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空の旅 ①

8月25日 午前9時55分更新





〜百合紅の月18日 第41区画 転移石碑広場〜


清々しい朝の空気が肌に染みるぜ…約束の時間より少し早く到着したな。


無数の転移石碑が並ぶ広場は行商人と旅人で溢れ活気に充ちている。


この区画は狭く転移石碑と道具店しかないようだ。


両隣の門は第40区画と第42区画へ繋がっている。



〜数分後〜



「悠」


周囲を観察しているとベアトリクスさんが現れた。


「おはよ…ってラウラとエリザベート?」


背後には二人も立っている。


「僕達は見送りだよ」


「うむ」


わざわざ気を遣ってくれたみたいだ。


「準備は万全ですか?」


「もちろん!他の皆は?」


「既に鉄騎隊と騎士団の部隊は飛行場で私達を待ってますわ」


「おー」


「留守の間は僕が責任を持って家を守るからね」


「くっくっく…右に同じく」


…家を守る?


「どゆこと?」


「悠は気にせず依頼を頑張ってきて」


「憂いは必要ないぞ」


ラウラとエリザベートは満足気に頷いた。


…質問の答えになってないよね?


「では出発しましょう」


ベアトリクスさんが転移石碑に歩み出す。


「あ、はい…」


「気を付けてね」


「貴公達ならば魔窟も賞金首も問題なかろう」


見送る二人に手を挙げ応えボーガン町へ転移した。



〜午前8時10分 ボーガン町 転移石碑前〜



「おぉ…」


上空に浮かぶ気球と飛空艇を見て声が漏れた。


道路は荷馬車が行き交い、積荷を輸送している。


「ボーガン町は首都より北西に離れた町でミトゥルー連邦諸外国や他都市の物流を繋ぐ中継地点です」


「中継地点か」


「ええ…あれは悠が所属する『オーランド総合商社』の荷馬車よ」


「本当だ」


でっかい積荷だなぁ。


「法律に違反する品の輸送を取り締まる目的で飛行場には騎士団の駐屯所があり輸送・輸出には一級鑑定士の検閲をパスしなければいけません」


「なるほど」


「…ふふふ」


「ん?」


ベアトリクスさんは愉快そうに笑う。


「新鮮な反応だから喋ってて楽しいわ」


「丁寧に説明してくれるから」


「嬉しいわ…悠が傍にいると心が弾みますね」


「俺もベアトリクスさんといると安心しますよ」


「ふふふ…わたしと悠は()()()()です」


今回はソロじゃなく共闘がメインだ。


…他の皆を見縊る訳じゃないが戦闘力で俺と釣り合いが取れるのはベアトリクスさんしかいない。


()()()()()と困っちゃうぜ。


「寄り添う上で相性が悪くてはいけません」


「うんうん」


「時には叱咤し共に涙し喜びを分かち合う」


「素晴らしい関係だ」


「…そうやって強い絆が育まれ()()()()を宿す」


あれ…蕾を宿すのか?


「偉大なる()()()()()()の根本には美しい()()が咲くでしょう」


詩的表現でうっとりと語るベアトリクスさんだった。



〜午前8時30分 ボーガン町 飛行場〜



駐屯所で必要な書類に名前を書き中に入る。


「……」


施設と倉庫…バルーン船の飛行船…あるのはそれだけだ。航空施設を名乗るには寂しく観光客も誰一人いない。


「ここが飛行場ですわ」


…しかし、だ。


「すげぇ〜!」


ゲームや映画でしか見ない飛行船を目の当たりにして感動していた。


やっぱ浮遊石が原動力なのかな?


「あの船が私達が乗るフライングメアリー号よ」


ベアトリクスさんが船首に翼の生えた女性像を象った大きな帆船を指差す。


「か、かっこいい!」


男心が擽られるデザインだ。


「ふふふ」


はしゃぐ俺を見て微笑む。


「喜んでますね」


「これは感動しますよ」


「チキュウに飛行船はなかったのですか?」


地球の発音がちょっと変だった。


「飛行船ってよりジェット機かなぁ…酸素と燃料を推進力にして空を飛ぶエンジンを積んだ飛行機」


「……」


「それで世界中を飛び回るんです」


「…わたしには想像できない世界ですわ」


異世界と地球の相違点は数多くあるもんな。


そう思うのは当然だろう。



〜午前8時50分 フライングメアリー号 甲板〜



積荷を搭載し巡礼都市へ向かうメンバー達も次々と搭乗する。


…ふむ…鉄騎隊6名に第二騎士団の部隊員が12名…俺とベアトリクスさんを合わせて計20名のPTか。


「ーーいよいよ出発です」


ベアトリクスさんが集まった全員に向け喋る。


「…わたし達は巡礼都市の都民・騎士団員・冒険者を殺害し暴虐の限りを尽くす犯罪者とその一味を淘汰するべく派遣されます」


凛とした声が甲板に響き渡った。


「危険なダンジョンを探索しつつ禁術を操る億超えの賞金首を相手しなくてはいけません」


直立不動の姿勢を崩さず傾聴する姿は立派だ。


「…冒険者ギルドも騎士団も組織は違えど胸に秘めし志は一緒…」


一瞬の間を置き彼女は高らかに宣言する。


「我々は正義を貫き悪を滅する剣なり」


『剣なり!』


全員が声を揃え返答した。


…え!?打ち合わせしてたってくらい息ぴったり?


俺だけ言わないのは拙いよな…。


「一点の曇りなく断罪に処せ」


『処せ!!』


「しょ、処せ」


や、やばい…ワンテンポ遅れた。


「正義の執行者は誰か?」


『我等なり!!』


「わ、我等なり!」


「命を賭し全身全霊を尽くせ」


『はっ!!』


…これは士気を鼓舞する円陣?


俺以外のメンバーはテンションが爆上がりだ。


「そして共同依頼に同行する心強い協力者を紹介します」


む…?


「…悠が成し遂げた数々の偉業と築いた地位は今更説明する必要もないでしょう」


全員の視線を一身に浴びる。


「どうも」


ぺこり、と頭を下げ一礼する。


「彼はヒャタルシュメクを攻略した前代未聞の冒険者です」


「……」


「凡ゆる面で他の冒険者を凌駕しています」


そんな褒めないで!緊張するからぁ!!


「総指揮はわたしが執りますが無数の罠が設置されたガルカタ大聖堂の探索では全員が悠の指示に従い行動します……異論は認めません」


こりゃ責任重大だな…。


「悠からも一言お願いします」


「え」


「お願いします」


有無を言わさぬ圧力が半端ない。


「あー…そうだな」


何を言えばいいやら。


「何かあれば遠慮せず頼ってくれ…以上だ」


無難な言葉を選ぶ。


「分かりましたか?」


『はっ!』


「パルテノンまで順調に飛べば約三日間の旅になります。その間、()()()()をしっかり務めるように」


『はっ!』


…警護?


「メンデンとバーモント」


「「はっ」」


「警護班の編成が決まり次第、わたしに報告を」


「了解です」


「分かりました」


メンデンは鉄騎隊のNo.3でバーモントは第弍重騎士部隊の隊長だ。


「他は出発まで各自待機…以上です」


其々が指示に従い動き始める。


「えっと…俺はどうすべきかな?」


「自由に動いてくれて構いません。私は船長に空路を確認してきます」


…自由って一番困るやつやーん!


「後程、泊まる部屋を案内しますね」


操舵室に行ってしまう。


「………」


船員が忙しそうに飛行準備を始める。邪魔になると悪いので隅っこに移動した。


…あれ…ベアトリクスさんが居ないと俺ってぼっち?


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