追撃の蛇と薔薇 〜リグレッド城〜 ③
9月21日 午後21時55分更新
〜午前7時50分 リグレッド城 不潔な地下牢〜
薄暗い螺旋階段を下へ降り湿った石畳の回廊を歩く。
大広間から左右の扉の向こうに矢印は分岐している。
こちらは右扉の地下ルートだ。
「…気味が悪い」
メンデンがそう言うのも無理はない。
奇妙な節足動物…壁を這う蜘蛛…生理的に悪寒が走る光景が続くのだ。
「どうも地下牢みたいですね」
「ああ…牢の中に干からびた死体があるし」
手枷で拘束されたまま死んで亡骸は鼠の餌と虫の苗床か…悲惨過ぎる死に様だ。
「……」
先程からサイトはずっと黙りっ放しだ。
…顔色がめちゃくちゃ悪いぞ。
「大丈夫か?」
「は、は、はい…だ、大丈夫です!」
大丈夫じゃねーだろ!
「サイトは虫が苦手だからな」
「…に、苦手じゃない!嫌いなだけだ」
セバスチャンに噛み付く。
「モンスターより安全さ」
そう言ってる内に天井から落ちたモンスターが行手を遮った。
「……ひっ!?」
緑色の体液を撒き散らすムカデとミミズの集合体だ。
…鑑定っと…名前はセンティピードワーム?昆虫系のモンスターか。
「消え失せなさい」
ベアトリクスが左手を無造作に払うと真っ二つに裂け音を立て溶けていく。
「詠唱破棄の風魔法で一撃…雑魚ね」
悠々と死骸を踏み込え進む。
〜20分後〜
「終着点だ」
緑の矢印に到着する。
六体の奇妙な人形が左右に並んだ狭い部屋だ。鋼鉄製の大扉の隙間から生温い風が漏れている。
「これは仕掛け扉だ」
セバスチャンが扉を触る。
「無理に開けようとすると罠が作動するタイプですよ」
「マジで?」
「ええ」
壊そうと思ってたが止めよう。
「…マスター。人形の足元を見て下さい」
「血ですわね」
…むむ?
文字が掘ってあるぞ…なになに?
「…自ら鮮血を流す犠牲者…墓地へ進むべし…六人の苦痛を我は尊ぶ……」
「旧筆記のヘブラ語?よく一瞬で解読できましたね」
「まあな」
「…学者でも読み解くのは難解なのに」
アザーの加護がありゃ余裕!
「ちょっと待てよ」
この人形は開閉できるぞ…まさか…?
嫌な妄想が脳裏に過ぎる。
「…皆は離れててくれ」
四人が背後で見守る中、意を決し人形を開いた。
「「「!!」」」
「…鮮血を流す犠牲者…成る程」
穴だらけの死体と空洞の人形に内包された無数の棘…嫌な予感が的中した。
鉄の処女と同じ原理の拷問器具だ。
映画や本で知ってたが……実際は妄想より悍ましい。
苦悶の表情の死体が凄惨さを物語っている。
「腐敗具合を見ると遺体は『黒髭』の配下と推察するのが妥当でしょう」
ベアトリクスは死体を眺め静かに喋る。
「…仲間を拷問器具に押し込め進むなんて…酷い」
「他の人形も開け確認が必要ね」
〜数分後〜
「…数は合ってるな」
無残な遺体には共通事項があり服の背中に黒い髭の生えた髑髏のシンボルマークが刺繍されている。死因は恐らく出血多量……絶命するまで暫く意識があった筈だ。
想像し難い苦痛と絶望だったに違いない。
悪党の一味とはいえ同情したくなるぜ…。
「この道を進むのは無理ね」
「罠の発動を覚悟で扉を壊しますか?」
「止めましょう…仕掛けの仕組みに比例し致命傷級の罠だと容易に考察できる」
「では…」
「もう一つのルートを行きます」
「ああ」
マップに点滅する緑の矢印の位置を再確認した。
骸の呼び声を使ってみるか?この死体から何か情報が……む!?
ーーあ…あぁ…。
ーー…うばぁ…ばあああ…。
遺体がゆっくりと起き上る。白濁した目と半開きの口…映画で見るゾンビとそっくりだ。
「…生きてる…だと!?」
「違う!これはアンデットだ!」
魔窟で死ぬと呪縛に囚われる…成る程な。俺達も死ねばこーなるって訳だ。
「燃えろ」
燼鎚・鎌鼬鼠の炎がゾンビと化した遺体を焼き殺す。
「消し炭にすれば復活もしない」
「…一瞬で火の海ですね」
「さぁ行こう」
俺達は上を目指し来た道を引き返した。
〜午前9時40分 リグレッド城 惑わしの絵画〜
大広間に戻り左扉の先の螺旋階段を登ると長廊下に出た。
壁には水彩画・抽象画・風景画・人物画…種類問わず様々な絵画が掛けられている。
「地下牢とは違った意味で不気味だ…」
サイトの一言にメンデンが頷く。
「…悪趣味なダンジョンだよ」
「幽魔種系は恐怖心を煽るモンスターが多いから余計ね」
音楽室に飾ってたベートーベンの肖像画を思い出すなぁ…学校の七不思議ってやつ?
「ベアトリクスは苦手じゃないか?」
「苦手とは?」
「いや…女の子って幽霊とか嫌いだろ」
「適切な対処方法を理解してれば恐るるに足りません」
「…そ、そっか」
そーゆー趣旨で聞いた訳じゃないが頼り強い。
「!」
…き、気のせいか?
「どうしました?」
「…この絵の目が動いた気がしたんだ」
貴婦人が微笑んでる絵を凝視し呟く。
「特に変わった点はありませんが」
マップを確認しても赤いマークは点滅してない。
「…気のせいか…」
「絵が動く…田舎で流行った怪談を思い出すな」
「怪談?」
「はい」
「……」
「…売れない画家のピアルカッサは人を殺して絵の具に血を混入させ絵を描いた…その絵画を見た者は発狂し自殺するって怪談ですよ」
「……マジか」
「ははは!ただの迷信ですって」
セバスチャンが笑う。
「あながち迷信ではないかも知れません」
「「え…」」
俺とセバスチャンが声を揃え反応した。
ベアトリクスは腕を組み語る。
「呪物の作成方法は…血・臓腑・皮膚・毛髪を材料に加えMPを消費しアイテムを作成すること…製作者の生産・錬成・神秘・魔力のパラメーターが高いほど強力な呪物が誕生します」
…そーゆー都市伝説はネットでも見た事があったっけ?
確か…コトリバコとかって怪談が話だったよな。




