新たなる翼 ③
6月23日 午前8時4分更新
〜15分後〜
定例会議が終わりユーリニスとフィンを除き他の面子が残った。
精神的な疲労が半端ないよぅ…胃が痛いよぅ。
「十三翼の新たなる翼の誕生だ」
「くくくっ…吾も感慨深いぞ!あの日、悠と出逢ったのは竜神の思し召しに違いない」
「ルウラのぐっとあいでぃあに感謝して」
三人のテンションがやけに高い。
「…そうですねー」
第8位の席に座った俺は項垂れ答える。
「もうテンションが低いよ!ほら、喜んで!」
ハイテンションなラウラが肩を揺らす。
「わーい…」
「これ程、心強い味方はいません。今後も公私共に絆を深めましょうね?」
…四人の喜ぶ姿を見たら悩むのも馬鹿らしく思えてくる…美男、美女、美少女ってずるい。
「ふっ…黒永殿ならば『冥王』も喜ぶであろう」
「ヨハネが?」
「あの敗北は百の勝利に匹敵する価値がある」
百の勝利に匹敵する価値?
「…己の檻を壊し自由になったのだ」
「?」
カネミツさんの表現って時折、難しい。
「黒永くーん…就任おめでとぉ〜」
「ミコーさん」
「ふぅ…同士が増えれば……多額の研究資金が…きっと給付される……ボクにゃん嬉しいにゃん」
賛成した理由が露骨だにゃん。
「…黒永殿を無駄な絡繰の研究に引き摺り込むのは感心せぬ」
「無駄?…無駄ってのはぁ…カネミツの剣術でしょ…」
「「……」」
俺を挟んで睨み合わないでぇ!?
「契約者が十三翼の座に就いたのは初かな〜」
「ヨロシクタノム」
「ばば〜〜んっとド派手な就任式をしなくちゃね〜」
顔を顰め答えた。
「…就任式ぃ?遠慮します」
「そんな嫌がる?『金翼の若獅子』の伝統なんだけど……」
「やりません」
「ええ〜〜」
「候補者が見つかるまでの代役だし」
「…カワリモノ」
「なんて言われても絶対にしない」
「ゆーってば照れ屋さん」
照れてねぇー!
「先ずは周知と通達が先でしょう」
「…ギルドメンバーの中には異例の措置に反感を買う冒険者もいるわ」
「暫く騒つくであろうな」
「同盟ギルドと傘下ギルドにも連絡しないとね」
盛り上がる面々を横目で見て溜め息を吐く。
「ま、成る可くして成る…だな」
「ゴウラさん…」
その一言に全員が黙った。
「選択し続けた結果っつーか……くくくく」
「…マスター?」
「俺もお前も自分の意思に関係なく背負っちまう運命なのさ」
皆は訳が分からないって顔だったが俺にはその言葉の真意が……ちょっとだけ解った気がする。
「…さて…会議も終わったし王宮に行ってくるわ」
「王宮に?」
「悠の就任祝いにちょっと…な」
ゼノビアさんの問いにそう答え部屋を出て行く。
…就任祝い?俺は首を傾げた。
「『金獅子』殿と黒永殿が……ふむ」
「無欲で他者に縛られず道理を力で伏せ押し通す強さがある……そう考えると悠と『金獅子』は性格が違えど本質が似てるかも知れませんわね」
「似てないよ」
ラウラがきっぱりと首を横に振って否定した。
「…悠が父と似てるなんてあり得ない」
「ふぁみりーへの接し方はだでぃと180度違う」
身内二人の評価は相変わらず芳しくないな。
「まぁ…なんだっていいさ」
「悠の襲名手続きはヨハネの退位処理と並行して僕が全責任を持って進める」
「よろしく頼む」
「ざっとだけど第8位になった悠には…『金翼の若獅子』五階の居住権・全施設使用許可権・転移石碑許可証のアップグレード・冒険者報償金増加・運営権の一部譲渡・指揮権の付与・国家間通行許可証…他にも」
多い!?
