仕事して生活しよう!④
〜二日後 マイハウス〜
この二日間はFランク依頼をこなした後は自宅に戻り鍛治と錬金に勤しんだ。
一気にやると魔素欠乏症になるからね。あれ死ぬほどきついから…。
Gランク依頼もなかった。
フィオーネ曰くGランク依頼を請け負うには依頼主の背景や状況も軽く確認してから依頼として処理するらしい。…ま、依頼がないのは平和な証拠さ。
ボッツ達も無事クエストを達成できたみたいだ。
特製ポーションをあげて良かったと思う。…決闘の一件を聞いて騒がれたが仕方ない。
フィオーネも元気に仕事をしている。ただ…軽食や弁当を作って持ってくるのが謎だ。
あまり気を遣うなと言ったが悲しそうな顔で…。
『ご迷惑ですか…?』
…と言われると断れない。断れる自信がない。
話が長くなったな、
今は工房で巌窟亭の創作依頼を達成すべく鍛冶仕事に熱中している。
〜夜21時 マイハウス 地下一階 工房〜
「だーー!やり遂げたぞこんちくしょー」
工房で叫ぶ俺。
遂に依頼の鍋とロザリオ×20を完成させた。
ーーーくぁー…にゃ。
対照的にアルマは興味なしだ。欠伸をして伸びている。
とりあえず鑑定してみよっと。
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悠の魔鉱鍋
・黒永悠が鉄鉱石と魔鉱石で創った鍋。
中華鍋をモチーフに作製した。魔鉱石を
使い鍛えたので熱の伝導性が良く均一に
熱しやすい。
悠のロザリオ×20
・黒永悠が銀鉱石で創った十字架。
銀色に輝き見栄えも整っている。
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「うんうん!これなら問題ないな」
我ながら良い出来映えだと思う。
本当は魔導具の錬成もしたいがモンスターの死骸と素材が足りず無理だったのでまた今度だ。
「錬成品は…と」
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・特製ポーション×10…回復量は低いが異常状態や病を治す。
・特製ハイポーション×8…回復量が高く一定時間は異常状態や病を無効にする。
・マジックドリンク×8…MPが回復する飲料水。
・赤色の活性剤×12…筋力が上昇する錠剤。
・青色の活性剤×2…魔力が上昇する錠剤。
・強力粘着液×6…粘着性の高い液体。
・魔石(大)×4…大きな魔力を宿した石。
・鋼石×2…鋼の石。
・玉鋼×2…かなり純度の高い鋼の石。
・リブライト結晶石×1…魔力が結晶した石。
・劇毒瓶×1…危険な劇毒の液体を詰めた瓶。
・麻痺瓶×3…麻痺させる液体を詰めた瓶。
・紫色の歪な種…歪んだ形をした紫色の種。
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ゴミクズと石ころは捨てた。使い道がないし…。
前から所持していた錬成品と合わせると結構な数だ。
鑑定内容を簡単に記載したメモを取り腰袋に仕舞う。工房を片付け掃除をした。
ーーーおわった?
「ああ」
ーーーお腹空いた。
「…太るぞ」
料理の味を占めてからアルマの食欲が半端ない。
ーーー失礼ね。太ってないわよ。
腹を撫でるが出会った当初に比べ肉が付いた気がする。
ーーー…にゃああああ……はっ!?気安く腹を撫でるなセクハラ家主!!
「お腹がぽよぽよじゃん」
ーーーあんたの気のせいよ。それよりご飯よご飯!
台所でアルマの夜食を作り自分は風呂に入って寝室に行く。
「明日は巌窟亭に行かなきゃな…ふぁ…疲れたし寝るとしよう…」
ベッドに横になり眠りについた。
〜翌日 午前8時30分 金翼の若獅子 一階フロア〜
「おはようございます。悠さん」
「おはよう」
受付カウンターで依頼の受注を行う。受注したのは西ベルカ街道に生息するバロウルフ…トードとバロバードの各三種の討伐依頼。
「はい。ではFランク依頼を三つですね。…それとお腹が空いたら食べてください」
美味しそうなサンドイッチを貰った。
「いつも悪いな。あとで頂くよ」
にこにこ笑うフィオーネ。
「お気をつけて」
西ベルカ街道へ向かった。
〜40分後 西ベルカ街道〜
ーーグェ!
