…壁から離れろ」


「…どうしました?」


「この絵は普通じゃない」


「普通って……ひっ!」


一斉に壁に掛けられた絵画が揺れ笑い声が響く。


「「「!?」」」


揺れが激しい絵画…五人の男女の人物画には俺達が描かれみるみる老化し絵が劣化していく。


マップを確認してもモンスターじゃないしこれは…!?


「あ、あひ…ひひひひ…」


「…嫌…嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」


「お父ちゃん…お母ちゃん……」


「お、おい?」


三人の様子が急変し武器を抜き互いに振り被っている。


「まずい…淵噛蛇!!」


黒蛇で絞め殺さない程度に拘束した。


「うがぁ!ば、化け物がぁぁぁ!」


「…嫌ぁ…嫌…嫌よ…?来ないでぇ…」


「俺もそっちに行くから…皆で一緒に…一緒…」


半狂乱…錯乱状態か?


「ベアトリクス!無事か?」


「ええ」


彼女は冷静に状況分析に努めていた。


「成る程…足を踏み入れた時点で強制的に幻惑を誘発させる罠ですね」


「マジ!?」


「違和感は感じてましたが漸く分かりました」


「…とりあえず絵を燃やしてみるか?」


「必要ありません」


ベアトリクスは臆す事なく不気味な絵に近付く。


「悠」


「こら!暴れるなっちゅーに!…どうした?」


「絵画はどれも見事な装飾と色彩で描かれているわ」


「そうだけど…」


「…ですがあの絵だけ他と違い見窄らしく目立たぬ位置にひっそりと佇んでいる」


指差したのは修道女が祈りを捧げる絵だ。


ベアトリクスがローズオブメイで切り裂く。


「!!」


壁一面の絵画が真っ黒な瞳の絵に変わり血を流す。


次の瞬間、光景が一変した。


薄汚い壁に引き裂かれた一枚の絵と汚れた絨毯が敷かれた廊下には夥しい数の骸骨が朽ち果てている。


直ぐ先に赤い扉が待ち構えていた。


「やはりトリガーとなる仕掛けがありましたか。注意深く観察すれば簡単な仕掛け……不自然な絵画の中に一枚だけ微動だに変化しない絵が紛れていれば疑う」


絵画は罠…見事に俺達は騙されてたんだ。


「……よく見抜けたな」


「転がる哀れな亡骸の殆どが幻惑の状態異常に抗えず自殺した聖職者か冒険者でしょうね」


「……」


「わたしでも耐えて一時間が限界だったはず」


「平気そうに見えたが?」


「悠は患わないので分からない感覚かと」


…うーむ…狂気の数値は上がり難いってアルマも言ってたもんなぁ。


「…ん…あ?…わ、わぁ!?なんだこの蛇!!」


「マ、スター…クロナガ…さん?」


「お父ちゃ……夢…?」


お!正気に戻ったみたいだ。


〜数分後〜


「…マスターに救われました」


「不甲斐ない限り…」


「……恐ろしい罠だ」


説明を聞いた三人が呟く。


「危険な魔窟を攻略するには耐性取得と耐性Lvの向上が最優先…いや必須ですわ」


「…AA昇格依頼のダンジョンとは難度が桁違いで甘く考えてました」


「あれはギルド側で最低限の考慮をしてるので当然でしょう」


え…考慮してあれ?


「我々二人が同行できる機会は滅多にない。命懸けで勉強なさい」


「「「…はっ!」」」


…命懸けの勉強…めっちゃスパルタ指導やん。


その後も皆で協力してモンスターを倒し罠を回避しつつ緑の矢印を目指した。



〜午後15時40分 リグレッド城 城主の寝室〜



数時間後、小休止できそうな部屋に到着した。


「ここで休憩しようか」


昼飯も食べず探索を続けたから皆の消耗が激しい。


幸いモンスターも居ないしゴールも目の前だ。タイミング的にはベストだろう。


「そうですね」


「…た、助かります」


「ぜぇ…ぜぇ…!」


「水が飲みたい…」


息を切らす三人は膝を突き休み始めた。


…埃っぽいが他と比べれば綺麗な部屋だし天幕付きのベッドもあるし寝室だろう。


「ほいほい」


木造りのコップにオリーブ型の水筒の水を注ぐ。


「酸っぱいけど爽やか…」


「…あぁ…生き返るな」


「もう一杯頂けます?」


輪切りの超熟レモンを入れたレモンウォーター。


他にも容器を封して大量に持ってきた判断は正解だったぜ。…リグレッド城の水は汚染された毒水だし。


「これも食っとけ」


甘樹ツリーの果物を乾かしドライフルーツをミックスさせたパウンドケーキだ。カロ○ーメイトを意識して作ってみたが行動食として十二分な栄養がある。


「美味しい!」


メンデンが頬張り喜ぶ。


「干し肉より腹持ちも良さそうだ」


「ダンジョンで美味しいクッキーが食えるとは」


他の二人も満足気だ。


「クッキーじゃない。パウンドケーキだ」


しっかり訂正しておく。


「…これってクロナガさんが作ったの?」


「ああ」


「糖分はエネルギーになるから最適ね」


ベアトリクスも兜を外しパウンドケーキを口に運ぶ。


「ふふふ…思わず笑みが溢れる美味さですわ」


気に入って頂けて何よりだ。


「鍛治も錬金術も戦闘も料理も何でもこなして驚きます」


感心した表情でメンデンは喋る。


「契約したミコトの恩恵さ」


「…従魔の名前ですか?」


「おう!相棒だよ」


「相棒……クロナガさんは不思議な方ですね」


「不思議?」


契約者だからかな?


「確かに…最初の想像してた人物像と今じゃ180度違う」


「ああ」


三者三様に頷き合う。

その様子をベアトリクスは微笑んで眺めていた。


〜10分後〜


それとなく部屋を物色してるとマップの違和感に気付く。


暖炉の向こうで青いマークが点滅してる?


煤けた薪…火網…変哲のない暖炉だが怪しいな。


「…えい」


試しに軽く火網を蹴ってみた。


「うぇぇ!?」


驚くことに暖炉が丸ごと消えて通路が現る。


「どうしました?」


「…暖炉を蹴ったら隠し通路を見つけたんだけど」


「モンスターの気配はしませんわ」


「ちなみにあの部屋の中にアイテムがあるぞ」


通路の先に見える木製の扉を指差す。


「…ミッケ司祭の件もありますし行ってみましょう」


休憩中の三人へ待機指示を出し俺とベアトリクスは隠し部屋へ足を運ぶ。


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