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仕事して生活しよう!⑤



〜10分後 三又矛 私室〜


「…もう顔を上げて貰えます?謝罪の誠意は充分、伝わったので」


「ね〜。かなり笑える謝罪だったでしょって感じぃ」


けらけら笑うイージィ。


笑う前に思考フリーズしたわこんなん。扉を開けたらつるぴか頭が土下座してんだぞ。


「忙しいとこすまんのぉ」


「気にしないで下さい。…しかし、アルバートさんも随分と思い切ったな。…スキンヘッドに眉毛全剃りじゃないか」


「愚生の事はアルバートと呼び捨てで呼んで頂きたい!!…ユウ殿に敬称敬語を使われるなんて……恐れ多く顔を上げれませんッ!!」


…面倒臭いな。


「…アルバート。スキンヘッドと眉毛全剃りの理由を教えてくれ」


「はい!愚生の反省と謝罪…そしてユウ殿への敬服の表れですッ!!」


やらかした高校野球部の部員かっつーの。


「…わかった。もうそれで全部チャラにしよう。謝らなくて良いし堅苦しいのも一切なしだ」


「その…御心遣い…アルバート…感謝感激っ…!!」


再び頭を下げる。話を聞いてたのかこのハゲ。


「…でもさぁ…あーしらも超ビビったよね。アルバートを簡単にボコるんだもん」


「ふむ。Fランクでアルカラグモを単独討伐する猛者とは聞いてたが」


簡単…か。スキルと耐性が無ければ出血多量で死んでたと思うけど。


「悪いが俺は自分の事を他人に話したくないし詮索も嫌いなんだ。聞かないでくれると助かる」


「イージィ!!ドゥーガル!!ユウ殿を困らせるなよ!」


「…もう少し静かに喋ってくれるか?」


「はっ!!すみませんユウ殿!」


「此奴も一度惚れ込むと極端じゃからの……フィオーネ嬢もさぞ参っただろうに。儂らが至らなかったせいでもあるが」


「ほんっっとにね。あんだけ迫ったら普通に引くっつーの。言っても聞かないし」


「……返す言葉もない」


「大丈夫さ。フィオーネなら謝れば許してくれるって。一緒に行くか?」


「ユウ殿。御心遣いは嬉しいが愚生はフィオーネさんに話し掛けないとエンブレムに誓い決闘に臨んだ。決闘の取り決めは絶対。…如何にユウ殿が許してくれても…こればっかりは無しにはできぬ」


…冒険者ギルド法がどうとか言ってたな。


「手紙なら大丈夫じゃないか?俺が渡してやるから」


「………でも」


「一番に謝罪したいのはフィオーネだろ。ちゃんと渡すからさ」


アルバートの目から大量の涙が流れる。


「……ぐ、愚生ッ……はこん…なっ!優し…い゛…方に……なんっで…酷い事を…」


「泣くなよ。ほら座って…大丈夫か?一人で書けるよな…?…よし!書き終わるまで待つからゆっくり書けよ」


「は……ばっ…はい!!」


一人離れた席に座らせ手紙を書かせる。


「……手馴れとるのぉ」


「まぁ…うん」


よく仕事で部下の愚痴を聞いて慰めてたからな。パルキゲニアでそれを活かせるとは思わなかったが。


「アルバートって何歳なんだ?まだ若そうだけど」


「彼奴はまだ20歳の子供じゃよ。ユウは幾つじゃ?」


「30歳です。イージィさんとドゥーガルさんは?」


「儂らも呼び捨てで構わんよ。儂は70歳でイージィは43歳じゃ」


「4、43歳!?」


嘘やん。


「あーしは『夜魔族サキュバス』だからねぇ。夜魔族からしたらまだ子供みたいな歳なんだけど」


サキュバス……。まだ十代にしか見えねぇぞ。


「そう言えばちゃんと紹介してなかったわい。儂は『石竜子族リザードマン』のドゥーガル・ザンバじゃ。宜しくのぉ』


「あーしはイージィ・ジョー。よろしくねユウっち」


「黒永悠。改めて二人ともよろしく」


「珍しい名前じゃ。…してユウよ。あれ程、強いなら何故、紹介状を書いて貰わんのじゃ?申請すれば良いのに」


「だねぇ。Fランクとかあり得ないっしょ」


「……事情があってミトゥルー連邦の常識や法律がよく分からないんだ。それを学ぶ意味も含め自分のペースで仕事したいから」


「色々あるみたいじゃの」


「そーゆ事情なら分かんないことは教えたげるよ」


渋谷にいるギャルっぽい見た目に反しイージィは面倒見が良いらしい。


「そうだな…。じゃあ高位ランクとランカー候補について詳しく教えて貰って良いか?」


「おーけぇ。高位ランクはB〜AAAのGRを指すんだけどぉ 細かく分類されてて…。


B→BB→BBB→A→ AA→AAA


…こんな風になるわけぇ。あーしら三人はAランクのメンバーで構成されたPTって感じぃ」


「『三又矛』ってのは?」


「それはPTってもその場の依頼だけで組む即席PTじゃなくてぇ…討伐・採取・報酬金に関して利分条件を盟約した書類をギルドに提出してる正式なPTのことって感じぃ。きちんと利分を決めとかないと揉めるからねー。提出したPT名が『三又矛』だってわけ」


