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空の旅 ⑤

9月1日 午後12時更新

9月2日 午前7時35分更新




〜夜22時21分 フライングメアリー号 航尾〜


ぼんやりと船尾で佇んでいた。


見上げれば燦然と輝く月と星の美しい景色が広がる。


…夜風が少し肌寒いな。


「ここにいたのね」


ベアトリクスさんだ。


「夜空を眺めてました」


「夜空を?」


「柄じゃないけど綺麗だなぁ〜って」


隣に並びベアトリクスさんも一緒に空を見上げる。


「……ってゆーかですね」


「?」


俺はそっと手を伸ばし兜を外す。


「あっ…」


「二人っきりだし兜は必要ないですよ」


他の連中が居る前じゃ仕方ないが窮屈だろうに。


顕になった素顔がみるみる赤くなった。


「…そ、うですね」


「ええ」


風に靡く白金髪と麗しい美貌に見惚れてしまう。


「綺麗な星空です」


「…ベアトリクスさんの方が綺麗ですよ」


「か、揶揄わないで下さい」


言葉と表情とは裏腹に声が弾んでいる気がした。


「本心ですって」


いやマジで!


「……わたしは」


「?」


「他の誰に醜いと罵られようともう一切気になりません」


俺の左手を取り自分の右頰に添えた。


「あなたが綺麗と言ってくれるから」


破壊力抜群の微笑みだ。


魅惑的っつーか…可愛いってゆーか…心がめっちゃ揺さぶられるぜ。


凛として咲く白薔薇の美しさとでも喩えようか?


「えーっと…あはは」


誤魔化すように笑い前を向く。


どうもこーゆー雰囲気は苦手だ…ってうぇぇい!?


「…ベアトリクスさん」


「何ですか?」


彼女が俺の右肩に頭を乗せ寄り添う。


「誰かに見られたら誤解を生みそうな構図じゃないですかね?」


「問題ありません」


俺は問題ありまくりなんですけどぉ!


「…悠は嫌ですか?」


うぐっ…その上目遣いは卑怯だ。


「いやいや!そーゆー意味じゃなくて」


「では大丈夫ね」


む、むぅ…ベアトリクスさんって実は甘えん坊?


普段とのギャップに戸惑うが……きっと働き詰めで疲労が溜まっているのかも知れないな。


大人の男として真摯に受け止めてあげよう。


「あれを見て下さい」


「ん?…おぉー!すっげー!!」


もしや大流星群ってやつか?


幾つも落ちて消えていく流れ星の幻想的な光景に思わず感動する。


「愛する人と過ごす夜……今日は素敵な日です」


「え、どうしました?」


肝心な部分を聞き逃したのでもう一度、問う。


「ふふふ…何でもありませんわ」


「?」


暫く二人っきりの時間を過ごす。


〜30分後〜


「…ん〜!そろそろ遅いし部屋に戻りましょ」


夜景は十二分に堪能したしな。


「…もうそんな時間…残念です」


残念の意味は分からんが適当に頷いておこう。


「そもそも俺も他の男性陣と一緒の大部屋で良かったのに」


「悠は十三翼の第8位なのだから相応の待遇があります」


「…うーん」


兜を被り直しベアトリクスさんは喋る。


「地位には責任が生じ責任には対価が支払われる」


…つまり優遇に見合う結果を残せって意味か。


「上に立つ者の義務ですわ」


「なるほど」


俺に足りないのはそーゆー意識なのかも…?


「気兼ねなく部屋を使って下さい」


「うん…そうします」


「では」


俺も部屋に戻ろう。


こうして一日目の旅が終わった。



〜百合紅の月19日 フライングメアリー号 客室〜



船が軋む音で目が覚めた。


「ふぁ〜〜…ん…」


ベッドから起き上がり背伸びする。


目を擦りつつ壁時計を見る。


「…まだ朝の5時半?」


二度寝は……いいや。顔を洗って歯を磨こう。


〜20分後 フライングメアリー号 甲板〜


甲板では既に船員が忙しそうに働いていた。


「…働き者なんだなぁ」


見張り役のメンバーは少し眠そう。


「クロナガさん」


「おはようございます」


ダッチマン船長と航空士のベンノさんだ。


「昨晩はよく眠れましたかな?」


「お陰様で…船員さんも朝から頑張ってるなって感心してました」


「『未踏空域』へ進路が外れると生死に直結する大問題なので必死ですよ」


「未踏空域って?」


「…クロナガさんは飛行船に乗船したのは初めてと仰ってましたね」


「はい」


ベンノさんは微笑んだ。


「もし興味があるなら私が説明しますが…どうですか?」


「ぜひ!」


飛行船や飛空艇については疑問だらけだったしね。


「ダッチマン船長」


「うむ」


「では操舵室にどうぞ」


甲板の階段を登り移動した。


〜20分後 操舵室〜


「ーーー魔導飛行船と魔導飛空挺の違いは浮遊石の大きさと設備機能にあって…例えばこの船は輸送船なので速度・武装より積荷・乗客の運搬と移送に長けた構造です」


「ふむふむ」


ベンノさんの丁寧な説明のお陰で大体は理解した。


「もし輸送船で未踏空域に侵入すれば命が幾つあっても足りません」


「…未踏空域か」


未踏空域は言うならば空の危険区域だ。


獰猛なモンスターの住処…空賊の根城…予測不可能な自然気象が頻繁に起きる…そんな場所を指す言葉である。


「ミトゥルー連邦は豊富な資源に恵まれてますが国家間の移動・輸送手段が乏しい…この巡礼都市への航路も先人達の涙ぐましい努力で漸く開拓されたルートだ」


「なるほど」


「転移石碑が各所に設置されれば楽なんでしょうがね」


「観光船とかは?」


「無理ですよ!飛行船で観光なんて帝国じゃあるまいし」


ベンノさんは肩をすくめ苦笑いした。


「……」


「悔しいですが帝国の航空技術は五大国家間で随一ですからね」


発展の差が著しいな。


「ありがとう。勉強になりました」


「いえいえ」


余計に浮遊石が欲しくなった。


…あの飛空挺でいつか空を飛んでみたいもんだな。


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