ーーグァグァ!?
「…よっと!」
リッタァブレイカーで潰した蛙達が川に浮かぶ。
ーートード×8を討伐ーー
ーークエストを達成しましたーー
「討伐依頼は達成だ。…一撃で終わっちまうな」
死骸と素材を回収し転移石碑に向かった。
〜午前11時30分 金翼の若獅子 広場〜
出入国管理所から中央区画を抜け戻った。
一々、管理所を通すのは手間に感じるが密入国を防ぐ為にも必要な措置なのだろう。
小腹も空いたしフィオーネから貰ったサンドイッチを食べようかな。少し離れた場所にある屋根付きベンチがあった筈だ。
「おや…」
先客がいる。
分厚い本を読んでる9歳ぐらいの小さな女の子。
ゴシックドレスを身に纏い見える素肌は陶器の如く滑らかで美しい肌だ。銀髪の長く伸びた前髪が目元を覆い表情は伺えない。
…スペースはあるし座っても良いよね。
少女から離れた位置に腰を下ろしサンドイッチを取り出して食べる。
たまごサンドとハムサンド。
ハムサンドから食べてみよう。…うん。良い塩梅の味付けで美味しい。
視線を感じ横を見ると女の子が本から顔を離して俺を見ている。
「…………」
気にせず食べていたが…。
「……………」
ずっと見ている。流石に落ち着かない。
「…やぁお嬢さん。俺の顔に何かついてるか?」
「何もついてない」
「そっか」
まだ、こっちを見ている。
「…食べるか?」
お腹が空いてサンドイッチが欲しいのかもしれない。
たまごサンドを少女に差し出してみた。
「いらない」
全然、違いました。
「何でこっちを見るんだ?」
「…アイヴィーは不思議に思うから」
「不思議?」
「…アイヴィーと一緒に座って嫌じゃないから」
嫌も何もこのベンチは個人の物ではない。
公共物だ。先に座ってたのは…このアイヴィーって女の子だし。
「君を嫌がる理由がないよ。一緒に座ったら駄目なのかい?」
そう言うとアイヴィーは…。
「そう」
…と一言だけ呟き読書に戻った。
俺も食事に戻り沈黙の時間が続く。食事を終えタバコを取り出し火を着けた。
「ーー…ふぅ」
紫煙が揺らめき消える。美味い。
「…なぁ、その本は面白いか?」
暇だしアイヴィーに話し掛けてみた。
「……面白い」
「どんな本なんだ?」
「………孤独なお姫様のお話」
「そっか」
本なんて何年間も読んでない。読むとしても漫画ばっかだったなぁ。
タバコの吸い殻を携帯灰皿に捨て立ち上がる。
「俺は行くよ。またなアイヴィー」
「名前」
「ん?」
「…アイヴィーは貴方の名前を知らないから」
「俺は悠。黒永悠だ」
「…くろ…ながゆう…変な名前」
「変じゃないっつーの」
不思議な子だ。
どこか放って置けない雰囲気かあるってゆーか…。
少女が気懸りだったが本部施設へ戻った。
〜 金翼の若獅子 一階フロア 受付カウンター 〜
「はい。カードの確認も問題ないですね…討伐お疲れ様です。それとGPが100Pを超えたので昇格依頼を受けれます。どうされますか?」
クエスト依頼達成の報告を行うとフィオーネに聞かれた。
「GRが上がる依頼だっけ?」
「はい。FランクからEランクの昇格依頼は高位ランクとの面談及び質疑応答だけですので非常に簡単です。クリア出来ない方はまずいらっしゃらないですよ。悠さんが望むなら午後15時までに手配出来ますが」
「面倒だから今日はいいや。またの機会にするよ」
「ふふ。畏まりました。こちらが報酬金になります」
3000Gを受け取った。
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冒険者ギルド
ランク:F
ギルド:なし
ランカー:なし
GP:120
クエスト達成数:19
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所持金:49万3000G
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「モンスターの素材と死骸は全部、貰っておくよ」
殆ど売ってたが魔道具錬成の為にも集めとかなきゃ。
「はい。畏まりました」
「あとサンドイッチありがとな。美味しかったよ」
「喜んで頂けて嬉しいです。リクエストはありませんか?」
「…うーん。これ以上甘えるのも悪い気が……」
「……ご迷惑ですか?」
耳を伏せしゅんとした顔をするフィオーネ。
ちくしょう!ずるいぞそれ!