「なるほど」


「ランカー候補は儂から説明しとくかのぉ。Aランクから実力が高い者はそのギルドのランカーになる資格があってな。金翼の若獅子は1〜100位までランカー枠がある。アルバートは現在、空位である85位の候補だったんじゃ」


凄いじゃないか。


「まぁ今回の一件で話は無くなったがのう。ユウは何れランカーになるじゃろ。覚えておくとええ」


そんな予定は俺の人生プランにありません。


「……出来たぁ!ユウ殿!!出来ましたぁ!!」


手紙も完成し受け取る。


部屋を出ようとしたがアルバートが俺と話をしたがり面倒だがまた今度と約束をしてしまった。



〜金翼の若獅子 二階フロア〜



一階へ戻る途中で気になる光景を見掛けた。


ギルドガールと小さな女の子が何やら揉めている。あのゴシックドレスの少女は……アイヴィー?



「………だからさっきから言ってん…」


「アイヴィーは……問題な……」



二階に居るって事は高位ランクってことか。……まだ小学生ぐらいの女の子なのに凄い。


気軽に話かける雰囲気じゃないな。


一階の受付カウンターでフィオーネに手紙を渡す。


手紙を受け取ったフィオーネも最初は困惑していたが読むにつれ笑顔になりアルバートの謝罪を受け入れるとの事だ。


あのハゲメンも喜ぶだろう。


要件も片付いたし巌窟亭に行こっと。



〜午後 第2区画 巌窟亭〜



受付カウンターに座る仏頂面のモミジ。


「お疲れ様」


「おう」


「……なんか機嫌が悪そうだな」


「冒険者ギルドの野郎が難癖つけてきやがってよ。…ウサギの糞みてぇな鉱石を採掘して報酬金が少ねぇとかクレームにきたんだ。…引っ叩いて追い返してやったが……ああああ゛ムカつくぜッ!」


力強くとテーブルを叩く。壊れないのが不思議だ。


「…引っ叩いた奴って生きてるのか?」


「あ?知らねぇーよ。白眼で血ぃ吐いて倒れてたけど大丈夫だろ」


モミジの方がよっぽど冒険者向いとるやん。


さすが紅兜。


「悪いな。迷惑を掛けたみたいで」


「ユウが謝る必要ねぇーだろ。今日はどうした?」


「ああ。依頼品ができたから持ってきた」


「もうできたのか?一応、言っとくけどよぉ……オレの鑑定は厳しいぜ」


「ダメならやり直すよ。見てくれ」


腰袋から依頼品を取り出す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・悠の魔鉱鍋

・悠のロザリオ×20

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


モミジが目を細め真剣な様子で検品を始めた。


……緊張するが問題はない筈だ。


〜5分後〜


感心した面持ちで呟く。


「…魔鉱石と鉄鉱石で鍋を創ったのかよ。鉱石を混ぜ合わせんのは結構な技術が必要なのに……ムラも凹みもねぇし良く鍛えてやがる。…このロザリオは銀鉱石じゃねぇか。あんなショボい成功報酬金で……お前赤字だろこれ」


「採掘して手に入れた鉱石で元手は無料タダさ。依頼を受けたからには中途半端な仕事は嫌だしな」


「…………」


モミジが真剣な眼差しで俺を見る。


「……冒険者ギルドなんざ辞めてこっちを本職にすりゃいいのによ」


小声で呟く何か呟いた。


「ごめん。聞こえなかった」


「ケッ。……なんでもねぇ。問題ねーし依頼主に渡しとく」


やったぁあああ!!頑張った甲斐があったぜ!


「ほらよ」


成功報酬金の10万2500Gを受け取る。


ーーーーーーーーーー

所持金:59万5500G

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーー

職人ギルド

ギルド:巌窟亭

創作依頼達成数:2

受注依頼達成数:0

納品達成数:0

CP:100

ーーーーーーーーーーーーーー


初の職人ギルドの依頼達成…。


自分が作った品を評価されたのは嬉しい。ケーロンさんが言ってた通り俺に向いてる気がする。


あ、そうだ。モミジが荒れてた鉱石の採掘依頼の件だが俺なら力になれるかも。


「物は相談なんだが俺の持ってる鉱石を『巌窟亭』で使ってくれないか」


「………はぁ?」


「冒険者ギルドに依頼してモミジも苛々しなくて済むだろ」


「……いや、無理だ。職人ギルド法で冒険者ギルド所属のメンバーとの個人的な素材アイテムの売買は禁止されてる」


「無料でもダメか?」


「そんなんお前が損するだけじゃねーか」


意外と真面目だな。


「だったら預かってくれ。()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()。売買じゃないし『巌窟亭』は預かっただけだから違法じゃないだろ」


