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自分の常識は他人の非常識! ①

7月18日 午前11時54分更新

7月20日 午前9時7分更新





〜午前11時40分 金翼の若獅子 一階〜


昼前、金翼の若獅子に到着した。


「あっ!」


「…第8位『辺境の英雄』じゃん」


「ど、どーする?ユー様って呼んだ方がいいの?」


「貫禄がやべぇよ…」


「……一層、凄味が増したわ」


周囲の冒険者達の声が嫌でも耳に聴こえ視線を一身に浴びる。


凄味なんて増してないし貫禄もないっちゅーに!


「あ、あの〜…」


新人の若い冒険者の男の子だ。


「サインください!」


「…ふぇ?」


角一番に色紙とペンを差し出した彼に思わず素っ頓狂な声が口から洩れた。


「レ、レックス君へ…って直筆して貰えると嬉しいです…」


緊張しているのか手が震えていた。


「…すまないが急に頼まれても…なぁ?」


忙しなく帽子の鍔を指で弄りやんわり断る。


「ダメですか…?」


うぐっ…そーゆー顔は卑怯だぞ…。


「俺のサインなんて貰っても仕方ないだろ?」


「額縁に飾って宝物にします!」


え、えぇ!?


「どうかお願いします…サインを…」


気付けば成り行きを見守る連中に囲まれていた。


断ったらこの子が恥をかく羽目になっちまうか…。


「……はい」


色紙にペンを走らせ注文通りレックス君へ…と記載した。


「あ、ありがとうございます!やったーー!!」


大喜びのレックスを尻目に俺は溜め息を吐く。


エンジみたいに無邪気で純粋な笑顔だ。


「…お、おう」


さっさっと受付に行こう。これ以上、この場に留まったら更に面倒な事になりそうだ……って俺の中のゴーストが囁いてるし。



〜 金翼の若獅子 一階受付カウンター 〜



「お疲れ様」


フィオーネに片手を上げ挨拶する。


()()


「!?」


「お疲れ様で御座います。本日はどのような御用件でしょうか?」


めっちゃ他人行儀な物言いで頭を下げる姿に言葉を失った。


「ちょ、フィオーネ?」


「…何か至らぬ点が御座いましたでしょうか?私の精進不足ゆえ御容赦下さい」


ショック過ぎて年甲斐もなく狼狽えてしまう。


「…ふ、ふふ…」


「え」


顔を背けフィオーネは堪え切れず吹き出した。


「あははは!冗談ですよ悠さん…吃驚しました?」


いつもの笑顔と親しい態度に心底、安堵する。


……もぉーーーーーー!!


「ちょっと意地悪じゃないか」


「私だって偶には意地悪もしちゃいますよ?」


可愛く笑っちゃってからに……許す!


「…でも、冗談抜きで悠さんが第8位に任命されたと連絡があった時はキャロルと驚きました」


「あー」


フィオーネの笑顔の圧が強まった気がする。


「それと…ヨハネ様の個人指定依頼は受注拒否扱いとラウラ様に言われたので悠さんにも来た際にお伝えしようと待ってましたが…?」


冷や汗が頰を伝う。


「……」


「まさか窓口に来ないで黙ったまま決闘するなんて思ってませんでしたよ?」


あ、あうあうあう!


