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巌窟の炉人 ②

7月6日 午後16時40分更新

7月7日 午後21時35分更新



「…ケーロンさんと知り合いですか?」


「あいつとは腐れ縁じゃからのう…一緒に鎬を削り同じ釜の飯を食った仲じゃ」


ま、マジかぁ!


「…不器用で頑固で…儂以上に鍛治に魂を売った男はケーロンだけじゃった」


「えっとですね」


詳細を省きケーロンさんとの邂逅と経緯を説明した。


〜数分後〜


「がははははははは!」


話を聴き顎髭を撫でつつ豪快に笑う。


「…あのバカはまだ生きとるか…そうか」


ファーマンさんは嬉しそうに呟く。


「ええ」


「…ユウに基本を教えた師匠が『獄門蹈鞴』だったっつーわけか」


「まあな」


「ったく…内緒にしてんじゃねーよ」


モミジが背中を叩く。


「痛ぇ!」


…こうしてみると俺は沢山の師匠に師事している…感謝しなきゃな。


「武器を仕舞っていいぞい」


「あ、はい」


「…モミジが言ってた通りの男じゃ」


「?」


「武器は心を写す鏡…一流の鍛治職人の目は誤魔化せねぇ……並の職人には仕掛け武器の改造なんざ出来ねぇし大事に使い込まれとるのが分かる」


「へっ!だから言っただろーが」


モミジが胸を張り頷く。


「うむ…『巌窟亭』の将来は安泰じゃのう…がははは!」


将来?安泰?


…話が今一、分からないが俺も笑っとこう。


「は、ははは」


「ケッ……ジジイが『巌窟亭』のGMの座をナターシャさんに譲渡しなきゃ安泰だったろうよ」


「あっ」


「…うぐぅ」


さっき迄の威厳が綺麗に消え縮こまり唸る。


そ、そうだ!大問題がまだ残ってるじゃないか。


「…今後はどうなるんだ?他の職人は知ってるのか?」


「皆、まだ知らねぇ……っつーか言えねぇよ」


「ふーむ」


「ナターシャさんも今回はマジでキレってっし…あぁもう…予定が狂っちまったぜ!」


悔しそうに作業台を叩く。


「今回は…って常習犯なのか?」


ファーマンさんは男らしく断言する。


「…ふっ…男っつーのは幾つ歳を重ねようが女の尻ぃ追っかける夢追い人じゃからな」


モミジが顔を痙攣らせ頭を鷲掴む。


「いっ、いただだだだだだだだだだだだぁ!」


「……歳を考えろやスケベジジイ!?」


「うわぁ」


自業自得だけど容赦がない。


…ナターシャさんからGMの権利をファーマンさんに返して貰う解決案はないだろうか?


「たぶん誠心誠意の謝罪が一番だよな」


ぼそっと呟く。


「オレもそー思う」


「痛ててて…」


「きっちり土下座してもらうっきゃねーな」


「…土下座じゃと?儂にも男のプライドが」


「熱した鉄板の上で詫びればナターシャさんも納得すんだろ」


「「!?」」


ざわ…ざわ…ざわ…ざわっ…焼き土下座…ざわ!


発想が狂気的で笑えない。


「よ、喜んで地面に額を擦りつけて謝るわい」


「遠慮すんなジジイ」


モミジが冷笑を浮かべる。


「さーて鉄板の準備でもしてくっか」


「モミジィ〜〜!ちゃ、ちゃんと謝るから勘弁しとくれぇ…この通りじゃあぁ〜」


み、見事な土下座だ…すっげぇやり慣れてる感も半端ない。凄腕鍛治師からの落差が激しすぎるぞ。


「…明日ぁ絶対に謝って貰うかんな?」


「う、うむ」


「逃げたらマジで焼き土下座だ」


「…ナターシャに似て年々、気が強うなるわい…どこで教育を間違えたかのぅ」


「あァン?」


「ご、ごほっごほっ!持病の癪が」


わざとらしく咳払いするファーマンさん。


「…ユウ」


「ん?」


「急で悪ぃけど明日、付き添ってくんねーか?」


「…俺も?」


「ちゃんと自己紹介もしてーし…頼むよ」


「わかった」


有名な錬金術師のナターシャさんに興味が湧いたし二つ返事で了承する。


「よしっ!…ふふ、サンキューな」


俺の左手を両手で握り締め破顔する。


…こんな素敵な笑顔が見れるなら断れないよな。


「ほほーう」


俺達を見てにやにや笑う。


「…冒険者嫌いのお前さんがユウに()()()()()()がよぉ〜〜く分かったわい」


「!」


俺にこだわる?


「モミジも女の子だったんじゃのぅ」


そりゃ女の子だろうよ…って頰が赤い?


「……ぅっせぇ」


「どうかしたのか?」


「な、なんでもねぇーよ」


「だって顔が赤いぞ」


「……ユウのばか」


「えぇ」


口を尖らせモミジは睨む。

ファーマンさんは愉快そうに眺めていた。



〜午後17時40分 巌窟亭 受付カウンター付近〜



話が盛り上がり長居してしまったぜ。


…ちょっと…いや、かなりスケベだけどモミジの師匠だけあってファーマンさんの技術論は非常に勉強になった。


「明日の午前9時ここに集合だな?」


「おー」


「儂ぁ家で待っとるぞ」


「ジジイの家は微妙に分かり辛ぇからよ」


何か手土産を持参しよっか…お菓子とか?


「親方ぁ!飲みに行かねーか?」


歓楽街ヘヴンズセブンでパーッと盛り上がろうや」


「土産話も聞きたいのぉ〜」


仕事上がりのドワーフ達が集まる。


「おうおう!綺麗な姉ちゃんがいる店なら儂ぁ地獄の底でも行」


「……そーか…地獄の底に行きてぇんだな?」


「い、行かんぞぃ!」


拳を鳴らし地獄の鬼みたいな形相のモミジを打見して慌てて言い繕う。


「またナターシャさんを怒らせたんか?」


「美人の奥さんがいるのに浮気ばっかするからじゃろ〜〜」


「わはははは!違いねぇわい」


…ピンポイントで急所を突いてくる。事情を知る俺の方が聴いてて辛い。


「…ところでユーはどうじゃった?」


「『巌窟の炉人』のお眼鏡に叶う逸材じゃろ?」


興味深々でファーマンさんに問う。


「ふっふっふ…儂にはまだ及ばんが将来はミトゥルー連邦に名を轟かす鍛治職人になるぞぃ」


て、照れるぜ!


「契約者じゃって聞いた時は驚いたけどな」


「…モミジ嬢も最初は揉めたもんのぅ?」


「あの腕相撲かぁ」


「オレぁヒュームがオーガに勝つなんざぁ思わなかったぜ」


……懐かしい。今となっちゃ良い思い出だ。


「…うっせーな」


「ふふふ」


にこやかに皆と別れ家に帰った。


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