表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

282/465

強さの価値 ⑤

6月16日 午後16時更新

6月16日 午後22時28分更新



〜2時間30分後 カーネギー草原〜


激しい戦闘の爪跡で草原はすっかり荒れ果てた。


「あァ…?」


意識が覚醒し目を開ける。

太陽が沈み空には月が浮かんでいた。


「!?」


敗北者の自分が五体満足で生還したことが疑問で頭が混乱する。


「起きたか」


「…カネミツ…お前…?」


「状況を説明しよう」


遥か遠くを見据え淡々とカネミツは喋った。


〜数分後〜


「………」


「理解したか?」


「……できねェに決まってんだろぉがっ!?」


ヨハネは地面を叩き怒鳴り叫ぶ。


「テメェを殺そうとした奴を助けただと?…俺は本気で野郎をブッ殺すつもりだったんだゾ!?」


「……」


「命ぃ賭けて戦ってェ…こんな結末をっ…クソがぁっ……クソォォ!!…認められるわけ…!」


噛み締めた歯が砕けるほど悔しさを滲ませる。


「…『俺がどうしようと負けた奴に文句を言われる筋合いはない』」


「!」


「『死にたいなら勝手に死ね』……拙者の問いに黒永殿はそう答えた」


「………」


カネミツの言葉にヨハネは呆然とした。


「…勝手に死ね、か…」


「うむ」


最後は敵とも認識されていない。


生死を賭けた死闘は一人相撲…茶番で終わった事実が過去、二度の敗北で喫した屈辱を凌駕する。


今回の敗北は彼の心を惨く抉り磨り潰した。


裂傷・火傷・骨折・内臓損傷……どんな苦痛よりも耐え難い精神的苦痛に身が攀じ切れそうになる。


「…ヨハネよ」


「……」


「其方の戦う理由はなんだ?」


唐突なカネミツの質問に力なく答える。


「強くなりてェ…それ以上の理由があんのか?」


「…ふむ」


顎に手を当て再びとう。


「何故、強くなりたいのだ」


「へっ……お得意の禅問答か?悪ぃが答える義理はねェゾ」


「拙者にも分からん」


「……俺をおちょくってんのか」


「拙者も其方と同じ部類…只、強く…誰よりも強く最強の頂を目指し険しい道を歩んだ」


「……」


「しかし、誰に勝てば最強の称号は手に入るのだ?『金獅子』殿…それとも天地揺るがす魔物?…敗北し再戦を果たし次の強者を探す……結局は堂々巡りではないか」


普段は下らない言葉遊びと一笑して歯牙にも気に留めないヨハネだが耳を傾け黙って聴く。


「…実は先刻、拙者も黒永殿に問われたのだ」


「アイツに…?」


「答えに窮した拙者にあの御仁はこう答えた」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『何も背負ってない奴に俺は絶対に負けない』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「!!」


ゴウラが言った内容と同じ言葉だった。


「黒永殿は我々と違い他人のために力を奮う時に最も強さを発揮する…もし其方が家族を侮辱せねば勝てるとは言わぬがもっと善戦は出来たであろう」


「……背負う、か」


強さの価値は千差万別だ。正しい答えはない。


しかし、ゴウラと悠はその価値を知っている。


愛すべき人、仲間との絆、弱者への情…どれも戦場で不要な感情で裏切られ騙される。


親に捨てられ傭兵団に拾われ…そう学んだ。


…でも、本当にそれが正解だっただろうか?


難度が高い救難依頼を引き受け危地に身を置き牙を研ぎ続けた。


助けた連中の顔を一度でも見てれば…自分が他人に歩み寄れば…何かが変わって…?