「あ、あー…正式なギルドメンバーじゃないし他の十三翼と同等の権利は要らない」
「…悠なら問題ないと思うけど」
「いや、駄目だ」
納得がいかない連中は必ずいる。『金翼の若獅子』みたいな大組織では尚更だ。
「エンブレムに誓いを唱えた所属登録者の顔も立てるべきだし他の候補者が見つかるまでの代役って点を強調した方が無難だ」
「……」
「過剰な見返りは要らない」
「君がそう言うなら…」
ラウラは不満そうだが俺が譲らないと察したのか渋々、納得した。
「殊勝な心がけね」
「…悠らしいと言えばそれまでだが」
「よろしく頼むよ……っと」
俺は席を立ち上がった。
「どこいくの?」
「ちょっと疲れたし今日は帰る」
アイヴィーとオルティナにも説明が必要だ。
「じゃあな」
獅子王の間を出て三階に向かった。
〜数分後 最上階 獅子王の間〜
エリザベートが喋る。
「何にせよ、だ…悠が十三翼の第8位に即位したのは我々にとって心嬉しい事柄に変わりない」
「…まあね!」
「いぇーい」
「ふふふ」
「…そのお陰で『瑠璃孔雀』と『貪慾王』が結託する可能性の懸念がある。パワーバランスの崩壊は良い結果を招くだけとは限らないわよ」
「はっ!ふぁっきんちぇりーなんて敵じゃない」
ルウラが自信満々に答えた。
「くっくっく…散々、苦渋を舐めさせられた吾としてはユーリニスの派閥の衰退は精々するがな」
エリザベートは嬉々として笑う。
「冒険者ギルド法改革が現実味を帯びてきて困るのは保守派の冒険者だけさ」
「……」
物事は単純じゃない。
清濁の清が増せば濁は影を潜め裏で暗躍する。この転機がどんな余波を及ぼすか想像が出来ないのだ。
ゼノビアはゴウラの忠義者。
カネミツ・ミコーは己の道を進むリベラル派。
ムクロ・デポルは争いを拒む穏便派。
ベアトリクスは極端な正義を貫く烈士。
ラウラ・ルウラ・エリザベートは変革を推進する革命派。
ユーリニスとフィンは変革を拒む保守派。
…第三者といえ平等を好み差別を嫌う悠は円滑な潤滑油の役割を担うだろう。
しかし、敵対視するユーリニスとは無理だ。フィンは今回の件で完全に革命派を敵視する。
知略に長けたユーリニスは純粋な力勝負はしない。
…ゼノビアは三人に自身の懸念を説明しなかった。
「新たなる翼が何を齎すか…楽しみだわ」
第8位の席を見て小声で呟いたのだった。
〜午後12時40分 金翼の若獅子 三階フロア〜
「待たせたな」
「…あ、悠」
アイヴィーとオルティナの様子がおかしい。
「にゃ、にゃ〜」
ミミちゃんまで挙動不振だ。
「…何かあったのか?」
「実はですね〜…『冥王』が急に来て…」
「あいつが?」
「いきなり土下座された」
「!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『…覚悟しろよ糞野朗。全員の前でアイヴィーとオルティナに土下座させてやる』
『上等ォ!…やってみろヨ…色惚偽善者』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…覚えてたのか。本当に実行するとは微塵も思ってなかったけど。
「『すまなかっタ』…って一言謝って行っちゃいました〜」
「ミミもびっくりしたにゃん」
「そっか」
律儀に義理を通したヨハネが男らしく思えた。
「それで会議はどうだったの?」
「…えっと、だな」
〜数分後〜
暫定で第8位に襲名したことを三人に説明した。
「………驚くことに慣れて最近は驚かなくなった」
「ぜ、前代未聞と言いますか〜…ギルドメンバーじゃない冒険者が十三翼……ほえ〜」
「………」
「…ミミちゃん?」
「白目を剥いてるよ」
戻ってこーーい!
「ーーーーはっ!?亡くなったお父さんが川の向こうで手を振ってたにゃ…!」
吃驚して臨死体験!?
「…え、ええええええ!?ユーが十三翼って…ええええええーー!」
ミミちゃんが目を見開き叫ぶ気持ちが分かる。
「俺も会議中に叫びたくなったぞ」
「ヨハネ様が退位してユーが第8位…異例の緊急措置って言っても異例すぎるにゃん…」
「あくまで候補が見つかるまでの代理だ」
「…フリーの冒険者をランカーに据えるって普通はあり得ない話ですけどね〜」
「悠は普通じゃないから」
「なるほど〜」
それで納得しちゃうんかーーーい!
「…兎に角、『金翼の若獅子』の職員とギルドメンバーには後で説明があると思う」
「うーー…今後はユーをユー様とか呼ばなくちゃいけないにゃ?」
「呼び捨てでいいよ」
背筋が寒くなるわ。
「良かったにゃ…きっと幼女嗜虐趣味の変態契約者のユーはミミにご主人様とか呼ばせて興奮するに違いにゃいし助かるにゃ」
「誰が変態契約者だって?ん?」
「や、やめふぉにゃ〜〜」
頰を左右に引っ張る。
「ユウ」
「…あ」
振り返るとネイサンさんが背後に立っていた。




