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空の旅 ⑦

9月4日 午前9時5分更新





〜同時刻 フライングメアリー号〜


「はぁー」


感心して溜め息が口から漏れた。空賊団の船が瞬く間に燃えていく。


「乾燥した砂漠の空気はよく燃える…ストームフレイムの合体魔法ユニゾンスペルも威力が増してます」


「ユニゾンスペル?」


「術者同士が協力して唱える魔法ですわ。砲弾を弾いた風属性の防御魔法も複数人で発動させることで飛躍的に効果を高めたの」


「……」


「騎士団は陣形戦術を用いたPT戦を得意とします」


「大したもんだ」


船から剥がれ落ちた残骸が火の粉を散らし次々と落下していく。


警戒しつつフライングメアリー号は敵船との距離を縮めた。


この有様だと墜落も時間の問題……むっ!?


「総員警戒」


ベアトリクスさんの指示に従いメンバーは武器を抜く。


空賊団の連中が船を捨て乗り込んできたのだ。


その数はざっと十数名。火傷の水疱と煤で汚れた顔は殺意満々で物凄い形相になっている。


「…ゴミが……俺の船をぶっ壊した覚悟はできてっか…アァン!?」


派手な服装に趣味の悪い装飾品……こいつが首領のロンズ・バーだな。


「普通にゃ殺さねー…散々拷問して殺してくれって言うまで嬲ってやっからな?」


ロンズがカットラスを握る。


他の空賊団員も武器を構えた。


ふむ…軽装の防具と軽量の武器か。スピードを重視し船上戦闘に特化しているよう見受けるぜ……あっ!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『悠が戦えば楽に勝ててしまうわ…他のメンバーの鍛錬にならない』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ベアトリクスさんの言葉を思い出す。


……俺は陣形戦術のような魔法の連携が出来ないし他人と戦闘で息を併せる術を知らない。


もちろん動きはそれっぽくカバーできるだろうがそれなら()()()()()()()()()()()()()()()()()


でもベアトリクスさんは俺と違う。


他のメンバーより圧倒的に強くとも指揮し統率することで仲間の力を引き出し鼓舞しているのだ。


…リーダーの資格と能力…他人を必要としない()()に気付いた瞬間だった。


思い返せばずっと一人で戦ってきたが裏を返せば仲間を信用してない証拠だ。()()()()がどうとか考えてた自分が恥ずかしい。



「ぎゃああああああああああっ!!」


「!?」



耳を劈く悲鳴に思考が中断した。


「何を悠長に能書きを宣ってる?」


身震いしそうな冷たい声色だ。


刺々しく身を切り裂く魔圧が場を支配する。


「な、んだっ…ウオェェェッ!?」


ロンズの体を棘茎が突き破り鮮血が滴る。


「悪党に慈悲は要らない」


「…いぎっいぃいぃ!!だ、ずげっ…」


あまりの光景に配下は呆然と立ち尽くし苦しみ喘ぐロンズを眺めていた。


償いの薔薇(エクスピオ・ローズ)


「……」


凄惨な死に様に俺も言葉を失う。


肉を突き破った棘茎が体を覆い、立ったまま絶命している。血を吸った蕾は真っ赤な薔薇に変わった。


一瞬で勝敗は決していたのだ。


「皮肉です」


花を…いや植物を操るスキル?


「悪党の血を吸うと綺麗な薔薇が咲く」


強い。その一言に尽きる。


「…ちょ、ちょっとまってくれ!俺は投降する!」


「こ、降参だ」


「攻撃しねぇでくれよ!」


武器を捨て残された連中は許しを請い始めた。


「メンデン」


「はっ」


「バーモント」


「はっ」


()()を執行しなさい」


「…え、え?俺たちはもう戦う気がぷぎっ」


メンデンは容赦なく剣を振り下ろした。


「やめでぎぃぃ!」


バーモントの槍が無情にも体を貫く。


それは正に蹂躙。物言わぬ肉塊と化すまでメンバーは無抵抗の()()を攻撃し続ける。


俺は傍観し立ち尽くす。


「…『空の塵』…この程度の男が賞金9000万Gなんてビンゴブックの手配基準も生温くなったものね」


こうしてロンズ空賊団は完全に壊滅した。



〜午後17時40分 フライングメアリー号 マスト〜



数時間後、問題なく船は砂漠を横断する。ダッチマン船長とベンノは事態が解決し大喜びだった。


…今後も別案件で護衛を依頼したいと言ってたっけ。


俺はマストに登り夕陽を眺めていた。地平線に沈む太陽は壮大な景観だ。


「……」


…昼間のあの光景が頭から離れない。


隊員も団員もロンズ空賊団を躊躇なく虐殺し死体を船から投げ捨てた。


夜刀神の加護のお陰で取り乱さずに済んでる。


皆を責めるつもりもない。

倫理感や価値感の根底が違うのだから。


…連中は犯罪に走り人々を苦しめた。相応の報いを受けて然るべきだろう。


今まで俺が誰も殺さずに戦えたのは奇跡に近い。


…ヨハネとの決闘も自分が勝利し選択できた。


しかし、この先の戦闘に選択する余地はあるのか?


相手はデッドランクの犯罪者だ。情は皆を危険に晒す羽目になる。


……悩む必要はないよな。


「あっ」


マストが微かに揺れる。


ベアトリクスさんだった。すげぇ跳躍力だぜ。


数分の沈黙が流れる。


「…あれがわたしの正義です」


「!」


「忌むべき暴力を更なる暴力で捻じ伏せ殺人すら厭いません」


俺の心中は言わずとも暴露ていた。


「…時に罪悪感で酷い自己嫌悪に陥りますが」


「え」


これは予想外の答えだ。


てっきり迷いなんてないと思ってた。


「それでも掲げた信念は決して曲げないし後悔もない」


「……」


「自分が望み選んだ道ですもの」


自分が望み選んだ道、か。


…その通りだ。


ふぅ…ちょっと気が楽になったな。


「励ましてくれてありがとう」


「ふふふ」


ベアトリクスさんなりの気遣いが身に染みた。


〜数分後〜


「そーいえばベアトリクスさんの……どうしました?」


「……」


文句を言いたそうな雰囲気を醸し出していた。


「…前々から気になってましたが敬称や敬語はこれを機に止めましょう。他人行儀で不快です」


「ふぇ!?」


藪から棒に何を言い出すんだ?


「改善するまで返事はしません」


「ベアトリクスさん?」


「……」


ガチ無視!?


「…ベアトリクス」


「はい」


嬉々として即座に返事をする。


なんか…デジャヴ?


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