エンジの選択 ①
7月1日 午後16時更新
7月1日 午後19時53分更新
〜午後12時20分 勇猛会 客間〜
「わはははは!遠慮しねぇでいっぱい食えよ」
「ありがとうございます…」
豪華な海鮮料理と肉料理を前に狼狽える。
…昼飯ってレベルじゃないやん!宴会か祝賀会って感じの量と質だぞ?
「何を食べやすか?」
「…あ、自分で」
「気ぃ遣わんでええ」
ガラシャさんが受け皿に料理を取り差し出す。
「お口を開けなんし」
「え、えぇ…自分で食べま」
「わっちの好意を無碍にするでやしか?…黙って口を開けなんし」
めっちゃ強引に迫るぞこの人!?
「あ、あーん」
渋々、口を開けた。一切れの魚の身を咀嚼する。
「美味いでありんしょう?」
…美味い!ぷりぷりな食感と上質な味わいがグッド…新鮮で口当たりも非常に良いぞ。
「これなんて魚ですか?」
「銀鱗角マグロって魚だ」
「有名な海魚で美味いって評判なんよ」
海か…今度、遊びに行ってみようかなぁ。
「ユウが十三翼に選ばれた祝いだ!ほんっっと酒が旨くて仕方ねぇぜ」
瓶ごと豪快に飲むガンジさんはご機嫌だった。
「正直、俺は嬉しくないですけどね」
「なぜ?すごい偉業でありんすが…」
「ギルド設立でお腹いっぱいなのに余計な肩書きは要らなかったなぁ」
「…そんなこと言う冒険者はユー以外にいんせんわ」
少し呆れた口調だった。
俺は第8位を襲名した重みも価値も理解できない。
…いや、理解したくないのかも知れないな。
人の上に立つってのに向いてないのだ。高い地位をステータスと捉えれないし羨ましいとも思えない。
なんとゆーか…堅っ苦しくて嫌なのだ。
俺が会社で出世できなかった理由もそれだろう。
「本当にリョウマの旦那と瓜二つだ」
「え?」
「…実は旦那も十三翼に推薦されたことがあったんだぜ」
「『鬼夜叉』が?」
ガラシャさんが驚く。
「俺とソーフィが駆け出しの新米でリョウマの旦那が全盛期の時代だったなぁ…十三翼の第4位に『暴虐の血』って純血種至上思想で『雑種の他種族は奴隷だ』…って公言するひでぇ差別主義者の女でよぉ政治家・貴族と癒着し横暴に振る舞ってたんだわ」
うわぁ最悪じゃん。
「…罪のない一般市民と冒険者を虐げる『暴虐の血』の蛮行に怒った旦那が決闘を挑み勝利…その空いた第4位に襲名するよう先代の『金獅子』が推薦したんだが結局、契約者だって理由で叶わなかった」
「………」
「ま、リョウマの旦那はそれを喜んでたけどな」
気持ちがわかるぅ〜!
「『暴虐の血』…聞いたことがない二つ名でありんすが…」
「…『寛仁の血』のヨルシカ・ロシーヌは知ってるか?」
ガンジさんは笑って問う。
「世界中の紛争地域を渡り歩き窮困に喘ぐ人々を救った有名人でありんすね…今は聖都にいるとか」
「そいつが元十三翼ランカー序列第4位『暴虐の血』ヨルシカ・ロシーヌだ」
「え、えぇ!?」
「旦那に負け改心した『暴虐の血』は『金翼の若獅子』を辞めて『寛仁の血』の二つ名を世界に轟かせたのさ」
…リョウマさんって凄いな。
「旦那には人に認められてく不思議な魅力があったがユウも同じじゃねーか」
「え?」
「…歴代でも類を見ない癖が強ぇあの連中がほぼ賛成したって聞いてるぜ?」
「あー…」
「ましてユウはフリーの契約者……わはははは!見事にあの時の落胆と無念を晴らしてくれて痛快で仕方ねぇや!なぁ?」
こうも評価してくれると下手な謙遜は失礼、か。
「あ、はは」
乾いた笑いで誤魔化す。
「『冥王』を倒しヒャタルシュメクを攻略した冒険者やしねぇ…ふふふ」
ガラシャさんってば距離が近くない?
甘い香水の匂いで頭がクラクラする。
「お待たせしました」
あ、エンジが漸く……ふぁ!?
襖絵を開け恭しく一礼し香しい撫子が入って来た。
紫の艶やかな着物…薄い化粧…菫色の柔らかな髪…美少女って言葉以外、思い浮かばない。…元々、女の子と見間違う容姿だったけどさ。
「…どうですか?」
似合う以外の言葉が思い浮かばんわい!
「似合ってるよ」
「よかったぁ…変じゃないかって不安だったので」
「おうおう!ユウの隣に座れや」
右隣にエンジが座り微笑む。
「ふぅーん…へぇ…ほほぉ…」
「どうしました?」
俺たちを交互に眺め何度も頷く。
「…両手に花じゃねーか…ええ?」
確かに俺が侍らすのは勿体ない綺麗な花だろう。
喩えると花魁草と睡蓮って感じだ。
「そうですね。二人とも綺麗で可愛いし」
素直に認める。
「ゆ、悠さん…」
「…ま、真顔で普通は言わんせん」
「俺は可愛いもんは可愛いってはっきり言う」
素直な表現と言葉は大切だ。
「……」
「どうした?」
頰を染め不思議そうな表情でエンジは呟く。
「悠さんに褒められると…なんだか頰が熱くなって温かい気持ちで胸が一杯になっちゃう」
「?」
酒瓶を片手にガンジさんは真剣な顔で喋る。
「…事情は複雑だが俺ぁエンジとガラシャには幸せになって貰いてぇ」
それは当然だ。可愛い息……娘と義妹だもんな。
「ーーしかし、だ!」
酒瓶をテーブルに勢い良く置き力強く叫ぶ。
…え、酔っ払ってる?
「大事な家族を得体の知れねぇ軟弱な半端な野朗には任せられねぇ」
「…えっと、はい」
「ユウ」
真剣で威厳のある父親の貌だ。思わず姿勢を正してしまった。
な、何を言われるんだ…?
横に座るエンジとガラシャさんも予想外の雰囲気に顔を見合わせる。
緊張した空気が漂い、沈黙が続く。
「二人を嫁に貰ってくれや」
「ふぁっ!?」
「「!」」
すっごい笑顔でとんでもねぇ発言をしやがった!
「ユウは強ぇし人望もあって生活力がある……何より俺が気に入った漢だ!おめぇ以外にエンジとガラシャを幸せにできる野朗はいねぇ」
とち狂ってんのかなこの人。
「…大事な家族を重婚させる気ですか?」
「ふっふっふ…内縁の妻って知ってっか?」
どや顔で言うことじゃねーー!
「そ、そもそも二人の気持ちがあるでしょ」
「…それなら問題ねぇさ。なぁ?」
「「………」」
二人の顔が真っ赤だ。俯いてもじもじしてる。
俺に気遣って困ってるパターンじゃん。
もうやだこの酔っ払い親父ぃ!…愛想笑いで誤魔化しつつ食事会が続いた。