「…何度も口煩いでしょうが悠さんを心配する私や皆の気持ちも汲んで下さいね」


怒られると思ったが違う。


お母さんが子供を諭すみたいな口調て窘める。


「了解だ」


…いい大人にちょっと過保護な気がしないでもないが素直に返答する。


身を案ずる人がいるってのは贅沢な話だもんな。


「それで今日は個人指定依頼の受注ですか?」


「ああ。頼まれてるモンスターハウスの依頼だ」


「…マリーさんの個人指定依頼ですね」


フィオーネは手際良く受注手続きを済ませる。


「指定危殆種を単独討伐した悠さんの実力なら大丈夫だと思いますが……モンスターハウスの依頼は難易度が高いので注意して下さい」


「倒す必要がないのに?」


「ええ…例えばですが自分の髪を説明もなく赤の他人に毟られたら悠さんだって怒りますよね?」


「うん」


…最近、抜け毛がないか風呂場でこっそりチェックをしてるのは内緒だ。


「モンスターも()()()()だと思いませんか?」


「!…なるほど」


的を得た答えだった。


「怒ったモンスターの猛攻を回避しつつ素材の確保・捕獲を成し遂げるのは相当な技術と勇気が必要だと思います」


「ふむふむ」


…知性があればアザーの加護(対話)で穏便に済ませられるかも。


「マリーさん曰く死んだ状態で入手する素材と生きた状態で入手するモンスターの素材とでは()()()()があるそうですよ」


「へぇ…」


「詳しい捕獲手段はモンスターハウスの職員に訊ねてみると良いかも」


「わかった」


早速、行ってみよ……ん?


遠巻きに興味津々で一挙一動を見守る冒険者達の視線……気にならない訳がなかった。


「…困った顔をしてますね?」


「注目されてやり辛い」


正直な気持ちを吐露する。


俺は見せ物じゃねーぞ!…と叫びたいね。


「仕方ありませんよ」


苦笑しフィオーネは答える。


「十三翼に抜擢された冒険者ですから」


フィオーネは一呼吸置き語り掛ける。


「…この先、悠さんはもっと有名になるでしょう」


「へ?」


「そうして貴方に憧れる冒険者は増えていきます」


「……」


「決して面倒だと思わないであげて下さい」


…現在進行刑で面倒だと思ってる。


「済し崩しでも…望まずとも…最終的には自分が選んだ道ですよね?」


「まぁ…うん…」


「ふふふ」


フィオーネの言う通り選択を積み重ねた結果で今に至る。


…冒険者は若い10代〜20代の世代の連中が多く年齢だけ見れば俺は比較的に高い方である。


何を次代へ伝えるか?…第8位の地位を利用し出来る事があるかも知れないな。


「…あ、それとGランクの依頼ですがここ数日で積極的に受注されてる方がいまして」


「おぉ」


「誰だと思いますか?」


「…うーん…暇潰しでルウラとか?」


「違いますよ」


全く心当たりはないが嬉しい。


「…実はヨ」


「ーーフィオーネ先輩!発注依頼書の整理と報告が完了しました」


受付嬢補佐のリーンだ。


「お疲れ様です」


「次は受付業務でしたよね?」


「ええ」


「……あっ…第8位のク、クロナガ様?…お、お疲れ様で御座いますです!」


慌ててるのか敬語がおかしい。


「…黒永様はやめてくれるか?」


「でも…?」


「悠さんは大丈夫ですよ」


フィオーネに促され頷いた。


「君も仕事を頑張ってるみたいだな」


「はい!実は先週からフィオーネ先輩が付きっきりで指導してくれて…えへへ」


「…リーンちゃんは真面目で優秀な娘だから私が居なくなっても大丈夫ね」


「先輩が居なくなる?…いやいや無理ですよ」


……引き継ぎの準備、か。


「何かあれば俺に相談してくれ」


「へ?」


「力になるよ」


こんな事くらいしか言えないがせめて…な?


「は、はい」


意味が分からずリーンは首を傾げるだった。


カウンターを離れ広場に出る。


助言に従いモンスターハウスに行くとしよう。



〜午前12時10分 金翼の若獅子 広場〜



広場を歩いていると集団と鉢合わせた。


お揃いの服を着た双子の女の子が黙ったまま俺を凝視する。年齢はアイヴィーよりもちょっと上か?…可愛いがちょっと癖が強そうな感じだ。


「…ふーーーん…」


「想像してたよりおじさんかも」


お、おじさん!?


「俺はまだ30歳だぞ」


「「きゃはははは」」


…背後にいる連中は緊張した表情を浮かべていた。


「…君たちは誰かな?」


「あたしはフーゴ・イアだよ」


「妹のトリッシュ・イア〜」


聞き覚えがある名前……あ!ネイサンが言ってた資格到達者の二人じゃないか?


「おじさんはクロナガユーでしょ?」


「噂の契約者…第8位…ひひ」


どうやら向こうも俺を知ってるみたいだ。


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