「………」


三度目の敗北でヨハネは漸く答えの一端に触れた。


自らの意思で初めて過去を振り返り蔑んだ感情と向き合おうとしたのだ。


「憑物が落ちたような顔だ」


「チッ!うぜェ…」


悪態を吐き舌打ちする。暫し沈黙が続く。


「…そろそろ拙者もギルドに戻」


「カネミツ」


「む?」


「あの契約…いや、クロナガは強ェわ」


「……」


「笑いたくなるくれェ……完璧に…俺の負けダ」


清々しい敗北宣言だった。



〜夜20時30分 マイハウス〜



ヨハネとの決闘は俺の勝利で幕を閉じた。


まっすぐ家に帰りオルティナが作った美味しい夕飯を食べ温かい風呂に浸かって激闘の疲れを癒す。


…禍面・蛇憑卸に頼らず十三翼の一人に勝てたってのは大きな自信になる。


溜まっていたソロオーダーも片付いてきた。


残るはベアトリクスさんとミコーさん…モンスターハウスの依頼だな。


ぶっちゃけミコーさんの依頼が厄介だ。


力じゃ解決しない科学の分野だもんなぁ…。


…帝国の歴史とか技術について一度、ちゃんと勉強した方がいいかも?書斎で本を漁ってみよう。



〜夜21時25分 マイハウス 書斎〜



「……ふむ」


コーヒーを片手に帝国史の本を読む。


数百年前の本に記された内容だが斬新で面白い。


勉強は嫌いだけどこーゆーのは好き!


国語、英語、数学、化学が苦手だけど道徳とか歴史の科目が得意な中高生ってクラスに一人はいる……昔の俺とか。


「し、信じらんにゃい…今夜は雪が降るわよ…」


「悠が本を読んでる…」


「まぁまぁ〜」


ーーーきゅきゅきゅう?


扉の影から覗き見する三人と一匹。


アルマとアイヴィーはすごい顔をしていた。


「偶には本ぐらい読むっつーの」


「…大丈夫?頭は痛くない?熱は?」


「ないない」


どんな心配だよ。


「寝室でエッチな本を読んでるとき並の集中力ね」


「明日、アルマは風呂場でシャンプーの刑に処す」


「にゃん!?…動物虐待で訴えてやるわよ!」


寧ろプライバシー侵害でこっちが訴えたい。


年頃の娘と若い女の子がいる前で家主の恥部を赤裸々に暴露するのは悪魔の所業だ。


「どんな本を読んでるの」


「千年帝国の礎…ってガルバディアの歴史本だ」


色褪せた茶色い表紙を見せる。


「どうしてまた急に〜?」


「依頼で機械を修復するのに作業が捗らなくてな…興味本意で調べてみようと思ったんだよ」


「機械……あ〜〜!帝国の機械兵とかですね」


「雷で動く人形兵器を直してるの?」


「俺が直してるのは日常生活で使う類の物さ」


「…魔導具じゃ駄目なの?」


「私もそう思いますね〜」


…これが意識の違いってやつか。


「俺がいた地球じゃ機械技術や電気技術が発展してて…自動で部屋の温度を調整するクーラーだったり…映像を映すテレビや食材を冷やす冷蔵庫とか…とにかく生活必需品だったんだ」


「やっぱり魔法と魔導具で問題ない」


「うんうん〜」


説明が下手くそで意図が上手く伝わらなかった。


「…誰か来たわね」


二又の尻尾がピーンっと立ち呼び鈴が鳴る。


「ちょっと玄関に行ってくる」


こんな時間に誰だろう?


〜マイハウス 玄関〜


催促するように呼び鈴が鳴り響いた。


「はいはーい!誰で……」


急いで扉を開け言葉を失い固まった。


「こんばんわ」


怒りを堪え無理やり笑ってるラウラが立っていた。


間違いなく喧嘩の件で来たに違いない。


…あ、これ怒られる黄金パターンやん。


「ど、どうも…お疲れ様です…」


「お疲れ様」


「…え、えっとご用件は?」


「本気で聞いてる?」


淡々とした口調がめちゃくちゃ怖い。


「ほ、本気って…俺に思い当たる節は何も…」


「………」


「…どうぞ、中にお入り下さい」


往生際悪く誤魔化そうとするが圧力に負けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読ませていただいております [気になる点] 前の話を改稿した際にはせめて最新話に一文あるとありがたいです 読んでいて気になるのは、「あれ?話がつながらなくないかな?」と思って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