エンジの選択 ②
〜30分後〜
「…父さんに話があるんだ」
箸を置き真剣な表情でガンジさんを見詰める。
俺は黄金魚とムムール貝の旨味がたっぷり詰まったスープの味を堪能しつつ耳を傾けた。
「僕は悠さんのギルドに所属する」
「……」
「お嬢…」
「ぶふぉ!?」
吃驚してスープを吹き出しちまった。
「だ、大丈夫でありんすか?」
ガラシャさんが背中を摩る。
「あ、ありがとう…」
寝耳に水なんだけどぉ!?
「『勇猛会』が嫌か?」
ガンジさんが優しく問うと小さく首を横に振った。
「ううん…父さんもガラシャも皆も大好きだ…『勇猛会』は最高の冒険者ギルドだって思うよ」
「…そのギルドを選ばねぇ理由は?」
「自分の目で世界を知り強くなりたい…父さんの跡目を継ぐには雛鳥のままじゃ継げないから」
強い意志と決断を感じた。
「…子供ってのは本当に成長が早ぇな」
しみじみとガンジさんは呟く。
「檻を壊して巣立つ、か…ユウ」
「……」
「エンジを頼めるか?」
俺は目を綴じ考えた。
大事な子供を預けるに足ると信頼してくれた父親の問い……その期待に応えれるだろうか?
…いや、違うな。
命を救ったあの日、俺は傍観者じゃなくなった。
最後まで面倒を見る義務と責任があるだろう。
期待に応えなくてはいけないのだ。
「…分かりました」
「!」
エンジの顔が輝く。
「まだまだ精進中の身ですが謹んで引き受けます」
「悠さん…僕、頑張ります!」
「一緒に頑張ろうな」
これでギルドメンバーが四人になった。
「ユーならわっちも安心してお嬢を任せれやす」
「おう…『勇猛会』ともより深ぇ関係になるし若衆も大喜びに違いねぇ」
さて残る個人指定依頼は三つ…さっさっと片付けて本格的に設立に向けて動くとしよ……あ、そうだ!
「エンジ」
「はい!」
「今度、一緒に冒険に行くか?」
「え…ほ、本当ですか?」
「うん」
「行きます行きます行きます行きます!!」
お、おぉ…めっちゃ食い気味だ。
「いつですか!?場所は!?どこに!?」
「落ち着けって。また連絡するから」
「す、すみません」
「ヒャタルシュメクを攻略した冒険者に同行たぁ嬉しいに決まってるだろうよ」
「わっちも一緒に行きたいぐらいでやし」
…散策して依頼内容をこなすだけなのに?
〜10分後〜
俺はネフ・カンパニーの一件を思い出し事情を説明して孤児院の護衛を勇猛会に依頼した。
「ベルカ孤児院の護衛でやすか」
「ええ」
「…最近、幅を利かせてる金貸しの噂はわっちも知ってやす」
厳しい表情でガラシャさんが呟く。
「『オーランド総合商社』が民間警備会社に警護を依頼してますが…ちょっと心配なので一ヶ月くらい護衛を頼みたくて」
「親父様」
「おう…明日の朝から四人PT編成の交代制で孤児院の護衛開始だ。孤児院のシスターにはガラシャが説明してくれ」
「分かりんした」
「え」
「わはは!ユウの頼みを断るわきゃねーだろ?」
「一同、誠心誠意を尽くし護衛に務めやしょう」
…清々しいきっぷの良さだ。
「ありがとうございます」
頭を下げて礼を言う。
「そういやぁソーフィもユウに会いたがってたっけな」
「へぇ」
「暇な時に行ってみたらいいんじゃねぇか?」
…その後、依頼金は要らないと突っ撥ねられたが説得し成功報酬金を払ってきた。以前、4000万Gの大金を貰ってるし当然だ。
うぷ!食べ過ぎてお腹いっぱい…。
腹ごなしの運動がてら転移石碑は使わず歩いて第2区画へ向かった。