物は言い様だ。


「まぁ違法じゃないけどよぉ。…そこまでして…」


「損得じゃない。モミジには苛々するより笑って欲しいってだけさ。…理由はそれだけじゃ駄目か?」


兼業してる身として冒険者ギルドと職人ギルドのいざこざに巻き込まれたくない。


寧ろ仲良くして欲しいんだ。



「…………バッ………おま………はぁ……ッ!?」



モミジの顔が真っ赤に染まってく。


まるで紅葉みたいだ。


「大丈夫か?顔が赤」


「…う、うるせぇ!!こっち見んなッ!!!見たら殺すぞっ!?」


えぇ……。殺されるようなこと言ってないよね俺。



〜10分後 受付カウンター付近〜



「次回から採掘して余った鉱石は預けるからよろしく」


「…お、おう。わかったぜ」


落ち着いたモミジと再び話し合い次回から採掘で手に入れ余った鉱石は巌窟亭に預ける事にした。


俺は今ある手持ちを全部預けても良かったがな。


話し合いの最中にモミジは顔を背け続けた。


…俺の息が臭い訳じゃないよな?


まだ聞きたい事がある。理由はこれだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ベルカルビー(小)×2

・ベルカ周辺で採掘できる宝石の原石。

赤色に輝き希少価値が高い。加工する

事で更に価値が上がる。


ベルカファイア(小)×1

・ベルカ周辺で採掘できる宝石の原石。

青色に輝き希少価値が高い。加工する

事で更に価値が上がる。


ベルカモンド(極小)×1

・ベルカ周辺で採掘できる貴重な宝石の原石。

美しい光沢は光の屈折で輝き希少価値が高い。

加工する事で更に価値が上がる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


儲かる匂いがプンプンするぜ。加工すれば価値が上がるらしいが加工方法を俺は知らない。


モミジに聞いてみよう。


「まだ教えて貰いたい事があるんだけどいい?」


「…言ってみろよ」


「宝石の加工って難しいか?」


「宝石の加工?…あー…原石の状態にもよるな。色の改善…加熱処理…研磨…照射魔道具を使って加熱させて色を変えるんだ。難しい技術だし職人も少ねぇがオレなら出来るぜ」


「なるほど……。実はこれを見て欲しいんだけど」


「いいぜ。寄越せよ」


宝石を渡すとモミジはレーベを使い検分を始めた。


〜10分後〜


「……ユウ。これどこで手に入れたんだ?」


驚いた顔のモミジ。


「採掘してたら偶然、見つけた」


「偶然って…。こりゃベルカ近辺で採掘できる宝石の原石だ。…滅多に見つかんねぇのに四つも……一つはベルカモンドだしよぉ。かなりレアな原石だぞ」


「運が良かったな」


「運が良いなんてレベルじゃねーんだけどな。…どうすんだこれ」


「モミジに加工を頼んでも良いか?」


「オレに?…そりゃまあ…良いけど…オレより宝石の加工が上手い奴は『巌窟亭』に居るぞ。そいつに頼んだ方が確実だぜ」


「いや、モミジが良いんだ」


「…お、おまえ…また…そんな真顔で……」


口が悪くても責任感も強いし信頼できる。


「駄目なら無理して引き受けなくても大丈夫だよ」


「……い、いいぜ。…受けてやるよ。時間はかかるが……六日後には完成させっから取りに来いよ」


「おぉ!ありがとな。お金は幾ら払えばいい?」


「…ま、まぁ…オレも練習になるし…こ、今回はタダでしてやるよ…」


「いやいや!ギルドガールの仕事もしてやってくれるんだろ?きっちり払うよ」


「……なら鉱石の件もあっからそれと引き換えってことでいいだろ」


「でも」


「いいよな?」


ギロッと睨むモミジ。


…これ以上食い下がるとキレられそうだ。


「わかりました」


「おう。…そーいえばユウって歳いくつなんだ?」


「30歳」


「へ、へぇ」


「モミジは?」


「19歳だよ」


「…19歳ってそんなに若かったのか」


「12歳の時から『巌窟亭』で働いてっからよ。ま、オーガは成長が早ぇからな」


亜人でも種族毎に加齢に変化があるんだなぁ。


「12歳のモミジも見てみたいな。可愛かったろ?」


「ぐっ…!?がぁあああぁ!!か、か、からかってんじゃねーぞ!?」


「真面目に言ってんだけど」


「むぐぐぐ…っ!?あーーもうっ!!お前といると調子が狂うぜ!預かってやっからいけよ!!」


「…え!?まだ依頼を見てないって!」


真っ赤な顔で巌窟亭から追い出された。


依頼も受けたかったが戻っても怒鳴られそうだし……また今度だな。


そろそろ日没だ。家に帰って休むとするか。



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