空の旅 ⑥
9月2日 午前11時12分更新
9月3日 午前8時31分更新
〜午前11時 補給地点 ザイガナハル〜
ワガンダ山の麓にあるザイガナハルに到着した。
ザイガナハルは飛行船・飛空挺の修繕や物資の補給を目的に作られた駐留施設らしい。
…パーキングエリアって感覚か?
この山を越えて北に進むといよいよ巡礼都市だ。
フライングメアリー号に食料と水を補充し準備を整えるも再び問題が発生した。
船長がザイガナハル管制塔の管理者に呼び出されたのである。
付き添いに俺とベアトリクスさんが同行した。
〜ザイガナハル 管制塔〜
「ーーーロンズ空賊団だって!?」
ダッチマン船長が机を叩き叫ぶ。
「サフラ砂漠のオアシスを拠点に船を襲ってるわ」
管理者のフェルミが苦々しい顔で喋る。
「今も被害に遭った飛行船を工場で修理中…ノーザングリッドの航空警備船に救難信号は出したけど到着まで早くて一週間はかかるわね」
「…なんっつーこった…」
「パルテノンにはサフラ砂漠を横断しなくちゃいけないでしょ?…親切心で言うけど当面はザイガナハルに滞在しなさい」
頭を抱える船長だった。
「……ロンズ空賊団って?」
「ビンゴブックにも載る『空の塵』の二つ名で有名なロンズ・バーが首領を務める空賊団ですわ」
ベアトリクスさんが俺の質問に答える。
ビンゴブック…ビンゴブック…どれどれ…?
騎士団本部で貰った手配帳のページを捲る。
「9000万Gの賞金首か」
「ええ…ロンズ空賊団がパルテノンへの進路を妨害する理由は察しがつきます」
「もしかして…」
「『黒髭』と結託してる可能性が非常に高いわ」
「……むぅ」
「船長」
「…はい?」
「予定通り進みましょう」
「いやいや!話を聞いてただろう!?悪名高いロンズ空賊団が」
「わたし達の本業をご存知よね?」
「……」
「正義の審判を犯罪者に下します」
確固たる口調でベアトリクスさんは応じる。
「…十三翼が強いのは知ってるけど空の戦闘を見縊ってると死ぬわよ?」
「心配無用」
フェルミの忠告に意を介さない。
「船長はハーピーの巣を駆除した悠の強さをお忘れかしら?」
「…それは」
「ハーピーの巣を駆除って…え、本当なの?」
「う、うむ」
話し合いの結果、料金の上乗せと損害賠償の保証をベアトリクスさんが提示すると船長は折れた。
金の力ってのは偉大だぜ。
〜午前12時 フライングメアリー号 甲板〜
管制塔から戻った船長が全員に顛末を説明する。
「…以上だ」
船員の顔が青褪めテンションが激落ちしてるのが分かる。
「ロンズ空賊団を相手にどーやって…」
「…むざむざ死にたくねぇーよ」
「怯える必要はありません」
ベアトリクスさんの声が響く。
「皆さんは自分達の仕事に集中して下さい」
強く凛々しい態度に圧倒される。
「船長」
「…はい」
「出発の時間です」
こうしてザイガナハルを飛び立った。
〜1時間後 フライングメアリー号〜
ワガンダ山を超えサフラ砂漠へ船は進む。
不毛な砂の大地がずっと続く。
視界を遮る物もなく乾燥した空気が肺を充す。
全メンバーが配置につき迎撃準備を終えていた。
「悠」
「はい?」
「ここはわたしとメンバーに任せて下さい」
「いや手伝いますよ」
「悠が戦えば楽に勝ててしまうわ…他のメンバーの鍛錬にならない」
「え…鍛錬ってこのタイミングで?」
「貴重な空中戦を経験できるチャンスですからね」
実戦が鍛錬…中々のスパルタ振りだ。
念のため心構えはしっかりしておこう。
「危ない時は参戦しますよ」
「ふふ…了解ですわ」
「ぜ、ぜ、前方に…魔導飛行船発見!…あのマークはロンズ空賊団だ!!」
マストの上で望遠鏡を覗き警戒していた船員が叫ぶ。
「船員は船内へ避難!繰り返す船員は全員船内へ避難だ!」
この距離じゃ肉眼だとはっきり見えないな。
ベンノさんの指示に従い、船員達は慌ただしく避難を始める。
「それにしても真正面から襲撃とは呆れるわ……三角魔法陣形用意」
ベアトリクスさんの号令と同時にメンバーが魔法を唱え始めた。
…一体、どんな戦闘が始まるんだ?
〜同時刻 クライスプーキ号〜
砲台を無数に搭載した武装艦は照準をフライングメアリー号に定める。
「ボス…ありゃ普通の輸送艦じゃねぇ」
「……」
「騎士が護衛に乗ってるみたいでさぁ」
双眼鏡を覗いていた手下が呟く。
「関係ねーよ」
ロンズ空賊団を束ねる首領ロンズ・バーが笑う。
「全員ぶっ殺して荷物を強奪し終わりだ」
「…でもよぉ…そろそろノーザングリッドの艦隊が出張ってくっかもしんねぇーっすよ」
「あぁ?」
「間違いなく逃しちまった連中が通報してるでしょ」
「仕方ねーさ」
「……」
「パルテノンへ向かう船を妨害しろって『黒髭』から仕事を請け負ってしな」
「それはそーですが…」
「うだうだ言ってっと先にお前を殺すぞ?」
ロンズの一言に手下は黙った。
「ボス!そろそろ射程距離だ」
他の部下が叫ぶ。
「よし…ぶっ放せ」
ロンズ空賊団の戦闘員が叫び大砲に砲弾を運ぶ。
浮遊石を破損・破壊しないと魔導飛行船は中々墜落しない。大砲で威嚇射撃を行い距離を詰め相手の船に乗り込み殺戮し奪う……単純で原始的な手口だが一般人や航戦になれない戦闘従事者には脅威である。
「…うてぇーー!!」
フライングメアリー号に砲弾が発射された。
どぉん、どぉん…と鈍い爆発音が鳴る。
「!?」
「ボ、ボス…!」
「…んだよありゃあ…?」
フライングメアリー号に直撃する筈の砲弾は風の壁に弾かれ落下し地上で爆発したのだ。
驚くのも無理はない。
そして次の瞬間、炎の竜巻が荒れ狂った。
戦闘員は悲鳴を挙げる間もなくクライスプーキー号が炎上する。




