空の旅 ②
8月26日 午前9時更新。
〜午前9時30分 東モルト山脈 上空〜
予定時刻通り出発した。
フライングメアリー号は巡礼都市を目指し飛ぶ。
「絶景だな」
広大な空の景色を眺め呟く。
「…龍峰の皆は元気かな」
修行の日々を思い出し懐かしくなった。
フカナヅチの背にもまた乗ってみたいもんだぜ。
「進路を北西にぃ…横帆を張れぇー!」
「「「あいあいさ〜」」」
号令に応じ船員が綱を引く。
海の男ならぬ空の男か。
「クロナガ様」
「メンデンか」
彼女は冒険者よりも女騎士って言葉がよく似合う。
「空の旅はどうですか?」
「快適だよ……あとクロナガ様は止めてくれ」
「貴方は十三翼の」
「暫定第8位な」
「……」
「呼び捨てで構わない」
「クロナガ……さん」
メンデンは呼び辛そうだが俺は満足!
「そうそう」
「マスターより依頼に参加すると聞いた時は驚きました」
「なんで?」
「…騎士団との共同依頼ですから」
「俺は騎士団が嫌いじゃないし前にも協力してる」
「カナム村の事件は有名なので私も知ってます」
有名なの…?
「鉄騎隊の中にはクロナガさんを嫌う者もいますが私は尊敬してますよ」
純粋な好意を口にされると照れ臭くて仕方ない。
「…あー…そーいえばさっきのあれって激励?」
「あれ?」
「出発前にベアトリクスさんが」
「あぁ…あれは騎士団在籍時から続く号令ですね」
「へぇ」
「任務前にマスターはああやって部隊の士気を高めてくれます」
「ベアトリクスさんらしいな」
「マスターは最高の騎士ですから」
…冒険者じゃなく騎士か。
「それと警護はモンスターの襲撃に備えてか?」
「はい。あとは空賊ですね」
「…空賊?」
「飛行船の積荷を狙い襲う飛空艇乗りの盗賊ですが……ご存知ありませんか?」
「あはは…」
愛想良く笑い誤魔化す。
「まぁ第6位と第8位が乗るこの船を襲えば愚かな輩は一瞬で塵となるでしょうが」
…空には空の危険があるってわけね。
暫く彼女と雑談し時間を潰した。
〜午前10時20分 フライングメアリー号 甲板〜
唐突にラッパ音が船に鳴り響いた。
「…モンスターだぁ!」
「モンスター?」
ラッパを片手に操舵室から飛び出した船員が叫ぶ。
「…迎撃用意よ!」
メンデンの命令に従い騎士団員と鉄騎隊の隊員が武器を構えた。
「400m前方に飛竜発見…繰り返す…飛竜発見!」
どんな飛竜かな?
「あ、ありゃグラン・ヒューリィーだ…」
「この航路は生息地じゃないのに…くそっ!」
雲を突き抜け竜は飛行船に接近してきた。
ーー…グルルルル…!
青い翼を翻し行手を阻む。牙を鳴らし火花が散った。
強そうな飛竜だな。
逞しい体躯から放たれる魔圧は鋭い。
ーー空ヲ穢ス蠅メ…俺ノ雷デ焼キ尽クシテヤル!
「!」
こいつ喋れるのか?
…無駄な戦闘は避けたいし対話してみよう。
「待て」
「ク、クロナガさん!?」
船首に向かって歩く。
「あいつは俺に任せて下がってろ」
「…丸腰でですか?冗談ですよね?グラン・ヒューリィーは獰猛で危険なモンスターですよ…」
「いいからいいから」
メンデンを嗜める。
グラン・ヒューリィーと対峙した。
「はじめまして!俺の名前は黒永悠だ」
ーーナンダ?人間ガ竜語ダト?シカモ慣レ慣レシ……ム!?
「どうした?」
ーー…コレハ飛龍ノ魔力?
「ああ…飛龍には何人か友達がいてな」
嵐飛龍の風玉を見せた。
ーーフ、フ、フカナヅチ様ノ風玉!?
これは驚いたぜ。
「フカナヅチを知ってるのか?」
ーード、ドーユーコトダ…?
グラン・ヒューリィーは狼狽し困惑している。
俺は簡単に経緯を説明した。
〜5分後〜
「理解してくれたか?」
ーー貴様ハ契約者デフカナヅチ様ノ友…ムグググ…!
顔を顰め唸るも敵意は消えたのが分かる。
「俺達は目的地に向かって飛んでるだけなんだ」
ーー………。
「このまま行かせてくれないか?」
ーー!
俺は手を伸ばし鼻先を優しく撫でる。
「頼むよ」
ーー……冷静ニナッテ分カッタガ俺ノ想像モ及バヌホド貴様ハ強イナ。
「照れるなぁ」
ーー…アノ女モダ。
グラン・ヒューリィーの視線の先にはベアトリクスさんがいた。
ーー……ヤレヤレ…フカナヅチ様ノ友ヲ襲ウ訳ニハイカン。
やふーい!和解成功ってね。
「ここから龍峰って近いのか?」
ーー北東ニ飛ベバ直グダ。
「へぇ…フカナヅチにも宜しく伝えといてくれ」
ーー分カッタ。
「それと」
ーー?
アイテムパックから干し肉の塊を取り出す。
モーモーと呼ばれる動物の肉を乾燥させた保存食で特製のスパイスを練り込みウォーターツリーの枝木で薫製してあるので美味しい。
「プレゼントだ」
ーー肉?クンクン…クンクン…。
「毒なんて入ってないぞ」
ーー……好意ノ証トシテ受ケ取ロウ。
前脚で器用に干し肉を掴む。
「じゃあな」
ーー…コノ先ニアルハーピーノ巣ニ気ヲ付ケロ。
「ハーピー?」
ーー五月蝿イ鳴キ声ハカナリ厄介ダカラナ。
「…ふむ」
ーー今ノハ肉ノ礼…コレデ貸シ借リナシダ。
義理堅い奴。
「よしよし!グラン・ヒューリィーはいい子だな」
ーーグルルゥ……ハッ!?ナ、撫デルナ!
「えー」
ーー全ク……フフフ!竜語ヲ話ス人間ニハ初メテ出会ッタゾ。
そう言い残しグラン・ヒューリィは飛び去った。
「…不思議な縁ってのもあるもんだ」
振り返ると皆が硬直し固まっている。
「呆けてどうした?」
「いや……あの…竜語を話せるのですか?」
「…流暢に話してたよな」
「モンスターと会話する人は初めて見た…」
「…凶暴なグラン・ヒューリィを撫でてたぞ」
「しかも餌付けまで…怖くないんですかい?」
船員の質問に明るく答える。
「怖くないさ。グラン・ヒューリィーは愛想が良くて可愛い奴だったよ」
全員が言葉を失い、悠々と甲板を歩く俺を見ていた。