「あ…いや………フィオーネの作った料理なら何でも美味しいからリクエストはないかな…」
「!…分かりました。明日も用意しますね」
嬉しそうに微笑む。周囲の男どもの怨嗟の声と周りの女達の視線にも最近慣れてきちゃったよ…。
「いたし〜」
「…あなたは…イージィさんでしたっけ」
アルバートのPTメンバーの一人。小さな羽根を揺らしながら近寄ってきた。
「やっほー。フィオーネもこんにちわって感じぃ」
「こんにちわイージィさん。お一人で一階フロアにいらっしゃるなんて珍しいですね」
「あ〜二人も二階にいんだけどぉ……ユウっちに用事があってさ」
ユウっち…。30歳にその呼び方はきっつい。
「イージィさんがですか?」
「あーしっつーか……アルバートがね。ユウっちに会いたいんだって」
「悠さんに今更、何を…あ!まさか決闘の再戦を申し込むつもりじゃ」
「イヤイヤ!そんなんじゃないって。寧ろかなり笑える謝罪かなって感じぃ」
「……笑える謝罪ですか?」
「そそ。だからさ〜ユウっち一緒に二階いこーよ」
午後の予定は巌窟亭に納品するだけだし二階を見るのも悪くない。
「良いですよ」
「ありがとぉって感じぃ」
イージィと一緒に二階フロアに向かった。
〜金翼の若獅子 二階フロア〜
二階は一階よりも高級感がある造りになっていた。
まるで高級ホテルのフロントロビー。お洒落なカフェに空中庭園もあるじゃないか。
「ユウっち〜。ついてきて」
「あ、ああ」
雰囲気に飲まれてる俺とは違いイージィはどんどん進む。二階に滞在するメンバーも歴戦の強者みたいな雰囲気が凄い。高そうな服とか煌びやかな鎧を着てるし…。
「あいつが噂の…」
「アルバートと決闘して勝ったFランクの冒険者だろ」
「ふーん…へぇ」
「結構、イイ男じゃない」
周囲の話し声が聞こえる。落ち着かねー!
「ほら〜ユウっち〜。こっちだって」
待ってイージィ!俺を置いてかないで!
〜二階フロア 三又矛 私室〜
奥には多くの部屋が横並びしていた。
その一室の前に立っている。
「ここは?」
「AランクのPTやが使える私室って感じぃ。そこに三又矛って書いてっしょ」
あ、ほんとだ。凄いな高位ランク。
「ユウっち連れてきたよ〜」
扉を開き中に入る。
「ユウ殿ッ!!!先日の大変失礼な愚生の為業……深く深くっ!お詫び申し上げる!!フィオーネさんに恋心を抱き…勝手な振舞で周囲に迷惑を掛けっ………挙句逆上しユウ殿との力の差も分からず決闘を申し込んだ愚生の愚かしさ……そして勝利したにも拘らず…ッ…イージィとドゥーガルに…気にするなと申された……懐の深さッ!!器の違いを痛感した次第ッ!!……許しを乞う資格すら無いとは重々承知ではあるが…ッ!どうか…謝罪を聞き入れて!頂きたく存じ上げるッッ!!」
「…………」
一本角の生えたミディアムヘアーのイケメン。
俺の認識ではアルバートはそんな印象だった。
「…………アルバートさん?」
「はいッ!!」
髪が一本もない…スキンヘッドだ。眉毛まで剃ってるじゃないか。
イケメンがハゲメンに変わっていた。




