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無敵の怪人 ③

9月15日 午前8時30分更新

9月15日 午前10時45分更新



〜夜20時35分 巡礼者の宿 3F 301号室〜


用意された夕食はろくに喉を通らなかった。


他のメンバーはベアトリクスの普段と違う様子と放心状態の俺を怪訝な顔で遠巻きに眺めるばかり。


今も部屋に戻り項垂れている。


恥ずかしい…穴があったら入りたい…!


「…大丈夫ですか?」


「ぜーんぜん大丈夫だよぉ」


天井を見上げ答えた。


「えっと…もっと近くに座っては?」


「次ああなったら耐えられる自信がない」


服を着たとはいえ薄いインナーとレギンスはある意味、裸よりエロい。


「…空室はないんだっけ?」


「ええ」


「他の男の部屋に…」


「どの部屋もすし詰めですよ」


むむむむむ…。


「この事態でどの宿も宿泊客でパンク状態ですから」


黒髭めぇ…ぜってー許さねぇ…!


「…わたしと同じ部屋は嫌ですか?」


「ベアトリクスってより…男女が一緒に夜を過ごすってのがまずい」


「では問題ありません」


では!?…問題しかなくない?


「わたしは一緒で嬉しいわ」


そーゆー顔は禁止ぃ!!

俺の中の紳士がまた野獣に変わっちゃうだるぉ!


「仕方ない…俺はここで寝るからベッドはベアトリクスが使ってくれ」


「二人でも十分に余裕があります」


「ベッドの余裕があっても俺の心の余裕がない」


「それでは一緒の部屋にした意味が…ぶつぶつ」


「え?」


「…悠」


ベアトリクスは真剣な表情で喋る。


「状況は悪化し今回の依頼は既にSS級に匹敵する内容です」


「…まぁ…予想以上に危険そうだもんな」


「休める時にしっかり休まなければ任務に触りますよ。性別を気にしてる場合ではありません」


「そー言われると一理ある……のかな?」


「ありますわ」


自信満々にベアトリクスは頷く。


「なのでベッドで休みましょう」


「うーん」


強く迫まれてたじたじだ。…まぁ端で寝れば大丈夫だよな…うん!


「…わかったよ」


「それでいいのです」


明るく笑うベアトリクスが可愛く見えた。


「…それと悠には話しておくわ」


一転し真剣な表情に変わる。


「わたしも禁術を使えるの」


「え、マジで?」


「大マジです」


それは驚きだ。


「癒えない傷痕を背負った代償にこんな力が使えます」


「…うぉ!?」


机の上に置いていたタバコの箱がベアトリクスに向かって飛び右手でキャッチする。


「引力を操るアビリティで『満ちる月(グラビダシオン)』とわたしは呼んでるわ」


「凄い力だな…」


カウンターと併用すればめっちゃ強いぞ。


「忌むべき力ですが役立つ瞬間があるかも知れません」


忌むべき力…傷痕の代償…禁術…ふむ。


「わたしはかつて第一騎士団の副団長でした」


「え」


遠い目でベアトリクスは語り出す。


「…話すと長くなるので割愛しますが…任務で救うべき民に裏切られ傷を負わされた末路がこの禁術の習得」


「……」


「シオンも同様の不幸に見舞われました」


あの第一騎士団の団長も?


「前団長はその任務で死亡し黒幕は逃走…その者の名は生涯忘れません」


凄まじい殺気だった。


「二つ名は『教授(プロフェッサー)』…名前はヘンゼル・クラウリー!…賞金7億5000万Gの超弩級の指名手配犯」


「…プロフェッサー…」


「わたしが力の正義を志す起因となった男よ」


目を伏せ一息吐き間を置く。


「感情的になって御免なさい…わたしが言いたかったのは悠を信頼し背中を預ける以上、自分の秘密にする力を話す必要があると思ったから」


アビリティやスキルの不用意な暴露は生死に直結する。


…信頼か…嬉しい言葉だ。


「俺もベアトリクスを信頼してるし話そう」


自分のスキルとアビリティも説明した。


〜数分後〜


「…悠がヒャタルシュメクを攻略したのも納得です」


「戦闘は兇劒の効果でどの敵にも攻撃が可能だ」


単純だが強力無比と自負してる。


「その代わり支援魔法も回復魔法も効かない」


「……」


「特に耐性のお陰で聖属性の攻撃は本当に一撃でも大ダメージ必須って感じで……ベアトリクス?」


なんで笑ってるんだろ。


「…隠さず話してくれるのは強い絆と信頼の証ですね?」


「ベアトリクスを疑うわけないじゃん」


「その一言も無自覚…本当に悠は困った人ですわ」


「?」


「ふふふ」


暫く談笑し明日は出発も早いので就寝した。


…限界までベッドの端に寄ったがベアトリクスは()()()()()()()()密着される。


悩ましい寝息と感触に理性が崩壊しないよう男の裸を想像しながら寝たのは初めての経験だった。



〜百合紅の月21日 朝4時30分 パルテノン寺院〜



支度を整え俺達は三番街の寺院に移動した。


広間の中央には黄色の転移石碑が鎮座してある。


俺が知ってるのと色が違う?


「一番街の転移石碑は連中に壊されましたがこの転移石碑は無事でしたのが幸い…大聖堂の一番近い森の中にある転移石碑に転移できますぞ」


「助かりますわ」


「どうか…どうか…あの極悪非道の悪魔共に報いを…!」


「任せて下さい」


深く頭を下げる市長にベアトリクスは答える。


「これより『黒髭』と一味の拿捕に向かう…各員気を引き締めよ」


「「「はっ!」」」


常時戦闘準備万端…ってか?四人は先に石碑に触れ転移した。


……うし!俺も行くぞ。


「間に合ったわ〜!黒永さ〜ん」


予期せぬミッケ司祭の登場で出鼻を挫かれた。


「えっと…どうしてここに?」


「ポーションのお礼を出発前に言いたくて市長に聞いたの!お陰で皆の傷は癒え元気になって…本当に黒永さんの善意に感謝してます」


ご丁寧に律儀だなぁ。


「わざわざどうも!皆が助かって良かったです」


「……そうですな」


市長は少し顔を曇らせていた。


「ふふふ!例の約束も期待してますよ?」


囁く彼女に頷き答えた。


「貴方に女神フラムの加護があらんことを」


間に合ってるんで加護はご勘弁くだせぇ!


転移石碑でリグレッド城へ向かう。



〜数分後 パルテノン寺院 広間〜



「…言わずに良かったのですかな?」


「……」


ミッケは市長に微笑み静かに喋る。


「彼をむざむざ嘆かせる必要はありません」


「…クロナガさんのポーションで治った怪我人は()()…他の者は既に手遅れだった…市長なのに自分が無力で悔しい」


「……彼等に期待しましょう」


いざとなれば自分も闘争に身を投じる…その言葉は飲み込み彼女と市長は寺院を去った。


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