武器市場!〜イベントは楽しく賑やかに〜 ③
8月6日 午後13時40分更新
8月7日 午前9時更新
〜午後12時 中央広場〜
鐘の音が鳴り正午を告げる。
「ふぃ〜」
タイミング良く最後の客を捌き切ったな。
「ったく…予想以上に客が来てビビったわ」
バンダナを外しモミジが汗を拭う。
…濡れた髪が頰に張り付き黒の下着が服の上から透けて見えた。いつものオーバーオールと違って…うーむ…健康的にエロい!
「手伝ってくれて助かったよ」
「オレとユウの仲だろ?気にすんな」
「飲み物を買ってくるから待っててくれ」
「悪ぃな」
売店に行こうとするとブースの前にグスタフさんが来た。
「どーしたよグス爺」
「………」
眉間に皺を寄せたまま俺を見上げる。
「…おい」
「?」
「冒険者なんざぁ辞めて職人一本に絞れや」
「…はい?」
「勿体ねぇからよう」
ぶっきら棒にそれだけ言うと踵を返してしまう。
「…よぉ!腰は抜けてねーか?大丈夫?」
揶揄うような口調でモミジが座ったまま問う。
「へっ…うるさいわい」
尻尾を左右に揺らし去っていた。
「なんだったんだあれ…」
「ん〜…ま、認められたっつーこったな」
「認められた?」
「噂に半信半疑だったけど技術を目の当たりにして認識が変わったんだろ」
「…ふーん」
「よーするに…へへっ…ユウは大した野朗だってこったよ!」
「い、痛っ!?」
ご機嫌に俺の背中を叩き感情を表現する。
…まぁ嫌われるより好かれた方が嬉しいよね。
〜30分後〜
のんびりと二人で休憩中だ。
「…冷えたエールが飲みたくなるわ」
ジュースを片手に彼女は呟く。
「今日は一段と天気も良いしな」
気温…客の熱気…スマート・スミスの炉熱…三つ合わさって余計に暑く感じる。
このまま終わればイベントは大成功だろう。
「そろそろ昼飯を食いにいこうぜ」
「あー」
「どーしたん?」
「実はオルティナが弁当を作ってくれててな」
「……へー」
一人で食べるにはボリューミーな量だ。
「モミジも一緒に食べないか?美味しいぞ」
「…そーだな…ライバルの料理の腕前は知っとくべきだしよぉ」
「ライバル?」
「ユウは気にすんな」
気になるが藪を棒で突っつく真似はやめとこう。
また鈍感とか無自覚とか非難を受けるって俺の第六感が囁いているからな。
〜10分後〜
「…美味いな」
弁当のおかずを咀嚼しモミジは呟いた。
「だろ?オルティナは料理が得意なんだ」
「チッ…マジで油断なんねーわ」
何やら対抗心を燃やしてるみたい?
「今度さ…オレも弁当作ってくっから食えよ」
「俺にか?」
「…このタイミングでユウ以外に相手はいねーだろ」
頰を膨らまし彼女は答えた。
〜20分後〜
昼休憩を終えモミジは運営業務に戻る。
テントで準備を始めてると突如、広場が慌ただしくなってきた。
「?」
少し離れた露天販売の場所で人が密集し騒がしい。
…ちょっと様子を見に行くか。
〜第3区画 武具販売店〜
武器・防具・装飾品を売る店のテントが並ぶ。
通路の中央で男女が相対していた。
「あたいが先だっちゅーの!」
軽装の服で活発そうな女の子が叫ぶ。
「…私の方が早かった」
重厚な鎧を装着した男が答えた。
恐らく女の方は冒険者で男は騎士団員だろう。
「はぁ〜?鈍っちい鎧野朗にあたいがスピードで負けるわけないし」
「貧弱で武器も振れそうにない貴様にこのグレートアックスが必要か?」
「あ、あの〜…店前で口論は控えて欲しいのですが…」
イベントスタッフが注意するも二人の勢いと迫力に声量が負け届いていない。
「…ヘボ雑魚騎士団員のくせに態度がデカくない?」
「私が雑魚だと?冒険者ギルドの雌豚め…」
ゆらり、と互いに武器を抜き構え殺気が衝突する。
「いいぞー!やれーー!!」
「…おれぁ冒険者の女に1万G賭けるぜ!」
「騎士団の男に1万5000Gだ」
無節操に囃してる野次馬のお陰でヒートアップしていく。
「ちょっ…やめて下さい!?」
間に挟まれたスタッフが可哀想だな…やれやれ!見て見ぬ振りはできないぜ。
「退いてくれ」
「あぁ?見物の邪魔すんじゃ…ねー……」
俺の顔を見て男が後ずさる。
「おい…あれ…」
「……あ、あぁ」
周囲が静まり返った。皆が一挙一動を見守る中、渦中に飛び込む。
「!」
「…『辺境の英雄』」
突然の乱入者に驚き殺気が引いていく。
「とりあえず武器を納めてくれないか?」
穏やかな口調で呼び掛ける。
「コイツが謝るなら納めてもいいけど?」
「貴様が謝れ」
……どっちも頑なに譲らない。
「先ず謝る謝らないは抜きにして冷静に…おい!」
仲裁を無視し低い姿勢から女が短剣の一撃を繰り出し男は両手持ちのアックスで防御する。
「…捕まえて牢屋にぶち込んでやる」
「へっ…やってみれば?」
「あわ、わわわわわ…」
スタッフの子が慌てて飛び退く。
あーもー…ったく…!
「なっ!?」
「…う、動かん」
武器が交差する寸前を狙い素手で止めた。
「二度も言わせないでくれ」
少し感情を込め魔力を滾らせて魔圧を放つ。
「武器を納めろ」
気圧された二人は頷き答えた。
「う、あ…?…わ…分かったって」
「………う、うむ」
よーやく落ち着いて話が出来そうだぜ。
〜数分後〜
聞くに耐えない口論に俺は頭が痛くなった。
「腕を組んで突っ立ってただけでしょ!?」
「…いざ購入しようとした矢先、手を伸ばし横入りしたのは貴様だろう」
「残念でしたぁ〜早い者勝ちですぅ〜」
「き、貴様ぁ…!」
…どちらがグレートアックスを購入するか…そんな些細な発端が喧嘩の原因だが冒険者と騎士団の仲の悪さが拍車をかけてるのも否めない。
「クロナガさんもそー思うよね?ね?」
「ヨドンとケーシィ…両方の言い分は分かった」
一呼吸置いて答える。
「喧嘩両成敗だな」
「十三翼なのに騎士団の肩を持つの!?」
「納得いかん!」
「相手を侮辱したのはお互い様だろう」
厳しい口調で諫める。
「大体、喧嘩に巻き込まれた彼が一番の被害者だぞ」
俺はスタッフを指差す。
「それは…」
「二人とも謝れ」
「「……」」
「謝るんだ」
「…ごめんなさい」
「済まなかった…」
促され渋々だがスタッフに頭を下げる。
「い、いえいえ」
引きつった笑顔だった。
「ヨドンはまだ不満はあるか?」
「それは」
「ないよな?」
「正直に言うと不」
「……」
「……満はない」
「ケーシィは?」
「……ないでーす」
頰をリスみたく膨らまし納得してないって顔だ。
ま、そうだろうな…強引に納得させた訳だし…うーん……フォローしとこっか?
「俺について来てくれ」
「え…」
「む?」
困惑する二人を引き連れ自分のブースに戻る。




